林田美穂 図書館の夢
「本棚が何階分もあってね、見渡す限り本ばっかり。古い本も新しい本も、きっと何でもあるとよ」
言葉を重ねると、健太の表情が少し和らいだ。
それでも彼の目はどこか曇っている。
「美穂が読んでくれると……すごく分かる。文字はもう、にじんでしまうのに」
その声が胸に沁みた。
美穂は、彼が自分の言葉を必要としてくれていることに、やるせないほどの喜びを覚えた。
そして同時に、健太が小さく頷きながら「美穂のおかげで、本の世界がまだ見える」と呟いたことに、胸が熱くなった。
「この村を出て、もっと色んな本を一緒に読むとよ」
自分でも驚くくらい真っ直ぐに言葉が出た。
夢を語る声は震えていたけれど、嘘ではなかった。
健太はしばらく黙っていた。
そしてぽつりと口を開く。
「この村は……やっぱり何かおかしい」
美穂の胸がざわめく。
誰にも口にできなかった気持ちを、同じように抱いていたのだと知った瞬間、目の奥が熱くなる。
「健太もそう思う?」
「うん……でも」
彼は視線を落とし、あゆみの方角を見た。
そこにはいないのに、まるで気配を探すように。
「でも、この村を出たら、あゆみには会えなくなるけん……」
その言葉に、美穂の胸が締めつけられた。
やるせなさと切なさがいっぺんに込み上げ、笑顔で隠すしかなかった。
「……それでも、私は一緒に行きたいとよ。健太となら、どこでも」
声に出した途端、胸が震えた。
言葉は届かないと知りながら、それでも願わずにいられなかった。
昼休みの鐘が鳴ると同時に、二人は弁当箱を片づけた。
パンフレットを鞄にしまい、名残惜しさを胸に抱えながら立ち上がる。
風が少し冷たくなってきて、木の葉がさらさらと揺れていた。
「……戻ろうか」
「うん」
健太の返事は静かだった。
その横顔を見て、美穂はまた胸が痛む。彼の視線の先には、自分ではない誰かがいる気がしてならなかった。
廊下を歩いて教室に戻ると、空気が妙に張り詰めていた。
梓と清音が机をはさんで向かい合っていて、その横にあゆみが立っている。
三人とも表情を変えず、けれど互いのあいだに見えない糸が張られているようだった。
笑っているようにも見えるし、にらみ合っているようにも見える。
美穂には、そのどちらなのか分からなかった。
思わず健太と顔を見合わせる。
何かを尋ねようとしたが、声が喉で止まった。
教室に漂う空気が重すぎて、言葉を出せば弾かれてしまいそうだった。
静かな緊張の中で、美穂はただ自分の席に腰を下ろした。
机の中のパンフレットの感触だけが、かろうじて現実につながっているように思えた。
§ § §
【筆者後書き】
この章は、意図せず恋の話が集まりました。
美穂の想い、あゆみの想い、清音の想い。
それぞれの形で、誰かを愛している。
なんでしょう? この話を書いていると頭が……
ここまでのご愛読、ありがとうございます。
少しでも先が気になるな、と思われましたらお気軽にブックマークしてくださいね!
そして、面白い! と思われましたら是非☆☆☆☆☆で応援してください!
ランキングが上がれば、より多くの人に届きます。
貴方の応援で、どうかこの物語を広げて頂けると!!
コメント、レビューなども大歓迎です。
大長編ですが、追いかけて頂いて後悔はさせませんよ!
全話投稿済みなので、どうか最後までお楽しみ下さいませ。




