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第七話 中世:1

木材と石が静かにぶつかり合い、揺れる。目を覚ますと今度はベッドが木の板、布団はなし、白い布が天井という有り様だ。起き上がり、光を僅かに射す場所から覗くと森林と馬車が見え、状況を確認する。


俺の名前は東海(あずみ)昭次(あきつぐ)。今いるところを床が木材、しかもその木材が動いている点から推測すると馬車の中……よし、正解だ。では俺の隣で無防備に寝ている少女はなんだ?

装備は貧相で地味。ついでにいうと体つきも中途半端で地味だ。だが剣や顔は綺麗であり、ふつくしい……などと見とれてしまう。


「魔物だ! 魔物が出たぞ!」

外からそう声が聞こえ、少女は電光石火の如く目を覚まし、俺をガン無視して馬車の外に出る。それを見た俺は唖然としてしまうが、魔物が出たということに興味を沸かす。何せさっきまでゾンビだらけで魔物なんていやしなかったからな。楽しみだ。これでゾンビみたいな奴だったら殺すだけじゃすまない。…………弾薬の刑にしてやるぞ!




メニューコマンドを開き、装備を変更しようとすると『特定の条件〈中世世界でメニューコマンドを開く〉あるいは〈魔物に遭遇する〉を満たしたことによりチュートリアル.10および11を開始します』と表示されチュートリアルが始まった。

またかよ! どんだけこのメニューコマンド、チュートリアル好きなんだ?


『チュートリアル.10 〈魔石を使ってみましょう〉。それでは付近にいる魔物を倒し、道具袋に収納して下さい』

魔物か。あの武器持っているゴブリンで良さそうだな。ゴブリンを倒す為に装備品袋から銃を取り出そうとすると銃はおろか刺叉すらもそこにはなく代わりにファンタジーならではの剣や槍等の武器があった。弓は何故かなかった。


「これで戦えってのか?」

面倒過ぎる。銃で一発急所に撃てば良いものをメニューコマンドは何を考えているんだ? そう思いながら槍を選択した。槍を選択した理由は武器術において、槍術などの長物の武器術を相手にするために剣術の使い手は三倍の技量が必要である。この考えを剣術三倍段──剣道三倍段とも──と呼ぶが、簡単に言うと剣術、槍術ともに素人たる俺が剣を持つよりも槍を持った方が強いということだ。わざわざ弱い武器を選択する理由がない。


メニューコマンドを解除するとゴブリンも動きだし俺に襲いかかるが、遅い。ゴブリンの喉を一突きすると断末魔の叫びがその場に響いてそれだけで絶命してしまうことを証明した。メニューコマンドの時間停止機能を使うまでもなく倒したのは何気にこいつが初めてだ。ゾンビでももっとしぶといからな。


メニューコマンドの指示通りゴブリンを収納すると次の指示に従う。

『それではレシピの特殊アイテムを検索してください』

この項目は新しく出来たのか。検索機能を使うと確かに『○特殊アイテム』と表示されたことを確認し、選択した。

『次に解放の魔石を選択し、調合して下さい』

解放の魔石ってなんだよ。そうツッコミたかったが、レシピの一番上にあった為すぐに選択が出来、解放の魔石を作成すると次に指示が出された……チュートリアルが長いし、指示に従わないと進められないから面倒なんだよな。

その指示は『道具袋の特徴アイテムの中にある<解放の魔石>を使用して下さい』というものだった。解放というだけあって何かが解放されるんだろう。そう考えながら選択し、使用した。

『解放の魔石を使用しました。解放Lv2になりました』

『特定の魔石を使用することにより魔術が習得出来るようになりました』

『経験の魔石を使用することにより経験値を習得出来るようになりました』

『心の魔石を使用することにより魔力が増幅出来るようになりました』

『技の魔石を使用することにより習得速度が早くなるようになりました』

『体の魔石を使用することによりフィジカルのステータスが上昇するようになりました』

……なるほど、この世界では魔石によってパワーアップが出来る訳か。妥当だな。それをチュートリアルを通して魔石の使い方をも教えたというわけか。随分ご丁寧なことだ。

『チュートリアル.10〈魔石を使ってみよう〉クリア。魔石を作成するにあたって、一定のレベルまで上がらないと作成出来ない場合がありますのでご注意下さい』

そりゃそうか。いつまでも作成し続けていたら低レベルでの魔術チートやフィジカルチートになってしまう。それを防ぐ為のレベルアップか。作れる数に制限を設けるのは当たり前だな。ん? そうなると経験の魔石もか? 後でヘルプで見てみるか。




『チュートリアル.11〈魔術を使おう〉。先ほどと同様に倒した魔物をレシピで<火の魔石>を作成し、使用しましょう』

魔法も厨二っぽいが魔術はもっと厨二っぽい。ラノベのタイトルにありそうなことを考えながら、作業を行う。

「え?」

はいはい邪魔邪魔。ゴブリンを倒す手際を見た、ファンタジー世界風の男冒険者だけでなく俺を見ていた他の連中もが間抜けな声を出して、唖然としてしまう。

そんな視線を他所にゴブリンを収納し、調合して火の魔石を作成して使用する。

『火の魔石を使用し、火の魔術Lv2になりました』

『魔術【火属性Ⅰ】を獲得しました』

ついに魔術使いとなり、はしゃぎそうになるが中身を確認していなかったことに気がつく。

『習得した魔術を使用して下さい』

新しく加わった魔術の項目を選択し、【火弾Ⅰ】を選ぶ。


その瞬間、太陽が俺の視線の直線上を突き進む!


