騎士見習いの独白
ノア・ウォードが以前の記憶を取り戻したのは、つい最近のことだった。
「ノアー!聞いて聞いて!お父様がマクレーン公爵家の屋敷に行くんですって!私リリィに会えるのよ~楽しみだわ!」
「マクレーン公爵家ですか…。」
頭の中がグルグルと回るような感覚に襲われる、何かとても大切な事を思い出しそうになったが何も思い出せなかった。
「ノアは訓練ばかりしてつまらないわね~もっと遊んだら?」
「騎士見習いですので不必要です姉様。」
「騎士よりも楽しいこといっぱいあるわよぉ?」
姉は仕方ないとでも言いたそうな顔で呆れている、騎士として王国に仕える事がどれほど名誉な事なのか姉は知らないのだろう。
「ノアも来たら?リリィからの手紙だととっても可愛い妹がいるんですって!私も初めて知ったのよ!?どんな子なんだろう~。」
リリィ・マクレーンの妹君……やっぱり何かが引っかかる、どうしても思い出せないが行ってみればこの違和感の原因も分かるだろうか…。
「行ってみようかと思います。」
「………へぁっ?今なんて!?」
「ですから父様と姉様と共に公爵家の屋敷に行ってみようかと。」
「訓練大好き男のノアが!?どうしたのよ?」
「父様に相談してまいりますね。」
父は少し驚いていたが、父の仕事が見たいといえば快く許可をいただけた。
そうしてマクレーン公爵家の屋敷に来たのはいいが、とてつもなく広い庭に驚いてしまった。屋敷自体もかなり大きくて立派な建物だった。
「じゃあ行こうか2人とも。」
「リリィに会えるの楽しみ~♪」
「………はい。」
屋敷の執事に部屋を案内されるとそこにはマクレーン騎士団長が座っていた。
「やぁ久しいなケイト、今日は2人も子供を連れてきてくれたのか?」
「あぁ久しぶり…ローゼは知っているだろうけどこっちの子はノアだ、次男で今は騎士見習いをしている。」
「久しぶりローゼ、初めましてノア…私にも2人の娘がいるんだ今は外で仲良く遊んでいると思うのだが直に来るから待っていなさい。」
マクレーン団長は優しい笑顔で笑った、彼が笑う所を初めて見た。妻が亡くなってから笑う事も無くなり、彼女が処刑されてから暫くして自殺をした筈なのに………。
……何故今、自分が団長の未来を知っているのだろう…彼女とは誰のことなんだ…?
頭の中が混乱して冷たい汗が流れる、心配したのか姉がそっと方に手を置き小声で話しかけてくる。
「ノアどうしたのよ?緊張しているの??」
「大丈夫です。」
「2人の娘はとても優しい子だからそんなに構えなくてもいい、姉の方なんて最近はお年頃なのか私にとても冷たいからね……。」
団長は少し肩を落として悩み出してしまった、父はそんな様子を見て苦笑している。
コンコンとノックをする音が聞こえて扉が開かれる。
扉から1人の美しい少女が顔を出した、その後に続いてもう1人大人しそうな少女が姿を表す。
ーーーあぁ、彼女だ。彼女にまた会えたんだ、私は彼女に出会うことが出来たんだ…。
突然頭の中に一気に情報が流れ込む、図書館で初めて彼女を見つけた時、オスニエルと楽しそうに話をしている時、彼女がアン・マクレーンだと知った時………感動でじんわりと目頭が熱くなる、彼女は姉と共に挨拶をすると柔らかい表情で父と話をしていた。
その後に仕事の話をしに行った団長と父以外の子供4人は部屋でおしゃべりをしていた…話していたのは姉とリリィ公爵令嬢なのだが、彼女は静かに楽しそうな2人を見つめていた。
何か話さなければと思うが、前の記憶の自分の時も話したことは1回しかないので何を話せばいいのか分からない…
ふと頭に屋敷の庭が思い浮かんだので勢いに任せて口を開いた。
「姉のローゼからマクレーン公爵家の庭はとても素晴らしいと聞きまして、1度見てみたいと思っていたのです。………良ければ案内してくださいませんか?」
女性である彼女に案内をさせてしまうなんてと自分の軽率な発言に恥ずかしくなるが、彼女は少しキョトンとしていたが快く案内してくれた。
騎士見習いだからと言って彼女に手を差し伸べた時は恥ずかしさと混乱で顔が真っ赤になっていたのは自分でも分かった、彼女は少し顔を綻ばせて顔をして手を取ってくれたのが内心はとても嬉しかった。
ーーー気づけば彼女と手を繋いで歩いている、前の記憶の自分からすればありえないことだろう。
彼女は季節の花や庭にある樹木の事など庭の事をとても詳しく教えてくれた、時折疲れていないか聞いてくれる所も本当に優しい人なんだなと彼女の事を知ることが出来た。
ふと気づくと自分が何も喋っていない事にしまったと思った、心の中は彼女の新しい表情に感動したり手の温もりに恥ずかしくなったりと賑やかだったのだが、彼女も流石に何も話さない自分に戸惑いだしてしまった。
頭の中で話題を考えていると、突然彼女が大きな声で誰かの名前を呼んだ。
「キティ!!」
彼女の視線の先には灰色の子猫が体を丸めて眠っていた、猫は体を起こすと丸い青色の目をこちらに向けて甘えるように鳴いて彼女に飛びついた。
彼女は楽しそうに猫を撫でる、自分の頭の中は前の自分がかつて世話をしていた1匹の猫の事でいっぱいだった…どう見てもその猫はサーシャだった、珍しい灰色の毛に青色の目…。
前の自分が彼女を捕らえに行った時に出会い、彼女が処刑された後に野良になっていた所を拾って最後まで世話をしたあのサーシャが目の前にいた。
つい名前を口に出してしまい彼女に怪訝そうな顔をされてしまったが彼女が言うにはこの猫の名前はキティだそうだ。彼女がキティと呼ぶと猫は嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
彼女が触ってみるかと聞かれたので恐る恐る頭に触れる、前の自分がサーシャに触ろうものならサーシャは威嚇して1度も許してくれなかった。
小さなキティの頭を優しく撫でる、目頭がまた熱くなって鼻がツンと痛くなる。お前もまた会えたんだなと嬉しくなってたまらなかった。
彼女が嬉しそうな顔をしてキティを見つめている……どうしても知りたい事や聞きたい事が沢山溢れてくる。
それから何とか彼女と友人になることが出来た、文通をしようと誘うことだけでもかなりの勇気が必要だった。
「おい?ノア??どうしたんだよ気が抜けてるぞ?」
「……失礼しました、続きをお願いします。」
「珍しいな嬉しいことでもあったのか?笑ったところなんて初めて見たぞ?」
彼女から手紙が届いた、内容は初めて同性の友人が出来たことキティや姉の事などであるが幸せそうで安心した。
ふと彼女の笑った顔を思い出す…彼女が自分を真っ直ぐに見つめて笑いかけてくれた時、もう一度彼女を好きになっていた。
今度は彼女の笑顔を守るために生きようと決めた、自分の思いが届くことは無かったとしても彼女が幸せに生きることができるならそれでもいいと思えてしまった。
彼女といつか彼女が嫌いだと言っていた杏を見に行くために、今日も鍛錬に努める。
一緒に杏を見た時君はどんな顔をするのだろうか、やっぱり嫌いだというだろうか?それとも嬉しそうに笑ってくれるだろうか?




