官位
偵察部隊が凄まじい戦果を出した(風に見える)事に、欣喜雀躍するのは、上杉憲政だった。
確かにわからなくもない。
小勢で出ていったはずの部隊が、大軍を擁しているであろう北条の軍勢を打ち負かす。
となれば、舞い上がりもする。
それに、かつての自分の配下が戦に駆け付けた点もそうだ。
まだまだ自らの影響力があると、勘違いしたって仕方がない。
驚くくらいの舞い上がり方で、見る者をドン引きさせるぐらいの状況になっている。
それを顔に出すことは不敬にあたるだろうから、皆下を向いて我慢しているように見えた。
何せ、私がそうだったのだから、そのはずだ。
まあ、それはいい。
本当にどうでもいい。
それよりも問題なのは、これで関東を取れると勝手に確信をして、前祝いと称した酒盛りを連日連夜繰り広げている事だ。
幾ら使っているのか分からない。
こちらにお金を無心しにくるが、そのペースが早くなっている。
蔵に貯蔵していた物も、一部勝手に持ち出したようだ。
将来的には、上杉の名跡を譲ると言っている訳で、いずれは私の義父となるのだからの行動だとしたら、軽率この上ない気がするんだけど。
私が怒って、ご破算になるという可能性を、微塵も考えてはいないようで、少し羨ましくも思える。
招かれるのは、私の配下の者達。
酒好きが揃っているとはいえ、少し腰が引けている。
何せ、私が表に出さないだけで、怒っているのは伝わっているはずだから。
まあ、招待される事に罪は無いし、酒にも罪は無い。
楽しんでらっしゃいと送り出してあげているんだけど、何だか皆顔がひきつっているのよね。
何故かしら?
悪いのは憲政なんだし、気兼ねなんかせずに楽しんできたらいいのに。
それはそうと、官位をいただくことになった。
従五位下弾正少弼というものみたいだけど、詳しくは分からない。
何をする役職なのかしら?
まあ、この時代どこの国でも、あくまでも箔付け程度の扱いしかされてないものね。
それでも、朝廷からもらえる官位はある一定の力を持ってはいる。
そんな官位を持つものは、無下には出来ない。
あくまでも、敵対関係に無ければだけれど。
一門衆を始め、揚北衆や私の腹心と呼べる人達の喜びようが、半端じゃ無かった。
どうにも、官位というものに憧れのようなものがあったらしい。
「ついに、わが長尾家にも官位を賜りましたな。いやいや、重畳。」
「そうね、ありがたい事ね。でも、なんで貰えたのかしら?何かやったっけ?」
「それはやはり、越後の統一を成した事が評価されたのでは?」
「それだけで、簡単に官位を下さる?」
「さて、どうなのでしょうか?」
「以前、幕府に願い出て、白傘袋の使用を許可されましたな。」
「そういえば、そうだったわね。」
以前、長尾家の上位に位置する越後上杉家の当主、定実様が身罷られた時に、幕府に願い出て、白傘袋の使用を許可された。
守護代のままだったとはいえ、守護と同等の扱いをされる事になった。
でも、それが何かある?
「今、幕府というよりは将軍ですか。足利義藤様は、今苦境に立たされております。これに合力せよとの考えでは無いですかな?」
「それで、官位?」
「おそらくは。分かりやすい餌をぶら下げたものですな。」
へぇー、そうなんだ。
その分かりやすい餌に気付かなかった私や、他の衆はどこか抜けてるのかしら?
まさか、私も脳筋の仲間入り?
そりゃ、定満や中条殿に比べれば、思慮が足りないところもあると思う。
それでも、まだ脳筋では無いはずよね、多分。
でも、確かにそうか。
そりゃ、たまに寄付はしていたけれど、その程度。
特に何か働きかけをした訳じゃないし。
「でも、そうだとしたら、お礼を言いに行かないといけないわよね?」
「おお、ということは!」
私がお礼と言ったところで、評定の間はどよめく。
何なのよ?
皆との驚くポイントがズレているのが、こういうタイミングでよく分かるわ。
大分、この時代に染まってきていると思っていたけど、細かいところまでは、なかなかそうはならないわね。
「上洛ですか!」
「お供には某を!」
「いやいや、儂じゃ!」
「はいはい!俺も付いてきたい!」
急に喧しくなってきた。
いや、元気なのは良いことだけど。
皆が皆、手を上げて自分の存在をアピールしてくる。
うーん。
でも、皆を連れて行くわけにはいかないものね。
そんなことしたら、越後をがら空きにするようなものだもんね。
しかし、こんなに行きたがるとは。
向かう先は、官位をくださった朝廷と、白傘袋の使用を許してくれた将軍家の二ヶ所。
朝廷は京の都で、将軍様は、今は六角家に身を寄せているっていう話よね。
となると、確か滋賀県になるわね。
京都かぁ。
久々に行くわね。
何か、修学旅行を思い出すわ。
そうだ!
いっその事、修学旅行のようなものにしてしまえば良いじゃない。
うん、それがいいわ。
そう考えれば、長い長い旅路も楽しくなるというものね。
うん、そうしましょう。
となれば、旅行のしおりを作らなきゃ。
それに、実行委員も決めないと。
うんうん、楽しくなってきたわ。
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