食事処を探して
その後、次の行動を決めたスタークとフェアトは港町の中心部を物珍しげに見て回りながら、そして若干の空腹感とともに食事処を探していたのだが──。
「──すまないねぇ、今は満席なんだよ。 お嬢ちゃんたち、この町に来たばかりなんだろう? うちの料理を食べていってほしいのは山々なんだけど……」
いざ訪ねてみた食事処はどこもかしこも満員御礼。
「いえいえ、それなら仕方ありませんから」
「本当にごめんね、空いてる時にまたおいで」
今も人当たりのよさげな恰幅のいい熟年女性に申し訳なさそうに断れてしまい、こちらまで申し訳なくなったフェアトは苦笑しつつ姉と一緒に店を後にする。
ちなみに食事処の店員との会話は全てフェアトが対応していたのだが、それが何故かと問われると──彼女の隣に立つ姉の表情を見れば一目瞭然であろう。
「空いてんだよなぁ、腹がよぉ……何軒目だ今ので」
「……五軒目ですね」
そう、スタークは限界寸前の空腹でかなり苛立っており、とても一般の人に向けていいようなものではない表情で干し肉をかじり続けていた為、怖がらせないようにフェアトが対応せざるを得なかったのだ。
そんな双子の会話からも分かる通り、すでに先程の食事処で五軒目──その全てが満席となっていた。
店内で美味しそうにご飯や酒を嗜む人々を見たスタークの機嫌は、みるみるうちに悪化してしまい──。
「この町のやつらはあれか? 同じ時間に食事処で飯食わなきゃいけねぇ決まりにでも従ってんのか? あ?」
ブチッと音を立てて干し肉を噛みちぎる、これが魔族だと言われてしまえば納得しかねないほどの姉の表情も、フェアトにとっては特に畏怖の対象でもない。
「そういうわけではないでしょうけど……」
だからこそ、その空腹感からか随分と荒唐無稽な妄言を口走る彼女に対しても、せいぜい苦笑いを浮かべて困惑を露わにするくらいで済んでいるのである。
翻って、フェアトとしてもここまで食事処が賑わっているのは気にかかっていたが、それについては何となくではあるものの想定自体はできており──。
「多分、さっきの処刑の影響なんでしょうね。 あのイザイアスとかいう男が処刑された事への喜び、もしくはあの男に殺された人たちへの弔いも兼ねて、とか」
おそらく、あの男の凶行による被害者たちが集まって、もう犠牲者が出る事はないのだと、これで犠牲者たちも安心して眠れるだろうという感傷を食事を通して分かち合っているのでは──と推測していた。
「……まぁ分からなくはねぇが」
そんな妹の確信めいた推論を聞いたスタークは、流石に殺された者たちや遺族に関して愚痴を言うつもりはないのか、少しだけ気まずげに栗色の髪を掻く。
「そもそも殺されたんなら復活させりゃあいいんじゃねぇのか? ほら、あの【蘇】とかいう魔法でよ」
とはいえ、あの辺境の地にいた頃から何度か死にかけた事も──何なら実際に死んだ事もあるスタークとしては、レイティアが何の気なしに多用していた蘇生魔法、【蘇】を思い返しつつ妹に話を振った。
確かに──もしも、この町にレイティアがいたのならば、たとえ今は墓の下に眠っている亡骸であっても傷ひとつなく復活させる事も可能かもしれない。
だが──いない者にどう頼ればいいと言うのか。
「……そう上手くはいきませんよ。 死者を蘇らせる事を可能とするほどの力を持つ魔法使いなんて、一つの国につき二桁いればいい方だそうですし」
何より、フェアトが口にしたように死者を蘇らせられるほどの力を持った魔法使いなど、この魔導国家においても三桁に満たないらしく、それでも二桁にすら届くか怪しい他国に比べればマシであるようだ。
補足するのなら、【蘇】を行使できるほどの魔力や技量があったとしても、それが回復に長けた光や水、或いは【蘇】に限り高い効果を発揮する雷に適性がなければ、というのが現実であり──。
「お母さんが当たり前のように使っていたから感覚が麻痺してるんだと思いますけど、そもそも光の使い手自体が希少なんです。 全体の一厘にも満たないとか」
そもそもヴィルファルト大陸の総人口、およそ一千万と二十万人の一厘──要は一万と二百人ほどしか光属性の適性は持っておらず、その中で【蘇】を行使できる使い手となると更に限られてしまう。
加えて言えば、その殆どが大陸の中心に位置する大国──聖レイティアに居を構えているらしく、国内であれ国外であれ高い金を払わなければ行使しないという者が殆どらしいとフェアトは母から聞いていた。
「ほーん……まぁ何でもいいが」
そんな中、色々と聞いたのは自分であるにも関わらず、スタークが興味なさげに欠伸する一方で──。
『『りゅう〜……』』
「貴女たちもお腹空きましたよね……この町にいくつ食事処があるか分かりませんけど、そろそろ……」
未だ人目がある為に剣、或いは指輪となったままのパイクとシルドが、いかにも元気なさげに間延びした声で鳴いてみせた事で、それを察したフェアトは申し訳なさそうな表情とともに指輪の一つを撫でる。
「……あれも食事処じゃねぇか? 行ってみようぜ」
「あ、ちょっと姉さん!」
その時、顔を上げたスタークの視界に明らかに食事処だという事を示す看板を掲げた店が映り、『あそこも駄目だったらどうしてやろうか』と言いたげな早足でへ向かい、少し遅れてフェアトも姉を追いかけた。
その食事処の名は──“ミールレック”。
図らずも、この港町では知る人ぞ知る隠れた名店だったのだが──そんな事実を双子は知る由もない。
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