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攻撃特化と守備特化、無敵の双子は矛と盾!  作者: 天眼鏡


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違和感の正体

 それから、およそ数時間後──。



 普段なら絶対に入れないような場所だったりの見学などをリスタルの案内で楽しんだスタークは、そのままの流れで二度目の夕食を頂く事になったのだが。


(……そういや戻ってこねぇな、フェアト(あいつ))


 夜も更けそうだというのに、ヴァイシア騎士団を訪ねる為に出かけた筈の妹が帰ってこない事に疑問を抱く中、全く同じ疑問を抱いていたらしいリスタルは。


「ねぇ、フェアトは? まだ戻ってこないの?」


「え、あぁ、それは……」


 夕食が全て運ばれる前に、ハキムが遣わせたという三番隊の騎士たちに対してフェアトの行方を問うた。


 すると、それを受けた騎士たちは何かを濁すように言い淀んでいたものの、チラッと横目でフェアトの姉であるスタークを見てから意を決したのか口を開き。


「……フェアト殿は冒険者の集会所にて夕食を取られるそうです。 『ご一緒できず申し訳ないです』、と」


「……そっか、それなら仕方ないね」


 嘘と真を交えているかのような彼の説明に、リスタルは一瞬だけ首をかしげはしたが、いかにもフェアトらしい謝罪の伝言を聞いた事で納得したようだった。



 しかし、スタークがそれで納得する筈もなく──。



「……」


「「「……っ」」」


 露骨なほどに眉を顰めて睨め付けている事に騎士たちも気づいていたが、あまりの気迫と鋭い眼光に気圧された彼らは図らずも視線を逸らしてしまっている。


 その後、王女との二人きりの晩餐を終えたスタークは、そのまま王女と二人きりで入浴する事になった。


 スタークは、その間も常に高い位置にある浴場の窓を見遣って警戒していたが──ついぞ、あの白い猫が浴場に姿を現す事はなく杞憂に終わったのだった。


 それから、『一緒に寝ようよ』と頼み込んできたリスタルの願いを、『寝相が悪いから』という適当な理由で断ったスタークは、しゅんとしつつも納得してくれたリスタルと別れてから、ノエルと合流を──。


 ……する前に、『リスタル様の護衛に』とハキムが遣わせた三番隊の騎士たちと会話を繰り広げていた。


「──じゃあ、うちの妹は……」


 その内容とは、もちろんフェアトの行方と動向についてであり、つい先程に彼らから聞いた話を再確認するような声を上げると、そのうちの一人が口を開き。


「はい。 団長やハキム様、及び冒険者の方々とともに城下町にて【ジカルミアの鎌鼬《かまいたち》】の捜索兼討伐をと」


「そうか……」


 ゆっくりと首を縦に振りつつ、『リスタル様の前では申し上げられませんから』と明かし、フェアトは騎士団や冒険者と協力して通り魔を見つけ次第、討伐する算段なのだと説明した事で、スタークも納得する。


「スターク殿は、この後どうなされるのですか?」


「やはり、スターク殿も参戦を……?」


「あ? あー……」


 そんな折、何人かの騎士がスタークの今後の動向について尋ねると、スタークは栗色の髪を掻きながら。


「あたしは、その戦いに参加しねぇ──っつーか、できねぇ。 他にやんなきゃいけねぇ事があるからな」


「そう、なのですか?」


「あぁ、悪ぃな」


 通り魔の捜索にも、そして討伐にも協力はできないし、するつもりはないと告げた事で、ハッキリと騎士たちから残念そうな感情が伝わってきたが、スタークにも譲れないものがある為、手を振って踵を返した。



 が、すぐにスタークは立ち止まり顔だけを向けて。



「……あぁそうだ。 もし、あんたらの中の何人かでも通り魔の方へ向かう事になったら妹にこう伝えてくれよ──『こ(・)っ(・)ち(・)は任せろ、お前は好きにやれ』って」


「……! はっ!」


 何気ない妹への伝言──事情を知らぬ者なら、そう思っても無理はないが、それを受けた騎士の一人は彼女の言葉の真意に気づき、胸に拳を当てて敬礼する。


 彼女もまた、この王都のどこかにいるのだろう別の何かとの戦いに身を投じるのだと察したから──。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 騎士たちと別れたスタークが薄暗い王城の廊下を歩いていると、ちょうど同じような歩調で彼女の進行方向とは反対側の方から何某かが歩いてくるのが映る。



