断片資料|郷土誌抄録(明治二十七年刊『郡志拾遺』より)
本郡西南、山間に小邑あり。往古は「仁食」の里と称す。
大旱魃の年、田畑裂け、川は涸れ、民ことごとく飢えに苦しむ。里人相議し、若き女を生きて井戸に沈め、雨を祈りたると云ふ。
しかるに、沈めたる女の肉、腐ることなく井戸より溢れ出し、里人これに食らいて飢えを凌げり。これ「■■■神」の始まりなり。
以後、里では「肉を絶やさぬ」ため、周期的に「蓋」と称する生贄を捧げる掟成れり。
特筆すべきは、里人の気質なり。
彼らは如何なる悲劇に際しても、一様に「笑み」を浮かべるを常とす。
これを「神の慈愛に与る者の証」とし、泣くを最大の禁忌とす。
明治政府の命により、この淫祠邪教は固く禁じられたるはずなるも、山深きかの地にては今なお隠密に守り継がれているとの噂絶えず。
(中略)
近年、かの里を訪れたる旅人が、村人の笑顔に恐怖し、三日三晩震えが止まらざりしとの記録あり。
彼らが笑うとき、その喉の奥より、何者かの「囁き」が聞こえるという。
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