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政景の処遇

評定の場に着くと、そこにあったのは、ただただ静寂だった。

喧々囂々とした話し合いでもされているかと思ったのだが。

しかし、空気は悪い。

ピリッとした空気が張りつめているようだ。

誰もが無言で私の事を待っていたらしい。

私が部屋に入ると、一斉にこちらに目線をやってきていた。

そんなに見つめられても、何も出ないわよ?

そして、同時に皆が平伏する。

そんな中で上座に腰を下ろすと、その場にいた皆に顔を上げるように言う。


「さてと、政景殿。よくいらっしゃいました。」

「いえ、そのようにお命じでしたから。」


なかなかの美男がそこにいた。

なかなか男らしい骨っぽさもある。

これなら、綾姉様が惚れるのも分からなくはない。

一心にこちらを見ている。

私からの視線をそらすことなく、受け止めている。

いい男じゃない。


「それでも、来てくれて良かったわ。さて、此度の評定では、この政景殿の処遇について話がしたいと考えているのだけれど。」

「ええ、皆そのつもりで集まっております。」


今回の司会進行は定満がやるみたいね。

誰かがこの役目をやるのなら、今回は定満がやるのが相応しい。

政景殿を倒したのは、紛れもなく定満の策によるところが大きいから。

まあ、若干面倒そうな顔をしているが、これは私の見間違いということにしておこう。

そんな顔をされても困るのだ。

最後まで、決着が全てついてようやく本当に戦は終わりを迎える事になるのだから。


「政景めは、景虎様に二度も歯向かう真似をしました。いつ、三度目が起きるか分かったものではありません。将来の禍根を残すのはいかがなものだろうか?」

「まっ事そのとおり。景信様の言の通り、この場におる政景めの素っ首、切り落とすのも致し方あるまい。」


かなりの攻撃的な意見をとばすのは、長尾景信と山本寺定長らだ。

かなりの強硬姿勢を見せている。

しかし、素っ首切り落としとか、穏やかじゃない。

かなり強気の発言をしているのは何故か。

やはり、政景討伐の兵を出したのが大きい。

実際に現場に出ていた者の意見を、無下にするわけにはいかない。

とはいえ、私が政景を許そうとした流れを、無視するかのような物言いはどうかと思う。

実際には、まだ許したという事にはなってはいないが。


「いやいや、景信殿。少々お待ちください。こうして、政景殿は自らの命を奪われる可能性すらあるこの場に、顔を出してきているのですぞ?それを、これ幸いと討ってしまうのはよろしくないですな。」

「バッハッハ。そうじゃそうじゃ。かつての敵方の根拠地に、こうして顔を出せる胆力は中々のものですぞ。無駄に犠牲を出さぬように、早めに降伏を受け入れた判断も良い。」

「それに、ここでそんな卑怯な真似をすべきでは無いと考えます。そんな事をせずとも、正面からぶつかればいいではありませんか。」


そんな景信達の意見に反対の姿勢を見せるのは、定満と景家と長重の三人。

同じく戦に参戦した面々となっていた。

さてさて、どうなるか?

他の戦に参戦しなかった者達は、この流れを見つめている。

どちらに付くべきか、思案しているのだろうか?

また、政景も黙して推移を伺っている。

座して処遇を待つなんて、なかなか潔く感じてしまう。


「長重殿はまだまだお若い。元服したてでは仕方がないかもしれませんがな。」

「うむ。わざわざ正面から無駄な労力を使うなど、愚の骨頂よ。今、討ち取れば、それこそ戦わずして勝つ事にも繋がろう。」

「おや、聡明なお二人が仰有る事とは思いませんでした。政景殿を討てば、その支配地で反乱が再び起きるのは必定でしょうに。房長殿が、まだ残っておられる事をお忘れのようだ。」

「ならば、そのときには兵を出せばよいではないか!」

「それでは、先程の戦わずして勝つは、何処に行ってしまったのでしょうか。感情論で動くのではなく、確りと民の事を考えるのであれば、おのずと答えは出ているでしょうに。」

