表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【にくゑ】ある田舎の村が焼失するまでの全記録。【禁断の因習村百合ホラー】  作者: カクナノゾム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/28

プロローグ「封筒」

 その封筒は、ある朝、郵便受けの底に差し込まれていた。

 消印もなく、宛名もなく、切手もない。誰が入れたのか。誰かの悪戯か。


 私はホラー小説家だ。職業柄、その手の情報には常にアンテナを立てている。匿名のタレコミも少なくない。


 豊島区の雑居ビルの四階。六畳の狭い一室を事務所にして、もう十年。机の上には読者の体験談や郷土誌の切れ端が積み重なり、隅には口紅の跡が薄く残ったマグカップが転がっている。


 だがその封筒は、見た瞬間から異質だった。


 紙がふやけており、指先でつまんだ瞬間、ぞっとした。沈むように柔らかく、乾ききらない布か濡れた皮膚に触れているような感触。縁はほつれ、赤黒い染みが浮かんでいる。封を切るまでもなく、中の紙は湿気で膨らんでいた。


 やがて刃を入れる。

 紙は想像以上に脆く、ぺりぺりと裂けた。甘い匂いが立ちのぼる。花の蜜にも似ているが、鼻の奥を刺すように重く、鉄の匂いが混じっている。長く嗅げば吐き気を催しそう。


 小さなメモ帳がばらばらに分解された状態で入っていた。リングは外れ、紙片は血のような染みに汚れている。


 若い女の丸い筆跡。ところどころ滲み、判読できない箇所が多い。大人の几帳面な日記、役場の書式らしき記録用紙、筆跡の異なる断片が数枚。誰かが意図的に切り取り、封じ込めたように寄せ集められている。


 机の上に広げ、一枚ずつ目を通した。恐怖に追い詰められた者の悲鳴ではない。氷の底に沈められたような温度で書かれている。感情の痕跡が欠け落ちた記録。淡々と事実だけが並んでいた。


 ――これはただの資料ではない。異常だが、実際に起こったことだ。

 直感にしたがい、記録の裏付けを取り始めた。

 同時にこれを題材に小説を書き始める。


 郡役場の報告書、診療所のカルテ、村から離れた住民の聞き書き。古書店の郷土誌に「肉ゑ神」の名があった。明治期の民俗調査に〈大旱魃の折、村人は人を祀りて肉を神とした〉と書かれている。


 さらに戦後間もない大学紀要には、地元出身の学生による論文が挟まれていた。


 〈肉ゑは水神の変形にして、贄を喰らう。年ごとに若き女を“蓋”として封じる儀式あり〉


 脚注は曖昧で、出典は“口碑”とだけ記されている。


 何より驚いたのは、友人の書いたと思われる書類やメモ書きが、この封筒の中から見つかったこと。


 気がつけば、最初から入っていた紙と、外で集めた紙が見分けつかなくなっていた。どちらも同じように湿り、同じ匂いを帯び、同じ冷たさを持つ。読み進め、書き写し、追記していく日々が続く。


 資料を集めると同時に、原稿も進めてゆく。

 書かないと。

 もっと書かないと。


 どれほどの日々が過ぎたのだろうか。虚構ではない。現実だと理解した瞬間、頭の奥で絶え間なく水音が響き始めた。


 排水管の音ではない。外に耳を澄ませても聞こえない。私の中だけで鳴っている。羊水の中で聞いたことのあるような湿った鼓動。


 その夜から、夢を見はじめた。

 暗い水底。小さな手が伸びてきて、私の袖をつかむ。顔は見えない。耳もとで囁く声だけがあった。


 ――「おかあさん、おかあさん……」


 声は、微かにそう聞こえた。

 夏はやっぱりホラーですよね!

 ということで残暑を涼しくしてくれるにくゑさん、決定版投稿開始です!

 人の業と因果を描いたこの物語。


 少しでも先が気になるな、と思われましたらお気軽にブックマークしてくださいね!


 そして、面白い! と思われましたら是非☆☆☆☆☆で応援してください!

 ランキングが上がれば、より多くの人に届きます。

 貴方の応援で、どうかこの物語を広げて頂けると!!


 コメント、レビューなども大歓迎です。

 大長編ですが、追いかけて頂いて後悔はさせませんよ!

 全話投稿済みなので、どうか最後までお楽しみ下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