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幕を開ける二つの戦い

(人物紹介や魔法の解説を含めて)100話到達です!


これからも本作品をよろしくお願いいたします!

 時は少し遡る──。



 具体的には、城内の見学を終えたスタークが、リスタルとともに豪華な夕食を頂いていていた辺りまで。


 フェアトは、クラリアと二人で訪れた冒険者の集会所の所長、片耳の森人エルフのガレーネと出会った後、王都を去っていく者の護衛についた者たちや、この王都の周辺に生息する獰猛な魔物の牽制に出向いている者たちを除いた冒険者とともに、かの通り魔を討つべく。


 決して一般人に被害を出さぬ策を立てる為、昼食から夕食に差し掛かるほど長い時間をかけての会合を繰り広げていたが、ようやくその会合も終わりを迎え。


 ガレーネ、クラリア、そしてフェアトを中心とした会合に区切りをつける為に、ガレーネは立ち上がり。


「──と、いうわけで何としても今夜中に終わらせたいんだ。 ここにいる冒険者だけじゃなく、クラリアを始めとした騎士団も協力してくれる……いけるね?」


「「「おぉ!!」」」


「「「はい!!」」」


 通り魔の正体が復活した元魔族だ──という俄かには信じられない事実を明らかにしても、ガレーネからの強い信頼のこもった発破のかけ声に対し、それぞれの得物を掲げて性別も問わず冒険者たちが呼応する。



 そんな彼ら、もしくは彼女らを見たフェアトは。



「……冒険者って、こういう感じの人たちなんだ」


 誰に聞かせるつもりもない呟きだったからか、そこには普段の敬語もなく年相応の少女の言葉のようにも思えて、それを偶然に聞いていたクラリアは呆気に取られていたが、ほんの少しだけ苦笑しつつ口を開き。


「敬語を忘れてしまうほどの驚きだったか?」


「え──あっ!? す、すみません……」


 決して長い付き合いではないものの、ここまでの道中で一度も耳にした事のなかった何気ない呟きに対するクラリアの反応に、これといって悪い事をしてしまったわけでもないのにフェアトは思わず頭を下げる。


「いや、こちらこそ目敏くしてすまない。 冒険者を見るのも初めてなら、それも無理はないと思ってな」


「そ、そうですかね……」


 そんなフェアトに対し、クラリアは逆に申し訳なさそうに同じく謝りつつ、フェアトたちの境遇を考えればその反応にも不思議なところはないと告げ、それを聞いてもなおフェアトが後ろめたそうにしていた時。


「そうそう。 どういう前知識を持っていたかは分からないけど、ほんの十五年前までは冒険者とは名ばかりの野盗一歩手前みたいな子たちも多かったからねぇ」


 人間より遥かに優れた五感を持つ霊人の一種、森人エルフのガレーネは離れた場所からでも、そして冒険者たちと話をしている最中でも二人の会話が聞こえていたらしく、フェアトをフォローするべく話に割り込んだ。


 要は、フェアトが冒険者を『野蛮な人たち』と思っているかもしれないと踏んで、それは十五年ほど前までの事であり今は違うんだと言いたかったのだろう。


「今は彼らも少数精鋭だからな。 それこそ私の部下たちにも劣らぬ気概を持つ者ばかりで……まぁ、その煽りを受けて冒険者崩れの【傭兵】も増えてはいるが」


「なるほど、だから傭兵さんたちには声を……」


「かけなかった、ってわけだね」


 すると、クラリアも彼女のフォローに乗じて『うんうん』と首を縦に振りつつ、かの通り魔を討つ策を取る為に忙しなく動き始めていた冒険者たちを部下の騎士たちと比べても同等かそれ以上だと称賛し、その後で【傭兵】というまた異なった職について言及する。


 たった今クラリアが口にしたような『少数精鋭』になれなかった者たちが、この平和を装った世界で傭兵として多く活動しており、お世辞にも誠実とは言えない者どもばかりゆえに今回は要請を見送ったとの事。



 そして、そんな井戸端会議が一区切りついた頃。



「……さぁ、そろそろ私たちも動くとしよう。 かの通り魔は並び立つ者たち(シークエンス)なんだ、フェアトを始めとした私たちが率先して動かないなど何の笑い種にも──」


 ならない、と手を叩いたクラリアが二人に発破をかけつつ、【ジカルミアの鎌鼬かまいたち】討伐作戦の主柱となるのが自分たち──もっと言えばフェアトなのだと口にして、いよいよ作戦行動を開始しようとしたのだが。



 ──バンッ!!



