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7. やってこないエンディング……終わることのない物語

 目を覚ますと、学園の医務室のベッドで寝ていた。


 とりあえず、気絶する直前に見たことを思い出して、記憶の整理をすることにした。

 えーと、たしか公爵令嬢に攻撃した瞬間、その姿がブレたと思ったらカウンターをくらっていた。

 ヒロインはチートキャラだったが、どうやら公爵令嬢はバグキャラだったらしい。


 よし、記憶の整理完了。体を起こすと、わたしを見下ろしている公爵令嬢の姿が目に入ってきた。


「私の勝ちですわ」


 その表情はいつもどおり、自身に満ち溢れていたもので、試合中のあの困惑した表情はなかった。やっぱおかしいよこの人。


「どうして……、思い出していたはずなのに……」


 わけがわからず、わたしがつぶやくと、彼女が答えた。


「どこの誰とも知らぬ小娘の記憶程度で、この私がゆらぐわけありませんわ!!」


 オーッホッホッホと声高らかに笑うと、一転して冷たい声で命令してきた。


「決闘の勝利者として、あなたに命じます。殿下の側室となりなさい」


「え? なんで? それに、王太子との婚約は解消したはずじゃ」


 あまりにも予想外な内容に素の返事をしてしまったが、公爵令嬢は気にした様子もなくわたしの隣のベッドに視線を移した。


「そんなもの、決闘で白紙に戻させましたわ」


 となりのベッドを見ると、ボロボロの王太子が転がっていた。苦しそうな表情をしながらうめき声をあげ、よほど怖い思いをしたのだろう。



 でも、側室とは言え夢のお姫様になれるのだ、と浮かれていたこのときの自分を呪いたい。


 

 ◆


 

 卒業後、わたしは後宮で優雅な生活を送って……などはいなかった。


 後宮には多くの女性がつめているが、そこの頂点には陛下の正室である王妃が立っている。つまり、側室とは正室の部下となるわけで、わたしは公爵令嬢の命令をきかなければならない立場になったわけだ。


「まったくめんどくさいわね。あの辺境伯は、すこしでもごねて支援金をもらおうっていう魂胆が丸見えですわ」


 重厚な机の前に座った元公爵令嬢で現王妃が、手に持った書類を手にイラだった顔をしていた。

 卒業後、盛大に殿下と公爵令嬢との結婚式が執り行われ、その3年後に殿下が国王に即位した。


 同時に、わたしも側室として後宮に入ったわけだが……、なぜかわたしは元公爵令嬢の下であくせくと働いている。


「それじゃあ、あなた、すぐにいってきてくださいな。陛下の側室であるあなたが出向けば向こうもだまるでしょう」


「えぇ、この前、西の街に出張したばかりなのですが……」


「よかったじゃない、こんどは南の暖かい街ですわよ。あそこは果物がおいしいらしいですから、ぜひ堪能してくださいな」


 うそだ。そんなヒマは絶対にない。この前いった街でも観光をするひまもなく、王都に帰ってこなければならなかった。



 西の街に向かう王家の馬車にゆられながら、わたしはため息をついた。

 こんなはずじゃなかった、前世で夢見て、今生でつかんだお姫様という地位。

 この前届いたヒロインからの手紙では彼女の近況が書かれていた。帝国の王子に嫁いだ彼女は無事に元気な男の子を生んで、順風満帆にやっているそうだ。まさに、主人公といえるような、めでたしめでたしとよべる生活だ。

 くっそう、生まれながらにゲーム製作者という神に愛されたチートキャラめ。


 

 王太子との結婚後、王妃となった元公爵令嬢は王家を取り仕切り、実質あのひとが王国の支配者となっている。

 国王となった元王太子がわたしの寝所にくると、元公爵令嬢がこえーよと愚痴をこぼしながらわたしの胸で甘えてくる。婚約破棄をしようとした件も盾にとられて、なかなか逆らいづらいようだ。


 でも、王の寵愛を得ているのだから元公爵令嬢には勝ったと内心で思っていた。

 しかし、それすらも彼女の手の平の上で踊っていたことだった。


 

 ある日、執務の合間の休憩中に彼女から「子供はまだですの?」と聞かれたことがあった。

 正室のほうが先に世継ぎとなる子供を産まないといけないという焦りはないのかと疑問に思い、遠まわしに聞いてみた。


 すると彼女は「妊娠したら仕事ができなくなるでしょう。ひとり産んだら公爵家の方にも顔を立てられて、それで十分ですわ。王家の血を残すという仕事はあなたたちに任せますわ」とあっけらかんとした調子で話し、さらにそのあとぶっちゃけ始めた。


「入学前に陛下とも話していたのですわ。側室とする優秀な女性を在学中にさがしてくださいなって。もちろん、私の部下ともなるものなのですから、こちらでもさがしていました」


 そういえば、宰相の娘を筆頭に、学園で元公爵令嬢の取り巻きをしていた女子生徒たちはもれなく側室として、わたしの同僚となり各分野で活躍していた。

 

「あなたと、転校生のサクラ・イロイダもできれば側室に迎えたかったのだけれど、あの子は残念だったわ。それに、いろいろとあなたが動いていたようだし、あなたを集中的にせめることにしましたの。だけれど、まさか陛下があなたを正室にしたいとまで入れ込むのは予想外でしたわ」


 はあ、その節は大変失礼いたしました。


「いろいろとあの方を落とすための策略をたててらっしゃるようなので楽しみに観察させていただきましたわ。その腹黒さと人心掌握の術にはこれからも期待していますわね」


 攻略しているつもりが、わたしが攻略されていたらしい。彼女を恨めしげに見つめるとニッコリと笑い返してきた。

 どっちが腹黒だ。この仕事大好き人間め。


「ちがいますわ、この国のことが大好きですの。私はこの国と結婚したのですわ」


 スケールでかすぎだろ。これが国母というやつなのか。まだ世継ぎとなる男児を産んではいないが、そうやって呼ばれる日は近い気がする。


「国母ですか、いい響きですわね。今後そのように呼んでもよろしくってよ!! オーッホッホッホ!!」


 彼女の高笑いが部屋の中に響いていた。


 どうやら、わたしはまた主人公になることができなかったらしい。

 しかし、学園卒業後、ゲームのシナリオが存在しないはずの現在、まだ物語は続いている。

 『GAMEOVER』という文字はいつ出てくるのだろうか……。

 

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