「言わせておけば、小童が!」


おお、団々ヒートアップしてきた。

景信はそんなに政景を討ちたいのか。

中条殿によれば、政景を除く事で一門衆の筆頭に立つことが、景信の狙いであるらしい。

それに、今回の事でも意見が通ってしまえば、家中においても発言力が増すと考えたらしい。

全くもって馬鹿な話だ。

そんなことをしても、私が重用するかは分からないだろうに。

むしろ、遠ざけられる可能性は考えないのだろうか。

現在のところ、越後内で内政面で活躍しているのは、実乃、実綱、そして中条殿の三人が中心となっている。

これに揚北衆らなどが協力している。

これに彼らは協力的であるかといえば、残念ながら消極的な係わりしか無かったりする。

今回の戦においても、私からの依頼ではなく自ら出たいと申し出てきたから、参戦を許可した。

つまり、自らの利の為にのみ動いているように見えるのだ。

それが悪い事ではないにしても、印象はあまり良いものでは無い。


「結果、感情論が先行しているではないですか。答えに窮したからと言って、小童の一言で意見を除こうなど。」

「ならば、ここは景虎様に裁可を下してもらうよりあるまい!先の事を、越後の事を考えるのであれば、分かっておりますな?」

「何について分かっているのかは、よく分からないわね。」


自分でも、なんとも言えない返答をしてしまった。

仮にも、自分の主君を睨み付けながら言う事ではないわよね。

貞興が「アイツ、偉そーだな。」とか言っているのが聞こえた。

すぐに睨まれて、何処か別の方向を向いて、口笛を吹くような真似をして誤魔化そうとしているのが見える。

どうでもいいけど、口笛吹けて無いわよ?

あ、景家に拳骨落とされてる。

確かに、静かにしておかないといけない場面だからね。


「今のところ、意見を聞いている分には、政景は生かした方が良さそうよね。」

「何と!」

「どう考えたってそうじゃない。それに今回集まってもらったのは、政景の処断についての話をするつもりでは無かったんだけど?あくまでも、今後の処遇についてのつもりだったんだけど。」

「ならば、景虎様はそもそも政景を許すつもりだったと。」

「じゃなかったら、皆を集めないわよ。」


「ぐむぅ。」とか言って、黙る山本寺。

景信も苦虫を噛み潰したような表情を見せ、その心中を読みやすい。

でも、勝手に突っ走ったのは二人だから仕方があるまい。

止めもしなかったが。


「私が知りたいのは、何でこんなに私に逆らうような真似をせねばならなかったのかよ。まあ、こんな雰囲気じゃ、今さら聞いてもどうかと思うからもういいわ。それよりもこれからよ!確りと、越後の国の改革に付き合ってもらうわよ、皆!」

「この政景、身命を賭して。」

「そう?よろしくね。皆もそれでいいかしら?」

「「「はっ!」」」


一部の納得がいかないような表情をする者も見られたが、それでも皆一様に頭を下げる。

政景も、なかなかに調子が良いことを言う。

これからの働きを私に見せて、挽回していかないといけないから、それも分かるけど。

さて、とはいえ、このまま放置しては家中が、いずれまた割れるかもしれない。

私としては、一門衆である二人には、長尾家の両輪として活躍してもらいたいところなんだけど、このままではしこりが残る結果となるだろう。

でも、私には秘策がある。

二人とも、腹の中に溜め込んだ物を吐き出す場があればいいのよ。


「さて、これでこの話はお仕舞い。それじゃ、恒例のやるわよ。といっても、ただ飲むだけというのも味気ないから、今回も催物考えてるから。段蔵、準備はよろしくて?」

「はっ、いつでも大丈夫です。」

「そう。ならここに、長尾景虎主催相撲大会の開催を宣言します!」


評定の場にいた皆が、ずっこけたように見えた。

本来、もっと重たい話になるはずが・・・


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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