支配者
内政に従事し続けつつ、戦力の確保にも勤しむ日々であったが、ある凶報が舞い込む。
それは越後守護である上杉定実様が身罷られたというのだ。
越後は、支配者を失ったのだ。
まあ、力が無かった訳で、民にしたらそれほど何か問題がある訳では無かったけれど。
とは言っても、一国を治める太守であったのは間違いなく、どうにも、ここのところ越後が騒がしくなってきていた。
面倒事が起きなければ良いのだけれど。
その後、定実様の葬儀を済ませる。
大々的に葬儀は行っておいた。
守護の葬儀がしみったれた物では、格好がつかないだろう。
各国の要人や、貴族なんかも訪れていた。
それなりに盛大なものになっただろうか?
私が喪主を勤めた訳ではないが、葬儀の取り仕切りに参加したのには理由があった。
この定実様。
なんと、後継者がおられないのだ。
つまり、上杉家の断絶を意味する。
あれ?
これって、私が上杉謙信を名乗るフラグが折れたって事?
まあ、色々やらかしているし、そもそもどんな経緯で上杉謙信になったかよく知らないから、それも仕方なしかな。
さて、こうなると守護の座はどうなるのだろう?
後継者がいれば、その人が継ぐ訳になるのだから、下からそのまま繰り上がる訳では無い筈なので、私がその座に就くことは無いだろう。
となると?
定満、説明よろしく。
「簡単な話ですな。後継者がいないとなれば、養子をもらうことになりましょうな。」
「でも、その養子をもらうべき人が亡くなっちゃったじゃない。」
「ええ、そうなると他国にいる血縁者か、それとも全く関係の無い者が、中央から下向してくるかでしょうな。」
「はー、成る程。そうなると歓迎会しなきゃいけないわね。」
「何をのんきな事を仰有る。下手をすれば、越後が再び荒れますぞ?」
「えっ?何で?歓迎している意思表示をしているのに?」
「どちらからにせよ、介入は有るでしょうな。今現在進めている政策にも横槍を入れられるかもしれません。となれば、皆の苦労も水の泡になりかねない。出来れば、これらの侵入を防ぎたいところですな。」
せっかく頑張ってきた事が、意味が無くなる?
それは、ハッキリと言って困る。
結果が出ないままというのもそうだが、それでは損害額がいくらになるのか、想像出来ない。
間違いなく、失敗は出来ない。
下手をすれば、また貧乏国へと一直線なわけだから。
「なんとかならないかしら?」
「やはり、ここは景虎様が立つ以外、ありますまい。」
「えっ?私が守護になるの?」
「いえ、それは必要ありません。要は、内外に越後の支配者が誰であるか、知らしめればよいのです。それが叶えば、守護でも守護代でも大差はありますまい。」
「そうは言ってもね。それこそ、定実様の後釜を狙う連中からしたら、承服出来ないんじゃない?」
「でしょうな。」
「いや、でしょうなって」
それじゃ、解決にならないじゃない。
でも、こんなときはおそらく、解決法は考え済みだと思うのよね。
勿体ぶるのは、良くないわよ?
「ここは、それらを黙らせる事の出来る方に、すがるのがよろしいかと。」
「そんな人知り合いに居たかしら?」
「知り合いには居られないでしょうな。しかし、日の本に住まう者なら知らぬ者は居らぬでしょう。」
「そんな人居たっけ?」
「はぁ・・・ここまで言っても分からぬとは・・・」
えーっと、なんだっけ。
知り合いじゃないけど、皆知ってる訳でしょ。
てことは、相当な有名人でしょ?
それに、この状況を治められるという事は、権力者なのかしら。
そもそも、守護の設立に絡んでいたのは・・・確か幕府だったわね。
という事は?
まさか、将軍様の力を借りようって話?
それって、凄い無茶な話では?
「幕府の力を借りるってこと?」
「その通りですな。現在、将軍は各地の紛争の調停などに、積極的に介入しておるとの事。ならば、これを利用せぬ手はありません。長く続く権威というものは、実行力はさて置き、侮れぬ物がありますからな。」
「ふんふん。」
「むしろ、ここらで誼を通じて置くのもよろしいかと。」
「そうね。それじゃ、その案採用で。」
「では、委細取り仕切らせて頂きます。」
「あら、やる気ね。」
珍しく定満がやる気を見せている。
内政に関するものは、ことごとく嫌そうな態度をしていたというのに。
まさか、将軍相手だから?
私だったら恐縮してしまいそうなものよね。
その後、定満の尽力もあってか、将軍より白傘袋の使用を許される。
守護代の時は、唐傘袋であったわけだ。
これにより、守護と同じ待遇を受けることとなった。
守護代のままなのだけれども。
そして、これで越後が安定するかと思いきや、この事が引き金となり、再び戦を起こす原因になった。
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