終章 2
白い雲間から、光が降り注いでいるのが見えた。
まるで天からおろされた梯子のように、白い光の帯が地面へ続いている。
窓の外に広がる光景が、以前見た時の記憶より綺麗に思えたから、なにげなくユーディットは尋ねた。
「ねぇ……死んでる?」
問いに、小さな笑い声が返ってくる。
「死んでるのかな? でもどっちでもいい。ユーディがいるなら」
「そうね、ジークがいるなら」
くすくすと笑い合う声が、真っ白な天井に響いて消える。
「目を覚ます度に、そうやって人前でいちゃつくのはやめてください!」
真っ赤な顔をしたエリオスが抗議してきた。
エリオスは日課になりつつあるお見舞いにきていたのだ。
この白壁の清潔そうで広い部屋は、レーヴェンス王城の一室だ。
あの日、闇の魔術を使った後にユーディットとジークは倒れていたところを発見された。
まっさきに駆けつけたエリオスは、しかし二人の心臓が動いていることに気付き、軍医に「まだ死んでいない」と言われて喜んだ。
が、一日経っても二日経っても、目覚める様子はない。
そこで二人を王城へ連れ帰ったのだ。
「や、だって一度は死んだと思った身だからさ。もう何もかも気にならなくなって」
「これぐらいなら……うん」
ジークの言葉に同意していると、エリオスはさらに怒る。
「いくら二十日近く眠ったままだったからといって、常識まで忘れてしまわないでください!」
そう、ユーディットとジークは二十日も眠り続けていたのだ。
それについて、魔術師ベルタが推測を述べていた。
ベルタの魔術によって、予想外な状態でジークが魔術を習得したせいではないか、と。
本の中で登場人物として動いたジークも、それを読んだユーディットも、実は二人同時に魔術を習得していたのではないかというのだ。
だからジークが術を使った時、本人だけではなくユーディットの力も使われたのではないのかというのだ。そして二人で必要な代償を分け合った結果、死ななかったのではないかと。
一見何もしていなかったユーディットも、術者だったから闇に飲まれても平気だったと推測される。
そうして生き残ったものの、二人とも魂を消耗したので、眠り続けることになってしまったのではないかというものだった。
以上を目覚めた初日に聞かされたユーディットだったが、二日経った今でもここに眠っている。まだ力の消耗が回復していないのか、立ち上がるには辛い状況だからだ。
「全く。そんな風に人を困らせるなら、部屋を別々にしますからね!」
結局最後まで怒りながら、エリオスは部屋から出て行った。
「あー、からかいすぎたかな」
ジークがどうしようと天井をみつめているが、気にすることはないとユーディットは思う。
「大丈夫だと思う。だってエリオスって、怒ってても嬉しそうな感じがしたもの」
「でも、まだ動き回れないのに、別な部屋にされたらユーディーの顔がみれなくなっちゃうよ」
二人が同室に寝かされているのは、最後まで手を繋ぎ続けた二人を可哀相に思った、エリオスの配慮だった。
目覚めた後も、離されるのを嫌がったジークによってそのままになっているだけである。
「でも、もうすぐ歩くだけの体力がつくもの。そしたら、部屋が別だって会いにいけるから」
そんなに辛くないよとユーディットが言えば、ジークが拗ねた。
「ユーディーは僕がいなくても平気なんだ……」
そう言ってくれるのが嬉しくて、ユーディットは笑った。
「ジークは約束を守ってくれる人だから、信じてるんだよ。手を離さないでいてくれて、ありがとう」
するとジークは、目を細めてユーディットを見つめ、手を伸ばした。
「あれで終わりじゃない。これからもだよ、ユーディット」
ユーディットは起き上がって手を伸ばし、ジークと手を繋いだ。
「うん、ずっと一緒だよ」




