今日は何の日
「はぁ。」
「どうされました?」
「最近、料理作って無いわね。」
「ほう。」
私のため息に反応したのは、たまたま城に来ていた実乃だった。
何となく目がギラリと光ったように感じたけど、気のせいよね。
最近、全然料理を作れてないのよね。
ここのところ、いやずーっとだけれど、忙しい。
それに加え、メキメキと料理の腕前を上げる三人娘が中心となって厨を管理している。
花嫁修行としてやらせていたんだけど、相当な腕前になっているようなのだ。
朝夕と食べる食事が非常に美味しくなってきている。
いや、それよりこの子達の相手を、いい加減探してあげないといけないわね。
二十歳を越えたくらいで、もう行き遅れとか言われちゃうものね。
むしろ、もっと年齢を重ねる事でしか出せない色気とかもあると思うし、二十歳はまだまだ若いと思うけど。
それはそうとして、たまには気分転換も兼ねて、料理の一つも作りたいところなのよね。
別に、新作の物を作ろうとは、考えてはいないけど。
最近食べてないものって何かしら?
少し考えてはみるけれど、案外こういうときは思い付かないもので、どうしようかと困ってしまう。
こんなときこそ、昔を思い出すのが一番かしら。
昔と言っても、勿論前世の話ではあるのだけど。
うーん、と唸りながら部屋を出て、厨を目指す。
歩いている内に、思い付くことが出来ればいいんだけど、そうは問屋が卸さない。
全く考えが纏まる事無く、厨についてしまう。
これは困った。
ここまで思い付かないままだとは、思いもしなかった。
何となく厨を見回すと、それが目にとまった。
そして、連想ゲームのようにそれを思い出す。
今日は確か四日よね。
そういえば、最近は食べてないわね。
となると、たまには作ってみるのもいいかもしれない。
そう考えながら、それの前まで進む。
ちょっと大きいけれど、これはこれで面白いかもしれない。
使い込まれて、少し黒ずんでいる。
これで炊いたら、かなりの量が出来るものね。
皆で分け合って食べるのもいいかもしれないわね。
うん、決めた。
「今日は釜飯を作るわよ。」
「釜飯ですか?」
「あら、実乃付いてきてたの?」
「それは勿論。景虎様が料理をされるとなれば、その近くに置いていただきたいものです。」
「あら、そう?まあ、いいわ。実乃も食べて行きなさいな。」
「よしっ!」
私が了承すると、小さくガッツポーズをとる実乃。
そこまで期待されてしまうと、少し緊張しちゃいそうね。
まぁ、気合いを入れて作りましょうか。
釜飯と言っても、大きな釜で炊いて作るつもりなので、正確には釜飯では無いかもしれない。
でも、それでも今日のところは、釜飯ということにさせてもらおう。
食べるだけの人にとっては、名前よりも味にしか興味は無いでしょうしね。
さて、今日はいつもなら、手伝いをしてくれるであろう三人娘は、用事で外に出している。
その為手伝いは、今日は生憎といないけれど、それも仕方がないわよね。
まあ、むしろ今日作る釜飯については、私が作らないと意味がないし。
まずは食材を切らないと。
椎茸は乾燥させたものを戻せばいいわね。
これ一つでいくらするのかしら。
その値段に驚いた記憶がある。
その辺のスーパーで、買えるような値段じゃなかったのよね。
まあ、今日はいいでしょ。
それから鶏肉を切っていく。
これも最近になって、ようやく食べ始めるようになってきた。
観賞用とか、バカじゃないのとか思ってしまっていたから、尚更だ。
釜の中に、米を入れ、醤油とみりんで味付け。
お酒も忘れないようにしないと。
そこに戻した椎茸、食べやすいサイズの鶏肉。
細く切った野菜などを投入。
後は炊くだけ。
うん、簡単でいいわよね。
しばらく待っていると、なんとも言えない香りが鼻腔をくすぐる。
ああ、お腹が空いてきたわね。
実乃もその匂いに、笑顔を浮かべている。
別に、実乃の為に作っている訳じゃないんだけどね。
しばらくの間炊き上がりを待っていると、その匂いにつられたのか、それとも直感でも働いたのか、いつもの面子が段々と集まってきている。
「バッハッハ!良き香りですな!」
「おお、旨そうだぜ。」
「ああ、確かに。影虎様がお作りになられるのだから、間違いは無いはずだよ。」
「にしても、あれは椎茸ですかな?余程のぜいたくですな。」
「なら、宇佐美のじーちゃんは食べなくてもいいんじゃね?その分、食ってやるからよ!」
「まったく、食い意地が張っているな。それとじーちゃんは止めよ。」
ガヤガヤし出す一堂。
こんな雰囲気だからこそ、ご飯も美味しく食べられるものよね。
さて、そろそろかしら?
釜の蓋をそろりと開ける。
漏れ出していた香りが、湯気と共に一気に出てくる。
そうそう、これこれ。
ほっとさせる、この何とも言えない香り。
これを椀に盛りつけ、集まってきた皆に振る舞う。
すると、待ってましたとばかりに、がっつき始めた。
皆が食べている姿を見ていると、何となくではあるけれど、視線を感じる。
「あ、段蔵か蔵人か、誰かいるの?」
「はい!居ます!」
「・・・」
私が適当に呼び掛けると、段蔵は厨の入り口から、蔵人は天井の一部を外して顔を出した。
蔵人・・・どこに潜んでいるのよ。
「あなた達も、どうせだから食べていきなさい。」
「自分達も、いいんですか?」
「当たり前じゃない。他は知らないけど、私は少なくともその場にいるなら、ちゃんと分けるわよ。」
「おお!ありがとうございます!」
「・・・」
明るく朗らかな対応を見せる段蔵と、相も変わらずの無言を貫く蔵人。
なんとも対称的な二人だ。
二人にも、椀を渡し食べさせる。
さて私も、と一口。
やはり、現代の調味料が使えない分、味は多少落ちるものの、それでも美味しく感じられた。
噛み締めるたびに、昔を思い出させられる。
四月の四日といえば、オカマ達にとっては記念日である。
桃の節句と端午の節句の、丁度間のこの日は、オカマの日という認識。
確か正式に記念日と決まっていた訳じゃないんだけど、それでもどこの店でも、釜飯を出していたと思う。
ママが手ずから作っていた釜飯は、年に一度しか食べられない事もあり、とても人気だったわね。
美味しそうに食べるお客を見て、ママもキャストも笑っていた。
今日食べさせたのは、お客じゃなくて家臣達だけど、笑顔でいてくれるのなら、それは変わらないのかもしれないわね。
「いや、美味しいです。影虎様!」
「さすがお虎兄ちゃんだぜ!」
「バッハッハ!何杯でも食べれますな!」
「はぁー、ぜいたくですな。」
「ですが、これからも頑張ろうと思える活力が湧くようですな。」
「こんな旨い飯は初めてです!」
「・・・旨い。」
それぞれが、感想を言い合っているようだ。
皆、好評で何よりよね。
・・・ん?
今、蔵人声出した?
ある種の使命感。
今日上げずしていつ上げる?という話ですか。
四月四日は、そういう日だそうです。
国が正式に認めた日というわけでは無さそうですが。
釜飯の話も、本当だそうです。
作中では話を少し盛ってますが。
その為、全ての店舗で出しているかはわかりませんが、それでもこの日だけの限定メニューとして提供しているお店もあるそうです。
成人を迎えている方は、遊びに行ってみるのも良いかもしれませんね。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




