白百合姫の自慢の妹
いつも何か楽しい事や新しい事を見つけては嬉しそうに笑って私の名前を呼んでくれる…前の私が嫌いだった姉の事が今の私は大好きだった。
姉が笑ってくれればそれだけで幸せな気持ちになる
お姉様の笑顔が大好きだったし、お姉様もいつも笑っている人だった………今日を除いては。
「お姉様…表情筋が死んでいます!」
「いっその事死んでしまえばいいのよ……。」
今日は姉が婚約者と初めて会う日、相手がゲヴィン・ラスウェルという事を知らされた時のあの絶望した顔は酷かった。
あんなお姉様の表情初めて見た…ゲヴィンとあったことがあるのかしら?今日が不安で仕方ないわ…。
「お姉様はラスウェル家の令息とお会いしたことがあるの?」
「ええ1度だけ…私が初めて参加したお茶会で酷い目にあったの。」
前の私はその話を噂で聞いたことがある…確か、お姉様に突然話しかけてきたかと思えば何故か難しい政策や数式について質問を投げかけ解けない姉をバカにしたらしい。
「彼に凄く睨まれたのよ…嫌だわ、お父様なんて嫌い!」
代々宰相などの文官として王家に仕えているラスウェル家と婚約をする事はさらに王家に近づくことを意味する、ラスウェル家は爵位は下であるが何かと安定した一家である。
お父様が娘に安定した生活を望んだのなら何となく気持ちも分からない事は無い。
「お姉様…木がどれほど凄いものなのかお教えしましょうか?」
「アン…!?急にどうしたの??」
「昔干ばつが進んだ時に水を吸い上げる木が原因だと言って特に酷い地域にあった木を全て伐採しました…どうなったと思います?」
「木が無くなったら水も吸い取られないし解決じゃないの?」
「いいえお姉様寧ろ木があるおかげで干ばつの進行は防がれていたのです…なので正しい対策としてはさらに木を植樹することでした。」
これは前の私の記憶にある実際にゲヴィンが姉にした質問である。同じように答えた姉に対してまたしても彼は姉を馬鹿にするような言葉を投げかけた。
「木には他にも使い道があります、とある地域は台風が頻繁にやってくる為家の周りを囲むように木を植えています。」
「台風が来たら木なんて折れちゃうでしょ?危ないわ…」
「寧ろ木が壁となって台風から家を守ってくれるのです。」
「まぁ……アンは物知りなのね、なんで今その話したの?」
ごもっともな意見に少したじろいでしまうが、気を取り直す。
「お姉様の緊張が少しでもマシになればと思ったの…私は傍に行けないから……本当に駄目だと思ったら私を呼んでね。」
「アン…!!貴方は優しい子ね!終わったらお父様にお菓子を買ってもらわなきゃ!」
やっと姉が笑ったのでほっとする。
「リリィ、ラスウェル家が来たから…そう睨むな少し話をするだけでいいから。」
「…終わったら絶対に遊びに連れて行ってね!!!」
「勿論、中庭に席を用意しているから行ってきなさい。」
姉はまるで戦場に行くかのような険しい表情だった、仕方なく姉の顔を化粧がとれない程度でほぐす。
「行ってくるわアン…私に何か会ったら遺骨は海に捨てて…」
「死にませんよお姉様、大丈夫ですからね。」
前の私は姉が婚約者と会うことを侍女達の噂話で聞いて、こっそりと離から屋敷への秘密の道を抜けて遠くから見ていた。
外に出る事はなく、ずっと家族と話すこともなく離れで1人毎日本を読んでいた私には婚約者という存在が絵本に出てくる王子様のように感じられた。
現実は全くそんなことは無かったのだが
前の私がコソコソと人に見つかることを恐れながら見ていた時とは違い、今の私は少し離れた所で席に座って2人を眺めている。
私の方向からは姉の表情しか見えなかったが、最初はあまり会話も少なかったが段々と盛り上がったのか楽しそうな笑い声が遠くから聞こえてくる。
「お姉様楽しそう…良かったわ。」
「お嬢様はリリィお姉様が大好きなんですね。」
「当然よ、私のお姉様だもの。」
クロエが安心したように私を見つめる、きっと緊張していたのは姉だけでは無かったのだろう。
「アンー!!!」
姉が突然立ち上がってこちらに手招きをしている。
席を立って早足に向かう、振り返ったケヴィンと目が合えば彼は少しにこりと微笑んだ。
「初めてましてアン・マクレーンです。」
「どうも初めましてゲヴィン・ラスウェルです、貴方が彼女に樹木の必要性について教えたとは本当ですか?」
「……え、ええそうですが。」
彼は驚いたような表情をする、私はただ姉が困って欲しくないと思い教えたのに何故姉はそれを言ってしまったのだろうか…。
「驚いたわ、だってアンがさっき教えてくれた事と全く同じ事を聞いてきたんですもの!だから教えてあげたの私の自慢の妹をね!」
「さっきからずっと貴方の事を楽しそうにお話になってまして、私も会ってみたいと気になりました。」
初対面で妹の自慢をする姉…それで会話が盛り上がったのなら万事OKなのだが、少し恥ずかしい。
「私はたまたま本で読んで知ったことですので…」
「でも貴方の年頃でそこまで詳しいとは素晴らしい事です、女性が学問をする事ははしたないと言われがちですが…貴方のような女性が増えれば国も大きく変わることでしょう!」
「ええそうね!アンはとっても賢いのよ!」
この2人会話が盛り上がっているようで全く話が噛み合っていない。
それから私も加わって3人で話をした後にゲヴィンが帰ることになった
姉も最初の緊張が嘘のように楽しそうな様子だったのでホッとする。
「彼とっても面白い人ね、最初に質問してきた時はびっくりしたけど…あの時の事も私の事を勘違いしていたみたいでちゃんと謝ってくれたし……またお話しようってお約束したのよ!」
「お姉様が楽しかったのなら私も嬉しいわ。でも…なんで私がお姉様に教えた事を言ったの?もしかしたらまた馬鹿にされるかもしれないのに。」
姉はキョトンとするとにっこりと笑って、私の手を握ってくれた。
「だって彼に嘘なんてつきたくないもの、それにアンの事を自慢したかったの…だってとっても賢くて優しい自慢の妹だもの!」
目頭が熱くなって両目からポロポロと涙が落ちる
容姿も性格も…ずっと敵わないと思っていた姉に私は自慢だと思われている、それだけで今の私はなんでも出来る気がした。
「ありがとう…私も自慢のお姉様に褒めてもらえて嬉しいわ。」
その日は父に2人とも褒めてもらい、次の休日に行く旅行の準備をした。
毎日が楽しくて幸せで、目に映る全てがキラキラとしている。
「あっ…ノアに手紙を出さなきゃ!」
「またあのクソガk……彼に手紙を出すの?」
「今日は特にいい事があったから彼に教えてあげたいの!」
毎回手紙を出すときに書きたいことが沢山あって、枚数が多くなりすぎないように気をつけるが今日は特にと多くなってしまいそうである。
ノアはちゃんと内容を呼んでお返事をくれるので、頑張って書いた甲斐が有る。
「ねぇお姉様」
「なあにアン?」
「いつも私と遊んでくれてありがとう。」
姉は少し驚くと照れたように笑ってくれた。
私の幸せな時間は常に隣に姉がいた、大人になればきっと一緒にいることは出来ないだろうが限られた時間を家族と共に過ごせることの喜びを私は実感していた。




