9.これからも、よろしく!!
本編最終話です。
番外編は思いついたら書くので、一度完結扱いさせていただきます!
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます!!
――side 宝香
ちょっと遠出ということで、電車旅を堪能しまくりました!それもこれも、冬芽さんが私に合わせてくれたからで・・・。
私にはもったいないくらいの彼氏ですが、たぶん、お互いに依存しまくっていて離れられないと思います。
この感覚の説明はとても難しいです。きっとフィーリングが合うとか、ビビッときたとか、色々言い方はあるんでしょうが、結局のところ本人同士にしかわからない感覚なんです。
この人のどこが良いの?と訊かれて、私はいくつもいい点を言うことができますが、それがそのまま訊いた人に受け取ってもらえるかといえば違うでしょう。
実際、姉にのろけまくりましたが、スル―されましたしね。まぁ、恋愛面に限らず話をスル―されるのはいつもの事なんですが。
というか、姉が冬芽さんに話しかけるだけで彼は涙目になるそうで・・・おそらく、正神君辺りが脅しているんでしょうか?
「宝香さん、まずは何を見る?」
ギュッと手を握ってくる冬芽さん。2人の手首には、ワンデーパスが巻かれています。(チケットタイプじゃなくてビニール製の腕に巻くタイプなんですよ!)これで、一日中水族館とアトラクションが楽しめるわけです!
「冬芽さんって、絶叫系はダメな人ですか?」
「いや、そういうのは平気」
お、意外です。あー、でも、ガラスのハートだからって絶叫系がダメってことはないですよねぇ、確かに。
「じゃ、フリーフォール行きましょう!私、以前から乗ってみたかったんです!」
「うん。じゃあ、その後はジェットコースターだね」
ニコッと笑う冬芽さんがめちゃくちゃ可愛いのです!ほんっとに三十路には見えません。仲良く手を繋いだまま私達はアトラクションの乗り場へと向かいます。
「おー・・・真下から見ると、すっごい高さだね」
「そうですねぇ・・・あ、パンプス脱いだ方が良さそうです」
「うん、係りの人に預けようね」
休日だけあって待ち時間はかなりありましたが、冬芽さんと話していると時間を忘れてしまいます。
いよいよ私達の番になり、しっかりと肩から安全バーで身体を固定して、いざ出発です!最大降下速度125km/h、その際にかかる最大重力が4G。
ハンパない浮揚感とスピードに素直に口から悲鳴が漏れます。
「ぅひゃぁあああああっ!!」
「ほわぁあああああっっ!!」
ほわぁあって・・・冬芽さんっ、ほわぁあって!!なんて可愛いんですか!!とかなんとか、隣の冬芽さんの叫び声までチェックできるくらい私は余裕でした。ええ、高い所は大好きです。
でも、降りた瞬間、さすがにふらつきました。パンプスじゃなくて運動靴にすればよかったです・・・。ふらふらしながらそんな反省をしていると、腕を強く引かれて腰を抱かれました。
誰がやったかなんて言わせないでください。無茶苦茶恥ずかしいです。どうしてこうもさり気なくタラシっぽい行動をとるんでしょうか!この人は!
「・・・大丈夫?」
「は、はい・・・へ、平気です」
顔をのぞきこむ冬芽さん。~~~っ、近いっ!近いですっ!!
「すこし、ベンチで休もう」
「あ、は、はいっ」
少し童顔の、でも整った冬芽さんの容貌から目を逸らせないまま、私は頷きます。
私を支えて歩く冬芽さんはふらついた様子もないので、三半規管が私より発達してるんだと思います。というか・・・こういうところ、凄く男らしいんです。きっと、他の人が知らない冬芽さんの一面なんだと思います。
「気分、悪くない?」
「はいっ!ちょっとふらついただけなので」
「・・・でも、すぐにジェットコースターに乗るのはやめた方が良いかもね。・・・先に、水族館の方に行こうか」
「はい、そうしましょう」
「――たいしたことなさそうで良かった・・・」
心配そうに私を見つめていた冬芽さんでしたが、私の言葉を聞いて安心したのか、ふにゃりと笑み崩れました。――うなっ!可愛いですよぅ!
「私は元気ですよぅ!こんなことでへばりませんって!・・・さ!白イルカさんが私達を待ってますよ!!」
「うん、そうだね。行こう」
照れ隠しに勢いよくベンチから立ち上がった私を眩しそうに見つめる冬芽さん。ああ、そんな顔しないでください。好きで好きでたまらないって、顔に書いてあるんですよぅ・・・。
――side 冬芽
ああ、いけない。どうしてこんなに宝香さんは可愛いんだろう。恋愛フィルターって怖い。どんどん好きになっていく。
さっきのフリーフォールは楽しめたようだけど、ちょっと足元がふらついていて危険だったからジェットコースターは後回しにした。
残念がるかなって思ったけど、でも、これだけは譲れない。平衡感覚が狂っている時にジェットコースターなんかに乗ったら、きっと乗り物酔いをしてしまう。それじゃ、せっかくのデートなのにもったいない。
「冬芽さんっ、早くしないと、ショーが始まっちゃいますよぅ!」
入場口でもらったタイムスケジュールからすると、もうすぐ白イルカのショーが始まる時間だ。可愛らしい仕草をする白イルカはこの水族館の目玉だからすでに満席状態。でも、実は席の方に行くための歩道橋みたいな通路から見た方が、上から眺める感じでなかなか見応えがある。
「宝香さん、ちょっと待って」
僕は宝香さんの手を引いて、通路の上からプールを指さす。
「どうせ座って見れないし、ここからの方が迫力あるよ」
「わ、すごぉい。冬芽さん、よく知ってますね!」
「うん、高校の時に、クラス交流のための遠足っていうのがあって・・・行き先がここだったんだ」
「わぁ!そうなんですね!・・・へぇ、ここから見ると、客席から見るのとは全然違うアングルだから新鮮です!」
嬉しそうに言う宝香さん。頬が紅潮しているから、少し興奮気味なんだろう。イルカが好きなんだろうなァ。
「うん・・・今度来るときは、ちゃんと正面から見ようね」
「ッ・・・は、はい」
ちゃっかり次の約束を言い出せば、宝香さんは少しはにかんで頷いてくれる。
結果。見下ろす形で見たイルカショーは宝香さんにも好評だった。でも、絶対に次は正面から見よう。それが正規の楽しみ方だ。
そして、今度こそ~、と意気込んでジェットコースター乗り場に向かって歩く宝香さんの後ろをついて歩きながら、その華奢な背中を見つめる。
「宝香さん・・・ありがとう」
「ふえ?!」
唐突な僕の言葉に、宝香さんが足を止めて振り返る。
「僕は宝香さんが大好きだよ。これからもよろしくね?」
「なっ・・・ななな、な、な・・・」
あ、宝香さんの顔、真っ赤だ。うん、恥ずかしいこと言ってる自覚はあるんだけど・・・でも、こういう雰囲気のときじゃないと、きっと僕は言葉にできないから。
僕が自分を変えようって思えたのは、宝香さんのおかげだ。だから、僕の気持ちを余す所なく伝えたい。
「僕は精神的に脆いところがあるから、きっと宝香さんに気を使わせちゃうことが多いと思う。でも、僕も宝香さんを支えるよ。僕が宝香さんが安心できる“場所”になるから」
「――――――っ、はい、冬芽さん。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
宝香さんが満面の笑みで応えてくれた。
そう、これからが僕達の本当の恋物語の始まり―――。
本編・完結