繋がり
「……フ! ヴォルフ!」
ぼんやりとしていた頭に、甲高い声が響き渡る。俺を呼ぶ声だ。
「ふあ?」
「また日向ぼっこぉ?」
切り株に腰を掛けていた俺を、幼児体型の女が起こす。
「ああ、そんなところ」
「まったく、ワンちゃんじゃないんだから」
「ああ。俺は狼だ」
「狼のくせにギラついてないよね、ヴォルフって」
「襲っていいか、赤ずきん?」
「そんな度胸もないくせに。セーラにはワンちゃんにしか見えないし」
「がうぅ。ところでセーラ、お前は何してるんだ?」
「セーラは斧の手入れ。最近、連戦でしょ? 血が赤錆になる前に磨いてるの」
小柄な体躯に似つかわしくない、背丈の倍以上もある厳つい戦斧を軽々と持ち上げるセーラ。
「バトルシスターさんは大変だな」
「そう、大変。回復役にも回るから、たまに杖も持たなきゃならないし」
「肩、凝らないか?」
「いつも鎧を着ている職種よりはマシ」
「セーラには苦労を掛けるな。俺らのパーティに戦士や騎士がいないばっかりに」
「セーラで火力が稼げるならそれでいいし」
「おう、ここにおったんか!」
「ヴォルフさん、セーラさん!」
「ヴォルフー!」
威勢のいい訛りが耳に届いた。仲間だ。訛り以外に二人の声も聞こえる。俺たち二人に三人が加わる。
「探したで。何な、いつもの場所やご」
マッシュルームを彷彿とさせる髪型と眼鏡がずいと間合いに入る。
「ああ。天気が良かったからな。ガモット、調子はどうだ?」
「ぼちぼちや。特効薬を安うでがいな仕入れたさけ、バトルで使ら」
「流石、我らの調達隊長だな」
「よっ、社長!」
「やめえや。今はしがない魔法使いやご」
「でも、ガモットさんが大きな隊商をいくつも率いる商人でしたから、こうやってアイテムが手に入るんですよ」
「ジュリアの言う通りだ。ガモットのおかげで物量で憂いを見たことはないしな」
「誉めても何も出しやんよ。まあ、本気になれば相手の補給路を絶って兵糧攻めもできるさけ」
「怖いねー。ガモットくんを敵に回せないねー」
「おう、わえを敵に回したら怖いで。マット、わえが出した魔法の課題は終わったんけ?」
「うっ……!」
ひょろっとした青年が痛いところを突かれて、たじろいだ。
「おまんが魔法も使えるようになりたい言うたさけ、課題出したんよ。ファイアーくらいは使えるようになったんか?」
「ちょっとだけねー」
「ほだら、見せてみ」
「分かった、やるよー。ファイアー!」
マットが手をかざすと、掌から小さな赤い火が現れた。しかし、現れたのも束の間、2秒くらいで消えてしまった。
「どう? おれのファイアー?」
「どうって、おまん、こえやと煙草にしか火が点かへんやんけ!」
「マット、ショボいし」
「マットさん、流石にその火の量じゃ……」
「あは、あははは!」
「笑い事やあれへんど! 実戦では灰をも残さへんほどの火力が必要やねんど!?」
「そうなんだー。魔導士はすごいんだねー」
「わえはもう魔導士ちゃうわ! 賢者や! その上や!」
「魔法は難しいなー。おれにはこれしかないよー」
そう言い、マットは腰の得物を指す。それは反り返りがあり、異国の業物の雰囲気を醸す。
「魔法も使える魔法剣士を目指すんとちゃうんかい」
「魔法も覚えるよー」
「しゃーない。マットにはもっと簡単な魔法から教えたるわ」
「ファイアーより簡単なのー?」
「ファイアーも簡単な魔法やねんけどな、入門用や。ファイアーしか簡単なのいうたら、ウィンドやな」
「ウィンドー?」
「風の魔法や。来月までに嵐くらいの風量を覚えーや」
「私のバギョちゃんにウィンドはやめてくださいね」
「わーっとるやいしょ」
「風魔法と弓矢はバギョちゃんと私の天敵ですから」
「ところでバギョちゃん、元気なんか?」
「元気ですよ。今もお山で遊んでます」
「遊んでんねやて。良かったな、マット」
「だねー。いつも頭をかじれるんだよねー」
「マットさんにお痛はしないように言っておきます」
ジュリアが笑顔を浮かべる。
「ガモット」
「何や、ヴォルフ?」
「次はどこへ?」
「今日の夜からランゴバルド平原で合戦や。夜営やな」
「夜の戦いか」
「私、今から下見してきますね」
ジュリアは指笛を吹くと、甲高い音が止まないうちに大きな翼竜が頭上に現れた。
「あら、バギョちゃん。近くまで来てたのね」
「おう、早いな」
「ひえっ!」
怯えたマットがガモットの陰に隠れる。
「流石はドラゴンナイト。頼む、ジュリア」
「おまかせください、勇者様」
翼竜に飛び乗ると、ジュリアは西の山へと飛んでいった。
「わえはテントと食料、魔導書の準備や。炎と雷、氷も少し持っていこら」
「セーラも。トマホークと全体回復の杖も」
「トーチの杖は輸送隊に持たすさけ、大丈夫やで?」
「ありがと」
「さて、俺も戦支度をしなきゃな」
俺は切り株から腰を上げる。
「そういえば、ヴォルフー」
「何だ?」
「今日はどんな夢見てたのー?」
「……俺が人間だったときの夢」
「えー、ヴォルフって人間だったときがあったんだー」
「分からない」




