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軍配者定満

「かかれっ!」

「「うおおー!」」


将の指示に従い、兵達が城に向けて駆け出す。

城からは、矢が飛んでくるが、それに怯むわけにもいかない。

盾をかかげ、飛来する矢を防ぎながらも、勢いを殺すことなく一気に攻め寄せる。

なかば力任せにではあるが、どのような戦をしたとしても、最終的には力攻めになる。

どれだけ奇襲をしようと、奇策を打ち出そうと、最終的にはだ。

今回はそれが早かっただけの話な訳。


「ぐぬぅ!引けー!」

「「うおおー!」」


そして、将の指示に従い、兵達が城から離れる。

近づいたばかりだというのにだ。

すると、一部隊が引くのに呼応して、別の一部隊が近づいて行く。

これも、ある程度近づいたところでまた離れる。

これを何度も繰り返す。

何度となく攻めかけ、部隊が何度も引く事で、相手方に撃退させたと思わせる魂胆らしい。

実際、敵方の士気は上がるのだろう。

対して、こちらは相手からの攻撃を一方的に受ける事になる。

だが、そう見せかけるのが今回の戦の仕方だ。

その為、敵との距離を測りながらの戦いとなり、なかなか自由にはやれないだろう将兵達には苦労をかけてしまう事になる。


結局は奇策に頼っているなぁ。

だとしても、被害を減らせる可能性が高いと定満から言われてしまえば、それに従うのも良い。

ハッキリと言って、戦なんかでくたばってしまうよりも、家族に看取られながら死に行く方が余程良い。

何故このような手を打つのか。

定満が言うには、まずは敵兵の油断を誘う為。

さらには、こちらからの波状攻撃によって引き起こされる緊張感の維持をさせて、精神的に疲れさせようというものだった。

そして、最後にはどれだけ叩いても、士気が一向に下がらない私達を見て、動揺させようというらしい。

イメージは、上げて上げて落とすといった感じだろうか。


そして、もう一つ。

敵の目を釘付けにするためという理由もある。

で、その裏で何をするかと言うと、この場では何もしないという。

つまり、攻め気を見せながらも、何もしないというのだ。

しばらく何日かはこれを繰り返し、その後は周りで囲んでにらみ合いを続けることになった。

時おり、刃を交える事もあるが、それもこれもこちらに攻め気があるという事を匂わせておくためだ、あくまでも。

乱破衆はその間、敵方の伝令達を捕まえ続けているように指示が出されていた。

坂戸城との連絡の、いっさいを絶つように動いている。

さすがと言える働きを見せる乱破衆。

そして、伝令に扮した乱破が一人、また一人と嘘を伝えに行く。

攻め寄せた兵は意気軒昂であり、栃木城が押されていると。

また、敵方の後続の部隊(つまり、私達の側の戦力)が、続々とこちらに投入されている、と。

本来であれば、戦力の逐次投入はどうかと思うが、実際のところは増援が来たわけでもない。


まともに戦うつもりが、一切無い戦い。

気持ちの良いくらいの変化球だらけの戦となる。

が、それも一つの策として効果があるのなら、試してみる価値は十二分にあるといえる。

現に、最初は押せ押せの空気を纏っていた栃木城からの攻撃が、まばらになってきているように見える。

士気が下がったのか、それともただ単に矢が尽きたか?

単純に攻撃による疲れが出たのかも。

どちらにせよ、こちらが有利な状況になってきているのは事実なわけだし、ひとまずはどちらでも良いか。


「それで、この城攻めは何時まで行うつもり?」

「まだまだ始まったばかり。これからと言ったところになりますな。」

「そう。しばらくはこのままなのね。」

「ご不満ですか?」

「いいえ。楽でいいじゃない。」


さて、そうは言っても何日も戦をせずに、ただ城を囲むだけというのも、中々暇なものだ。

いや、私は号令をかけただけだったから、相当暇だったりする。

とはいえ、総大将が前線で戦うというのも、認められるはずもなく、ただただボーッとし続ける毎日だ。

敵方の動きは、偵察をする一般の兵達や、乱破衆の働きによって、筒抜けとなっている。

楽勝ムードが一転、何かおかしいと感づき始めている者も出始めているようだ。

もっとも、出たところで、どうにもならないだろう。

何せ、城主の発智長芳は、動く気配を見せることすらしない。

政景側にも嘘の伝令を送るが、栃木城にも嘘の伝令を送らない訳がない。

彼には、遠からん内に蘆名が出兵を決めただとか、それに呼応する形で、政景がこちらを攻めるといった事などをふき込んだ。

まさか、まるっと全て信じ込むとは思わなかったが、信じたかったのだろう。

こちらが城を囲み続け、そして援軍が一つも無いとなると、勝ち目は無いのだから。


さらに、そこから数日。

なおも城を囲むだけの日々が続く。

景家や長重はともかく、貞興は少し焦れてきているようだ。

私のところに来ては、まだなのかと問いただしてくる。

しかし、今回の戦は定満が全ての采配を取っており、ここで私が口を挟むのは、どう考えてもよろしくない。

まるで、定満の策を否定するかのようにも取られかねない。

無論、そんなつもりはない。

そんなわけで、引き続きのんびりとしようとすると、定満がこちらにやって来た。


「そろそろ頃合かと。」

「頃合?なんの?」

「政景らを倒す好機かと思います。」

「何もしていなかったのに?」

「何もしないというのも、立派な策です。何もしないという事をしているわけですから。」

「まあ、いいわ。今回の戦は、その辺はあなたに一任しているわけだから、好きにやっていいわよ。」

「かしこまりました。では、好きにやらせてもらいましょう。」


おおう。

これまた悪そうな笑顔を浮かべるわね。

そして、定満が行った一手。

それは、兵達に噂を広めるというものだった。

噂の内容は簡単。

五日後には、坂戸城に私の全兵力を以て、総攻めをするというものだった。

裏タイトル 詐欺師定満


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