509 触発
フィール視点です。
「おいっ! 俺もやる」
と、私達の元へと近づいて来たフェルル。
ハイヘェンターとの契約に挑戦するという事なんだろうけど……
「やるって、フェルルは魔物と契約したことがあるの?」
「ない」
「じゃあ無理よ」
「そいつ等だって初めてだったんだろ?」
「同じ初めてでも、魔法の経験が違うもの」
私達が魔物との契約が初めてだったのに、ハイヘェンターとの契約が出来ていた事に触発されたみたいだけど、流石にこれは危なすぎる。
アキナ様も許可はされなかったけど、フェルルは納得していないみたいだ……
「バカにしやがって!」
「別にバカにはしてないわ」
「俺もやるっ! 石をよこせ!」
「ダメですよ! 危ないんですから」
「危なくないっ! 俺だって術式くらい構築出来るし、お前等に出来て俺に出来ないなんて事はない!」
「あるわよ」
「うるさいっ!」
全然話を聞かないな……
フェルルのために言ってる事なのに……
アキナ様はフェルルをじっと見つめておられ、そんなアキナ様をフェルルは睨みつけている……
今私達がいるこの場所は、ハイクラスの出現する、邪気の濃い空間だ。
そんなところでこんな癇癪を起こしたように喚くなんて……ん? でも、それにしては違和感があるな……
このダンジョンに着いてすぐのフェルルは、ちゃんと警戒している様子だった。
それなら、自分だけやらせてもらえないからといって、危険な事を自らやろうとなんてする訳がない。
もしかするとフェルルは今、敢えて癇癪を起こしているかのように振る舞って、アキナ様がどういう対応をするのかを見ているのかもしれない。
「術式は構築出来るのね?」
「出来るっ!」
「契約呪文は唱えられそう?」
「だから出来るって言ってるだろ!」
「じゃあ、やってみるといいわ……カイ、鉱石を1つ渡してあげて」
「は、はい……」
アキナ様はフェルルにもやらせてあげる事にされたみたいだ。
でも、本当に大丈夫だろうか?
フェルルは鉱石を眠るハイヘェンターの前に置き、魔法陣を形成した。
でも、形成してすぐに、
「ダメよ、フェルル。そんな魔法陣では失敗するわ」
と、アキナ様が止められた。
「やってみないと分からないだろっ!」
「やらなくても分かるの。形成し直して」
「……」
「どうしたの? やるんじゃないの?」
「う、うるさいっ!」
口では反発しているけど、ちゃんと魔法陣は形成し直している。
やっぱりフェルルはわざと騒いでいるだけで、冷静みたいだ。
「その魔法陣も微妙ね。もっと魔力が流れて行きやすいような魔法陣を形成して」
「流れて行きやすい?」
「ハイヘェンターに魔力を流し易い方がいいからね。もっと魔力の流れを意識しながら魔法陣を形成するのよ」
「……」
フェルルはアキナ様のアドバイスを受け、また魔法陣を形成し直した。
アキナ様を睨んでいるのは変わらないけど、人類種の言う事なんか聞かないと言っていたフェルルが、こうもアキナ様の仰る通りにするなんて……
これは、フェルルの中でのアキナ様が、他の人類種とは違うという認識になってきたという事なんだろうか?
「うん、これならいけそうね。あとは契約呪文だけど……」
「こいつの魔力を抑えて、邪気を流せばいいんだろ?」
「うーん……フェルル、≪ウインド≫は使える?」
「使えない」
「じゃあ、しっかり風をイメージしてね」
「もうした」
「はぁ……まぁ、やってみましょうか」
アキナ様は少し呆れたようにため息をつかれたけど、そのままやるようにと言われた。
フェルルが呪文を唱え始めると、魔法陣は光り、眠るハイヘェンターから赤い靄が発生してきた。
そして、ちゃんと鉱石の方へと流れていき、吸収されてく。
私が心配をしすぎていただけで、大丈夫だったみたいだと安堵して、アキナ様の方を見ると、アキナ様は冷たく険しい顔をされていた。
そして、
「うわぁっ!」
と、急にフェルルが飛ばされていった……
「フェルルっ!」
「フェルルさんっ!」
「あー、やっぱりかぁ……」
フェルルは自力で起き上がるのが難しいようで、立てずにいる……
これは、契約が失敗したという事なんだろうか?
「魔法陣は悪くなかったけど、魔力が流れていく光景がちゃんと描けていないわ」
「う、うぅ……」
「フェルルは≪ウインド≫が使えないからね。魔力に風を纏わせる光景がはっきり描けていないのよ。だからフィーの時みたい、邪気を魔力で抑えながら移す事になってしまっていたの」
「途中までは上手くいってたのにっ!」
「フェルルにはフィー程の魔力はないからね。やり方は同じでも、魔力が足りないんじゃどうしようもないわ。まぁ、とりあえず今回は諦めて」
「……くそっ!」
アキナ様は飛ばされたフェルルの方へと近づき、フェルルが起き上がれるようにと手を差し出されたけど、フェルルはその手を取ろうとしなかった。
あれだけやれるといっていた上での失敗だからこそ、悔しさや恥ずかしさがあるというのも分かるけど……
「フェルル、そんなに気にすることでもないからね……あっ! フェルル、その手……」
フェルルが意地を張ってしまっているのかと思ったけど、近づいて見たフェルルの腕は、真っ黒になってしまっていた……
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