 何某か──とは称したが、もはや言うまでもなく。



「……よぉ、ノエル。 覚悟はできてるか?」


「えぇ、もちろんですよ。 スターク殿」


 昨夜に見た時と同じ角灯《ランタン》を手にしたノエルは、スタークの問いかけに対し覚悟も決意も強く込めた表情と声音を持って答え、『向かいましょう』と踵を返す。


「……申し訳ございません、スターク殿」


「……? 何に対しての詫びだ?」


 おそらく今夜も謁見の間にいるのだろう陛下──もとい並び立つ者たち(シークエンス)の下へと向かう最中、唐突に口を開いたノエルが自分に謝意を述べてきた事に、スタークは何が何だか分からず首をかしげて真意を問うた。


「陛下をお救いするのは本来ならば私ども近衛師団が為さねばならぬ事です。 それを……いくら強者であるとはいえ貴女のような少女の手を借りてしまう事に」


 どうやら、ノエルは未だに自分の不甲斐なさを悔いているようで、かの通り魔から王族たちを救えなかった事も、ネイクリアスの心を乗っ取られてしまった事も含めて戦いが始まる前に謝りたかったのだと語る。


「……気にすんなよ。 それに、あいつらが蔓延りやがったのも元はと言えば──あぁいや、何でもねぇ」


「……? そう、ですか」


 それを受けたスタークは、あまりに彼が不憫であるように感じて思わず並び立つ者たち(シークエンス)が復活した原因や自分たちの素性を明かしかけ、そんな彼女の様子にノエルは違和感を覚えるも特に言及はしてこなかった。


「そ、それよりだ。 国王の中にいるやつ──ナタナエルっつったか? そいつについて色々教えてくれよ」


「……あぁ、そうですね──」


 まだ謁見の間までは距離がある──そう思ったスタークは、これから戦う元魔族のナタナエルについての話題に切り替えようとして、それも尤もだと考えたノエルが数ヶ月に亘る戦いから得た経験を語り出す。



 最初に彼が国王陛下の小さな変化に気がついたのは三ヶ月ほど前の事であり、その時は【魅《チャーム》】と呼ばれる術者が纏わせた属性に応じて対象を惑わす支援魔法にでもかかってしまわれたのかと考えていたらしい。


 それから、すぐに王城で働く魔導師に声をかけて国王陛下にかけられた魔法を解く為、全ての属性を持って【解《ブレイク》】の魔法を行使させたが、ノエルが陛下に感じた違和感は拭われず、そもそも魔導師たちは揃いも揃って『陛下は魔法にかかっていない』と口にする。


 しかし、ノエルは決して納得せず誰にも相談などしないまま一人で陛下に対する違和感の正体を調べた。


 しばらくして、ノエルは抱いていた違和感が夜が更けるのを境に強くなっている事に気がつき、どう考えても不敬に当たると分かっていながらも秘密裏に国王陛下を尾行し、その違和感の正体を明かそうとする。



 奇しくも、つい先日のスタークと同じように──。



 すると、つい先程まで執務室にて公務を処理していた陛下は、どういう理由からか執務室を後にして謁見の間へと向かい、その堅牢な扉を開けて入室する。


 もしや、この中に陛下以外の何某かが──そう考えた彼が意を決して扉を開く手に力を込めようとした。



 ──その瞬間。



『──よくぞ勘づいたな。 ノエル=クォーツ』


『っ!?』


 扉が独りでに開くばかりか、その中から聞こえた低い声音で自分の名を呼ぶ陛下の声に、ノエルが心から驚きつつも事態を確かめるべく声の主の方へ視線を向けると、そこには玉座に腰掛ける陛下がいたのだが。


(……違う……! あれは、国王陛下ではない……!)


 ノエルは直感、或いは近衛師団としての経験からか視界に映った陛下が『全く別の何か』であると悟る。


『貴様、何者だ……!! 陛下に何をした!?』


 ゆえに、とても王族を相手にしているとは思えない強い語気で目の前の何某かの正体を問いかけたのだ。


 すると、ノエルの問いかけを受けた国王陛下のような何かは、その表情を極めて邪悪な笑みへと変えて。


『──我が名は、“ナタナエル”。 この緩み切った世界に魔王カタストロ様の御力にて、闇属性の【精霊】として転生した……並び立つ者たち(シークエンス)の序列十四位だ』


