追跡か収集か
咎人の処刑が終わりを迎えた事により、ヒュティカの民衆が一人、また一人とイザイアスを捕らえてくれた騎士団や、イザイアスを処刑してくれたセリシアに感謝を口にしながらこの場を後にしていく中。
騎士たちや衛兵たち、または自警団たちがクラリアの魔法で砕けてしまった石畳の補強、或いは完全に粉末レベルまで斬り刻まれたイザイアスだったものに布を被せたりしているのを見ていたスタークは──。
「あの処刑人も並び立つ者たち、か──どうする?」
すでにこの場を離れた処刑人の姿を脳裏に浮かべつつ、『団長もグルじゃねぇだろうな』と処刑台の上から指示を出すクラリアを睥睨しながら妹に話を振る。
「私たちが取れる行動は……二つですね」
そんな姉からの言葉に対し、フェアトは『ふむ』と唸って顎に手を当て思案していたが、そこまで時間もかけずに右手の人差し指と中指を立てて自分たちが取るべき行動が二択あるのだと示してみせた。
「二つ……? いやいや一つだろ。 あの処刑人か騎士団長、どっちでもいいから人気の少ねぇところに誘き出して、正体暴いて元魔族ならボコボコに──」
しかし、かなりの脳筋のスタークとしては『暴力で正体を吐かせる』以外の選択肢はなかったらしく、どちらが悪か分からない物言いをしようとするも──。
「──無理だと思いますよ」
「は?」
至って真剣な表情で首を横に振る妹に、スタークは理解が及ばないといった具合に口をポカンと開ける。
そんな姉の一挙手一投足に呆れつつも若干の愛おしさを覚えていたフェアトは、それを誤魔化す為に深めの溜息をこぼし、『いいですか?』と指を立てる。
「姉さんは気づいてないんでしょうけど……ほら、あの男の服も処刑台も裁断機も……あの処刑人が何かをするまでは全く傷がついてないですよね?」
そして、その指を処刑台の方へ向けながら布の下から僅かに見えるイザイアスの服と、あれだけの威力を持つ光の斬撃で傷ひとつない処刑台や裁断機を見るように促すと、スタークは目を細めてそれらを見遣り。
「……あぁ、そういや……つっても、お前も似たような事できるだろ? もっと言やぁ、お前の方が──」
何なら今この瞬間に気がついたのか、いまいち要領を得ないままに納得したようなしていないような素振りを見せた後、『身につけたものも傷つかない』のは妹も同じだし、妹より頑丈なものなど存在しないとさえ考えていた為に、そんな旨の発言をしようとした。
「──できませんよ」
「……何でだよ」
だが、スタークの言葉は他でもないフェアトによって否定されてしまい、それを聞いても腑に落ちない様子のスタークはガリガリと髪を掻きつつ問い返す。
「私ができるのは身につけている服や靴、装飾品を傷つかないようにするだけです。 でも、あの男は処刑台や裁断機といった触れているだけのものすらも──」
「……傷つかないようにできる、か?」
すると、フェアトは服の裾を摘みながら、『傷つかない』という体質は『身につけているもの』にのみ適用されるが、イザイアスの場合は『触れている全てのもの』に適用できるのではと踏んでいると口にし。
単純な【盾】としての役割だけなら──自分の上位互換だと言っても過言ではないとさえ考えてもいた。
その後、フェアトは姉の言葉を肯定すべく頷き。
「そして、あの処刑人はそんな力を持った男を簡単に両断してみせました。 もし……もしもですよ?」
ようやく自分の言いたい事が脳筋な姉に伝わった事に安堵しつつ、フェアトはいよいよだとばかりに姉が口にした行動がいかに無謀であるかを諭す為──。
「あれが姉さんだったらどうなってたと思います?」
イザイアスの位置にいたのがスタークだったなら。
──と、言い聞かせるように告げてみせた。
尤も──もし、スタークがイザイアスの立場だったのなら【光斬】の時点で消滅していたのだろうが。
「両断じゃ済まねえ──ってか? そりゃあそうかもしれねぇがな……そういうのも覚悟の上だろうがよ」
無論、スタークとしても魔法やそれ以外の力に対する打たれ弱さは理解していたが、並び立つ者たちとの戦いに身を投じる限りは多少の怪我や瀕死くらいは避けられないだろうとも覚悟していたのだった。
それこそ、怒赤竜と戦った時のように。
とはいえ、フェアトにも譲れぬものがあるようで。
「だとしても、です。 この子たちの【癒】がお母さんのそれより劣る以上、【蘇】も絶対とは言えないんですよ? そんな賭け、私はしてほしくないです」
今は持ち上がっていない自分の左手に嵌められた指輪と、スタークの腰に差さった剣を見遣りつつ、パイクたちの魔法は充分に凄いがレイティアには及ばない事を考えると、自分はともかく姉は助からない可能性もあるだろうと口にし、一つ目の案を否定した。
「……わーったよ。 で? 二つ目ってのは?」
一方、スタークは妹が挙げた『二択の行動』の一つ目は自分が思いついたものと同じ強行策だったのだろうと、そして妹は自分を慮ってそう言っているのだろうと読み取れていた為、少しだけ照れ臭そうに軽い溜息をこぼしつつ、二つ目の案が何かを尋ねる。
「あの処刑人は騎士団だけでなく町中の人が知っていました。 なら、この町の人の誰に聞いてもある程度の情報収集が可能な筈です。 そう思いませんか?」
すると、フェアトは先程までのヒュティカの民衆の騒ぎを脳裏に浮かべながら、『食事でもしながら情報を集めましょう』と当初に話していた腹ごしらえを兼ねての情報収集を得意げな表情と声音で提案するも。
「……お前、ついでに先生の情報が欲しいだけだろ」
「そ、そんな事ないです。 さぁ行きましょう」
どうやら妹の考えも姉には筒抜けだったようで、ジトッとした視線で睥睨しつつ顔を近づけながら、『違うか? ん?』と問い詰めるが、当のフェアトは顔を赤らめながらもそれを否定し、踵を返して歩き出す。
図星だった──のは間違いないだろうが、それ以外にもあの処刑人に今は手を出さない理由があった。
あのイザイアスと呼ばれていた愚者がいた以上、魔族たちが悪ではない──とまで言うつもりはないが。
(それに──見極めも必要だろうし、ね)
並び立つ者たちの全員が全員、討ち倒すべき敵ではないのかもしれないという事についての見極めをしなければならない、と考えてしまっていたから──。
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