…………などという馬鹿なことは起こる訳もない。それどころか小指サイズほどの小さな火の玉が視線の直線上にいるゴブリンに向かっていき、腰に巻いている毛皮に小さな火がつく。


「ギッ?」

メニューコマンドを解除するとゴブリンは火を払う。それだけ冷静に対処されるようじゃ戦闘面じゃ使えないな。

『チュートリアル.11〈魔術を使おう〉クリア。魔術を使うには魔力が必要となります。魔力がないと魔術は使えなくなるので注意して下さい』

ショボ過ぎる魔術でも魔術を使ったことに変わりなく、きちんとメニューコマンドは認識しチュートリアルが進む。チッ、今はショボくとも我慢してやる。そんなことを考えながら目の前のゴブリン達を殲滅していく。


そう言えばステータスはどうなっている? その疑問が浮かび上がったのは極単純に他の連中が異常なまでに弱く感じたからだ。他の連中はゴブリンを倒せているものの、俺のように瞬殺とまではいかない。某ハンティングアクションゲームで例えると最上級の雑魚モンスターに初期装備の片手剣で挑んでいるようにしか見えない。つまりそれだけ時間がかかっているということだ。

それが基準なら俺は基準以外だと言うことになり、調べてみる必要がある。そしてステータスを開くと最初に目についたのがレベルだ。


『レベル15』


それが今の俺のレベル。ゾンビの世界のレベルがそのまま引き継がれていた。つまりゾンビ世界とともにこれは夢なのか、あるいは本当にメニューコマンドは現実のものでゾンビ世界も中世世界──メニューコマンドの時計機能を見る限り中世世界という名前の世界だとわかるが、ゴブリンや魔物がいることから少なくとも俺が住んでいた地球の過去ではない──も本物なのか……どちらにせよこの世界で寝ればわかる。


しかし今は寝る時ではない。今起きて後悔することなんてザラにある。どうせこの世界で寝られないなら探索しておくのがベストだ。その為にはゴブリンを始末し、片付けてからこの世界の情報を聞くのが一番手っ取り早い。




自分の付近のゴブリンを殲滅すると、先ほどの少女のところにまだゴブリンがいるのを見かけ、戦闘に乱入する。

「助太刀御免!」

そう一言告げてゴブリンを槍で突き刺し、絶命させる。

「すまない助太刀感謝する!」

どうやらこの娘は気が強いどころか騎士のような振る舞いだ。胸は半端者だけどな。

「む、何か失礼なことを言われた気がする」

テンプレ乙と言いたくなるが、ゴブリン達の殲滅が優先だ。彼女が目を離した隙を見てゴブリンに刺さった槍を収納し、ゴブリンの死体も収納する。

「後々禍根が残らぬようゴブリン達を殲滅する。ただの一匹も逃がすな!」

その為に俺は指示する。この中で一番強いのは俺だ。山猿でもライオンでも一番強い奴が群れのリーダーとなるだろう。動物は自分よりも強い奴に従う。その本能を利用し、ここの指揮を取っただけだ。


もちろんゴブリンを逃がさない理由は今言ったように禍根を残すような真似は絶対にしたくないのもある。だがそれ以上に解放の魔石が欲しいからだ。解放の魔石があれば、色々なシステムが解放される。その中でも俺が欲しいシステムは『道具袋の共有化』というシステムだ。このシステムは解放Lv5になることでようやく姿を表すんだが、習得条件がかなり厳しい。

まず解放の魔石を作るに当たって必要な魔物が徐々に増えていく。それだけでも面倒なのに解放Lv2から5にするのに解放の魔石14個必要な上、レベルも20にまで引き上げなきゃいけないという苦痛もありモチベーションただ下がりだ。


だがそれをするだけの価値はある。『道具袋の共有化』のシステムは『それぞれの世界の道具袋を共有することが出来る』という素晴らしいシステムだ。つまり現代の道具をこの世界に持ち込めたり、ゾンビの死体を現代に持ち込めたりすることも出来るようになる。

これがどういうことかわかるだろうか? これまで宝くじのインサイダー取引しか出来なかった──それはそれで資金チートだ──が、この中世世界やゾンビの世界から取り寄せた道具を独占的に取引出来るってことだ。何せ片やファンタジーの世界、もう片や未来だ。現代とは違うものを取り寄せられ、しかも真似されることもない。だからとっととゴブリンを倒して解放の魔石を作成したいんだよ。




数分後。

結局、ゴブリン達は俺が殲滅した。他の連中が俺の指示に言うことを聞かなかった訳じゃない。俺が逃げる十数体のゴブリンを始末し終えても、まだゴブリン狩りを終えてなかったからだ。あいつらに一言言わせて貰おう。剣術だけでゴブリンを倒せると思うな!