 さも自信に満ち満ちた声音を持って、ナタナエルという自分の名と転生先を堂々と明かしたのだった。


 そこからは、スタークも午前中に聞いた通り数ヶ月に亘って、ノエルとナタナエルによる毎晩の戦いが始まったのだと語り、そこで彼の話は一区切りとなる。



「……精霊……精霊に転生したやつもいんのか。 つーか、どうやって精霊が人間の魂を乗っ取ったんだ?」


 これまでが魔物や人間、炎や猫と多種多様であった為、ナタナエルの転生先が精霊と聞いても特に驚きはしなかったが、それはそれで『精霊が他種族の魂を支配する手段』が気になり、スタークは首をかしげた。


「……【契約】、ではないかと」


「【契約】? 何だそりゃ」


 すると、ノエルは彼女の疑問に対する答えを朧げながらも持っていたらしく、スタークには聞き慣れない単語で答えた為に、もちろん彼女は改めて尋ね返す。


「……我々人間と精霊は基本的に言葉のない共生関係にありますが、その中で稀に精霊と言葉を交わす資格を持つ者が数万人に一人ほどの確率で現れるのです」


 ノエルは、かの精霊から派生したと云われる霊人とは違い精霊と近しくもない人間の中にも、ごく稀に言葉による意思疎通が可能な者がいるらしいと語った。


 人はそれを資格と呼び、その資格を持つ者たちを重宝する傾向が少しずつ強まっていったのだとも語る。


 その資格を持つ者との間に精霊たちが交わす事ができ、その者の魔法の威力や精度を上げる代わりに魔力を貰う──それこそが、【契約】と呼ばれる儀式。


「……その資格を国王が持ってて、たまたま王都の近くに精霊として転生したそいつと契約した──と?」


「私は、そう見ています。 まだ未確認ですが」


 彼の話を要約すると、『【契約】とは決して片方の意思にのみ従って履行されるものではない』という事であり、それを踏まえると国王陛下は自らの意思で契約したのかもしれないという結論であるらしいが、それはそれでスタークの中に別の疑問が浮かび上がる。


「……じゃあ、どうして国王は──」


 そう、それならば国王が精霊──もといナタナエルと契約を交わした理由が分からないし、もし彼の推論が正しいのならナタナエルを消すのは陛下の望むところではないのではないか、という事を尋ねんとした。


 無論、仮に【契約】が国王陛下の本意だったとしても、スタークには微塵も関係のない事なのだが──。


「っと、そうこうしている間に──スターク殿」


「ん? あぁ、もう着いたのか」


 しかし、そんな彼女の問いかけを遮ったノエルの声に反応したスタークの目の前には、いつの間にか謁見の間の扉があり──それは少しだけ口を開いていた。



 まるで、『入ってこい』とでも言うように──。



 互いに顔を見合わせて頷き合った二人は、いよいよとばかりに扉を完全に開いて入室し、やはり堂々と玉座に腰掛ける国王陛下──ナタナエルを視界に映す。


 その姿は、つい先日に謁見した時のような厳かなものではなく、いかにも悪の皇帝といった漆黒のローブを羽織り、おそらく元々国の物だったのだろう冠を無理やり捻じ曲げたような意匠の冠を頭に戴いていた。


 見る者が違えば奇抜かつ奇妙としか言えない、そんな彼の服装にノエルが何も言わないという事は、おそらく毎晩こんな見た目の国王と相対させられていたのだろうと、スタークはそれとなく同情するとともに。



(趣味わっっっっる)



 こっそり目の前の元魔族の格好を酷評してもいた。



「……ナタナエル。 今日こそ、今日こそは──」



 そんな中、腰に差していた宝飾付きの剣を抜き放ったノエルが、いよいよとばかりに一歩前に出た──。



 ──その時。



「……そのような年端のいかぬ少女を私の前に──と言いたいところだが……よくぞ連れて参ったな、ノエルよ。 其奴こそ私が待ち望んでいた双子の片割れだ」


 ようやく口を開いたナタナエルは、あっさりとノエルの宣戦布告を遮るばかりか、そんな彼には全く興味がないとでも言いたげに視線を外し、その後ろに控えているスタークに対して邪悪な笑みを向けてみせた。


「な、何を言っている……?」


 自分の言葉を遮られる──それに関しては、これまでの数ヶ月間でも何度かあった為に気にはしなかったが、ナタナエルが何を言っているのかが全く理解できなかったのは初めてだったのか、ノエルは困惑する。



 一方、困惑していたのは何もノエルだけではない。



「……?」


 待ち望んでいた──などと言われても、スタークとしては微塵も心当たりがなく、ノエルと同じように目の前の元魔族が何を言っているのか分からずに首をかしげたのも束の間、彼女は次にナタナエルが口にする発言により、ノエルとともに驚愕する事となる──。






「歓迎するぞ──勇者と聖女の血を引く娘よ」


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