 突如、勢いよく開かれた集会所の扉が立てた大きな音に、フェアトを始めとした全員の視線が集まった。


 そこで、まぁまぁ体格も良く前衛なのだろう男性冒険者が息を切らして膝をついており、その冒険者は何故か左脇腹の辺りを手で押さえてうずくまっている。


「……どう、したの? 外で何かが──」


 しばらく集会所を支配した沈黙を真っ先に破ったのはガレーネであり、たたっと身軽な動きで彼に近寄りつつ『一体、何事なのか』と問いかけた──その時。


「──……で、出たんだ……」


「!!」


 冒険者は途切れ途切れの掠れた声で必死に何かを伝えようとするも、ガレーネは彼が押さえていた脇腹がどうなっているか見えており、それで全てを察した。


「【ジカルミアの鎌鼬かまいたち】が、出た……!」


「「「なぁっ!?」」」


 そして、ガレーネの予想と寸分の狂いもない彼の決死の報告に、まさに作戦行動へ移る瞬間だった冒険者たちの驚きの声が重なって、この集会所に響き渡る。



 彼の脇腹は、あまりにも深く削られていた。



 その後、少し遅れて集会所の外で起こっているのだろう騒ぎが届き、それを耳にした冒険者たちは次々と王都を護る為に、そして通り魔を討つ為に動き出す。


「先手を打たれたな……向こうは、そんなつもりなど毛頭ないのだろうが……フェアト、私たちも──」


 そんな中、【風伝コール】を行使して騎士たちを動かし始めていたクラリアが、これでもかというほど悔しげな表情を浮かべつつも、ここにいる誰より重要な存在である少女の戦う意思を確認するように声をかけたが。



「……大丈夫ですよ、クラリアさん」


「……フェアト?」


 

 当のフェアトは、ほんの少しも焦っていなかった。



「だって、こういう時──」



 彼女の姉の、スタークならば──。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 場面は、ジカルミア王城の謁見の間へと戻る。



「……何で、お前がそれを知ってやがる」


 言葉を発する事さえできないほどに驚いているノエルを尻目に、スタークは自分たちの素性を言い当てられた理由を、ふんぞりかえって玉座に腰掛ける元魔族のナタナエルへと問いかけたが、それに対して彼が。


「……否定もせんか。 何とも清々しい事よ」


「っ、では本当に……!?」


 くつくつと喉を鳴らしつつ、あまりに唐突な自分の発言を全く否定する様子のない少女の豪気さを称賛する一方でノエルはついていけず、ただ驚いている。


 しかし、よく見ればスタークには十五年以上も前に共闘した事のある勇者ディーリヒトの面影があり、そう言われれば納得せざるを得ないとも思っていた。


 そして、そんな彼女と双子のフェアトも──。


「……余計な口を利くな、あたしの質問に答えろ」


「ふむ……」


 ノエルがそんな想像を広げていたのを察しているわけではなかろうが、スタークが感情が抜け落ちたかのような無表情でナタナエルを睨みつつ催促すると、それを受けた彼は少し思案するような仕草を見せた後。


「……まぁ、よかろう。 これも、【契約】の一つだ」


 どうやら、ナタナエルとネイクリアスの間に交わされていた【契約】の中には、『この【契約】が露見した場合、隠し立てはせず迎え撃つ。 されど殺さず』という誓約があったようで、その誓約に従って彼女からの質問に素直に答える事に決めたらしく、語り出す。



 並び立つ者たち(シークエンス)の序列十四位、ナタナエル。



 彼が魔王から授かった称号は──【月下美人ノクターン】。



 その称号により与えられた力とは、これまでに命を落とした全ての同胞──並び立つ者たち(シークエンス)が持つ全てを奪い、それを自らの物として夜間のみ使いこなす事。



 称号の力も、その魔法の腕も、これまでの経験も。



 ──記憶も。



 しかし、『命を落とした同胞』とはいっても転生前に奪っていた力は失われており、どうやら転生後の世界で命を落とした同胞の力のみを奪っているようで。



 つまりは、スタークたちが斃したジェイデンやトレヴォンの記憶から、スタークたちの素性や聖女が生存している事実、双子が持つ人間としてはありえない異質な力などなどを知ったのだ──と、語ってみせた。


 あくまでも自分のものだと言わんばかりに玉座へ腰掛けた彼の、さも常識だというような物言いでの自己紹介を、スタークやノエルが黙って聞いていた時。


「……それにしても、まぁ随分と冷静ではないか。 ジェイデンやトレヴォンの記憶では、とても落ち着いているように見えなかった。 もう片方の娘と違ってな」


 ナタナエルは、ジェイデンの記憶で見た双子の性格を鑑みて、どうにもスタークが落ち着きすぎているように感じたらしく、フェアトと対照的な性格である筈のスタークの冷静さに違和感を覚えて問いかける。


「……別に、そこまで冷静でもねぇよ」


 しかし、スタークとしては特に冷静だったわけでもないようで、『お望みなら殺してやろうか』と言って腰に差した半透明の剣──パイクを抜き放ってから。


「……ただなぁ──」


 その剣の鋒を、まだ少し距離のある玉座に腰掛けるナタナエルへと向けて、『自分が冷静な理由』を語る為、駄目だと分かってはいつつも口角を少し上げる。



 そして今、双子の声が時間差で交差クロスする。



『こういう時、姉さんなら──』



 かたや、あくまでも冷静沈着に──。



「こういう時、うちの妹なら──」



 かたや、どうにも愉悦を隠せずに──。



『──他の誰より愉しげに笑うんでしょうから』


「──他の誰より落ち着いてるんだろうからな」



 それらを口にした時間にこそズレはあれど、お互いが評価した通りの反応を双子は見せていたのだった。



 お互いがお互いをどこまでも深く深く理解する、そんな双子が主柱となる二つの戦いが幕を開ける──。


「よかった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、評価やブックマークをよろしくお願いします!


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一作目となる↓もよろしければどうぞ!


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