六花の魔女の情報
フェアトがトリィテの口にした魔女の二つ名に目を見開いたのとは対照的に、パイクたちの為に用意された持ち帰り用の食事に手をつけようとして、『おっと危ねぇ』と自分を戒めていたスタークはといえば。
「……六花の魔女? 誰だそ──」
本当に聞いた事がないのか、それとも単に忘れてしまっているのか分からない微妙な反応とともに、『誰だそれ』とトリィテに聞き返そうと──したその時。
「トリィテさん! 今、六花の魔女と仰いました!?」
ガタッ──という店中の客や店員、果ては厨房に立つ料理番までもが注意を引かれるほどの音を立てて身を乗り出したフェアトが、トリィテの顔に自分の顔を近づけながら今一度確認するべく声をかけた。
「え、えぇ。 言ったわよ……?」
一方のトリィテは若干だがフェアトの迫力に引き気味な様子だったものの、『どうどう』と自分と彼女の間に控えめに両手を掲げて抑えつつ肯定の意を示す。
「実は私たち、その六花の魔女を探してヒュティカに来たんです! この町のどこかにいるんですね!?」
それを受けたフェアトは、喜んでいるのか驚いているのかも分からない不思議な表情で更に詰め寄り、ヒュティカを訪れた一番の目的が六花の魔女と出逢う事にあるのだと明かして、声を大にして問いかけた。
「いや、あたしは別に──」
私たち──と妹は口にしたが、スタークは言うほど妹の先生には興味がなく、それを告げようとするも。
「姉さんは黙っててください!!」
「……へーい」
今までにないほどの覇気を纏った妹の声に、『駄目だこりゃ』と諦め手をヒラヒラと振らざるを得ない。
「そ、そんなに迫らなくても教えてあげるから、ね」
その一方、口調からも大人しい娘だと思っていたフェアトの豹変に驚きつつも、ここが衆人環視の場である事も考えて落ち着かせる為に優しく声をかける。
「……はっ、す、すみません、つい……」
「ふふ、いいのよ。 あの方はね──」
すると、フェアトはハッと我に返ってから周囲を見回し、客や店員が自分を見てクスクスと微笑んでいるのにようやく気がついて恥ずかしそうに顔を赤らめており、それを見たトリィテは彼女の可愛らしさに一人の姉としての包容力のある笑みを湛えて──。
──六花の魔女について知っている事を語り出す。
六花の魔女──と呼ばれ親しまれている魔法使いの女性は元々この港町、ヒュティカの生まれだった。
彼女はこの港町を随分と気に入っており、この国の王族や貴族から散々声をかけられていたが、その全てを頑なに断ってこの港町に居を構えているのだとか。
ある時は流行り病に冒された民を救う魔法の薬師として、またある時は嵐などの災害で破損してしまった家屋を修繕、補強する魔法の大工として──。
そして、またある時は──花のように美しく咲き乱れる六つの属性の魔法を自在に操り悪しき魔物や今回のような悪人を成敗する、魔導国家たる東ルペラシオにおいても最高クラスの魔法使いとして活躍する。
それこそが、六花の魔女と呼ばれるゆえんだった。
「……貴女は、六花の魔女様のお知り合いなのね?」
残念ながら──トリィテが語った情報の殆どはフェアトも知っている事であり、それを何となく悟っていたトリィテは控えめな声音で問いかけてみる。
「知り合い……と言えば知り合いですかね。 私たちのお母さんと、あの人が仲がよかったみたいで」
その一方、魔法が使えないのに『魔法の先生なんです』とは言えないフェアトは、ボカしながらも『母の知り合い』だという真実も織り交ぜて返答した。
「あら、そうなのね。 ちなみに、六花の魔女様は海がよく見える丘の上に魔法で家を建てて、そこで暮らしてらっしゃるわ。 最近できたっていう──」
それを聞いたトリィテは納得したように頷き、窓際の席だという事もあり気持ちのいい光の差す窓の外を見遣りながら、六花の魔女が住んでいるという丘がそちらの方にあるのだと暗に示しつつ──。
「──お弟子さんと一緒に」
「……はっ?」
一人暮らし──ではなく魔法使いとしての弟子をとって、その弟子と暮らしているのだと明かすも、それを受けたフェアトの表情から一気に笑みが消える。
それもその筈──フェアトが彼女に師事していた時に、『そうそう弟子はとらない』と言っていたから。
「で……弟子? あの人が弟子を……?」
「? えぇ、かなり幼い子だったようだけれど」
ゆえに、フェアトがいかにも『信じられない』といった具合の愕然とした表情を湛えて呟く一方、トリィテはきょとんとしつつもその弟子が少なくともフェアトやスタークよりも幼い子供だったと補足する。
(……どういう、事……? もしかして、この半年間あの辺境の地を訪れてくれなかったのは……)
フェアトは自分なりに──この半年、会いに来てくれなかったのはイザイアスのせいであり、トリィテの話からもそれで合っているだろうと踏んでいた。
しかし、もしかすると──。
新たな弟子の育成に専念し始めた事で、ろくに魔法を使えぬ自分の事など気にかけている場合ではなくなってしまったのではないか──と考えてしまう。
そんな悲観的な考えを持ってしまったからか、フェアトの表情は加速的に暗くなってしまい──。
「ど、どうしたの? 私、何か粗相を……?」
「……わた……ぎられ……」
気づかないうちに何かしてしまったのでは──と考えたトリィテが『大丈夫?』とおそるおそる声をかけるも、フェアトはブツブツ何かを呟くだけに留まる。
「……いや、あんたが悪いんじゃねぇよ。 こうやって考えだすと止まんなくてな。 気にしねぇでくれ」
「そ、そうなの? なら、いいんだけど」
一方、基本的に感情の機微には疎いスタークではあったが、それでも今の妹の思考は何となく読む事ができていた為、『しょうがねぇな』と溜息をこぼしつつフォローを入れた事で、トリィテは安堵していた。
ちなみに、フェアトが呟いていたのは──。
「……私、見限られたのかな……」
あまりにも、ネガティブな発言だった。
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