「お疲れ様です」

元の馬車に戻り、ボケっとしていると隣で寝ていた外見冒険者中身騎士風の彼女が俺に労いの言葉をかけてきた。

「お疲れ様。ところで聞きたいんだが、何故貴女はそのような貧相な格好を? その剣の業物であればもっと良い防具を身に付けてもおかしくないが?」

「この剣は騎士であった私の父の形見だ。私自身、冒険者を始めたばかりでこの剣に見合った防具を揃えられない」

冒険者マジであったのか。これぞラノベファンタジーと叫びたくなる。


「そうだったのか。ところで騎士と冒険者の違いとはなんだ?」

違和感がないようにさりげなく冒険者について尋ねると目を輝かせながら口を開いた。

「冒険者も騎士も出自を問わないが、一番の違いは国に直接雇われているかそうでないかの違いだ」

なるほど国家公務員と地方公務員の違いってところか。

「騎士と一言に言っても様々だ。文武両道を地でいく宮廷騎士団。他国から恐怖の赤揃えと恐れられる戦闘のプロフェッショナル赤騎士団。ゲリラ戦法で敵を苦しめる緑騎士団がある。そのうち父は宮廷騎士団に所属していた」

「では貴女も?」

「いや私は父とは違いオツムが悪いのでな。宮廷騎士試験を受験したら見事に落ちてしまったよ。私は冒険者枠を使って赤騎士か緑騎士のどちらかを狙っている」

「冒険者枠?」

「冒険者には試験がないからな。形式上、騎士も冒険者も差がないとはいえ貴族の穀潰しや騎士になれなかった平民がなるもので、騎士に比べ給料も低く好き好んで冒険者になるものはほとんどいない。しかし中には冒険者の経験を積んで開花した者もいるし、国はそういった人材を欲している。そこで優秀な冒険者なら登用しようという訳だ」

彼女が冒険者である以上、俺も冒険者だと思わすのが得策で、これ以上冒険者について聞くのは無理だ。ボロが出ても大丈夫なように一度セーブしておこう。


『セーブ処理が完了しました』


「なるほどな。しかしまあ冒険者も悪くねえぞ。襲撃がある時以外はこうやってのんびりと待機してりゃいいんだからな」

「私は不満だ。こうやって冒険者として過ごしていると宮廷騎士だった父に申し訳ない。一刻も早く騎士となって墓の中に眠る父に報告したい」

どこまでもストイックな奴。だけどこういう奴は嫌いになれないんだよな。ただ真面目に一つの事に集中出来るのは一昔前の主人公そのものだからだ。

「そうか……そうだ、自己紹介が遅れたな。俺はショージ。貴女の名前は?」

ショージは俺の名前である昭次(あきつぐ)を別の読み方で呼んだだけだ。異世界で昭次(あきつぐ)なんて呼ばせても異世界に来たという実感がないからそうしただけでそれ以上に深い意味はない。渾名をつけるのに深い意味を問うか? 問わないだろ。つまりそういうことだ。


「ライアンだ」

ライアンってあれか? 90年の有馬記念二着の? それともピンク鎧カイゼル髭のあいつか? ……いやわかっている。彼女の名前だということは。それだけ現実逃避してしまうくらい衝撃だったんだよ。

日本人なら娘に直虎って名付けるのと同じようなものだ。大河ドラマの影響で日本で一番有名になった直虎こと、戦国時代の女武将、井伊直虎は家の事情もあってそう名乗る事になっただけで望んで名乗った訳ではない。ちなみにその直虎も女性説から男性説に変わりつつある。

「ショージ、女らしくないと思うだろう? しかしこの女らしくない名前が逆に周囲が私を覚えてくれる要因になるからありがたい。ライアンなんて名前は男ではありふれているが女だと私だけだからな。名付けてくれた父や母には感謝している」

ライアンはうっとりと形見の剣を見つめ頬を紅潮させる。もう重度のファザコンだな。

「確かに覚えやすくはあるよな」

だがライアンの言うこともわかる。ライアンがライアンではなく普通の女の子の名前だったら、ただの美少女とインパクトは薄くなっていたはずだ。それでも十分だけど。


「ところでショージ。その強さは一体どうやって手に入れたのだ?」

さて、どう説明したものか。俺はメニューコマンドを起動して時間停止機能を作動させた。

それではまた一週間後にお会いしましょう!

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