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再びの戦支度

「やれやれ、面倒な事になりましたな。」

「本当にそうですな。ようやく安定するかと思っていたのに、これはどういう仕打ちなのでしょう?気合いで乗り切れぬとは、これいかに?」

「まあまあ、御両者とも。それほど、ぼやかぬともよろしかろう。」

「何をおっしゃる。一番煽りを食うのは貴殿であろうに。」

「それは仕方なしですな。それよりも、今はこの事態をどうするか考えねばなりますまい。」

「それは確かに。はぁ、面倒事は止めて頂きたいものですな。」

「はっ!まさか、この事態を気合いで乗り切れなければならないと?となると、まさに試練か!」


私の前では、不毛と言ってしまえば全てが完結してしまうであろう話し合いが行われていた。

集まったのは、私が越後をより良くする為の政策の施工を任せた三人だったりする。

若干、一人暑苦しいけども。

しかし、この事態は何とかしなければならない。

しかも、早急に。

でないと、様々な作業が滞る事になる。

となると、無駄に金が掛かる事になり、下手をすれば赤字まっしぐらとなる。


何故こうなったのか?

簡単な話ではある。

将軍よりの、私の守護大名扱いに反対をした勢力が兵を興したからだ。

ハッキリと言って、迷惑な話だ。

もう少し空気を読めと言いたいところだったりする。

この時代の人間に言ったところで「空気ってなんぞ?」と言い返されそうで、意味は無さそうだったりするわけだけど。

兵を興したのは、長尾政景だった。

あんた、また?と言いたくなる。

前回は、綾姉様の顔を立てて許したが、今回はどうするか。

どう考えても、勝ち目なんか無いでしょうに。

従う兵の数も、手中に納める銭もこちらが上。

そんな状態で、どう戦をして、私に対向しようというのか。

もしかして、ただの嫌がらせじゃないでしょうね?


「して、景虎様は今回はどう収めるつもりですかな。」

「そうねぇ。まずは何故このような事になったのか、真意を知りたいところよね。そうは言っても、相手が兵を興して、私に対する反目の意思を示している以上、さっさと鎮圧しないといけないでしょうけど。」

「それはそうですが、どうします?誰を送られるのです?」

「決まっているじゃない。私が行くのよ。あなた達は、引き続き作業に従事していてくれればいいから。」

「ほう。景虎様が自らご出馬か。」

「それはいい。早々に制圧してくだされば、作業にあまり影響なく済むやもしれません。景虎様!気合いですぞ!」

「気合いはともかく、そういうこと。じゃあ、後は頼むわね。」

「「かしこまりました。」」


三人には、このまま作業に従事してもらう。

また、中条殿に従って作業についている揚北衆も今回は連れていかない。

後で文句を言われそうだけど、仕方がない事だろう。

彼らでは、やり過ぎてしまう可能性もあると考えたからだ。

部屋を移り、定満の元へと赴く。

部屋の中に、地図を広げて何やら思案しているようだ。

この地図、創設したばかりの乱破衆により作られている。

様々な場所に、容易く移動する、その特殊技能が存分に生かされた物となっている。

そこに、私の記憶にある地図の形を導入することで、この時代どこにも存在しない、一点物の門外不出の一品となっていた。


「どうかしら?」

「おお、景虎様。これは良いですな。地形が手に取るようです。」

「そこまで?」

「これまで、あった物とは段違いです。決して他国に渡ってはならぬほどですな。」


普段から、地図を見る機会の多い彼がそう言うのなら、そうなのだろう。

高い評価を得られたことで、乱破衆の価値も少しは上がった事だろう。

彼らは、自分達自身に対するの評価が低い。

自らを卑下しているとも言える。

少しでも自信をつけてもらわないと。

自分の仕事を誇れないようでは、それはあまりに悲しい事だから。


「それで、どう攻めようかしら?」

「我攻めでも落とせそうなものですが、損害を考えるとあまりその手は取りたくはありませんな。」

「そうすると、城を包囲するのが最善かしらね。でも、時間が掛かってしまいそうね。」

「仕方がないでしょう。しかし、すぐに動員出来る程度で構いません。国内で施工されている政策は、そのまま推し進める事が叶いましょう。」

「ふむふむ。そうなると、景家の独壇場になりそうよね。」

「それならそれでよろしいでしょう。それに長重、貞興の二人にとっても初陣となります。柿崎殿が頑張るのなら、それだけ二人の負担も減ることになり、それはすなわち、生き残る可能性が高くなる。」

「二人には、華々しい活躍もいいけど、確実に帰って来て欲しいものね。あなたも存外優しい所があるのね。」

「二人が戦場で散った際の、景虎様の様子を想像するだけで、そら恐ろしい事が待っていそうですからな。」

「まあ、ね。」


二人が戦場の露と消えるなど、想像出来ない。

仮にそうなったなら、遮二無二、敵兵を討ち果たしていくのは、想像に難くない。

それじゃ、指揮官失格なんだろうけど、それはそれというやつだ。

感情が理性を上回るなど、往々にしてある。

今回、兵を興した長尾政景の事を笑うことなど、到底出来そうに無いわね。


「おそらくですが、戦に向かうのは年明け早々になると思われます。」

「それじゃ、遅くない?」

「兵は神速を尊ぶとはいえ、なんの準備も無しでは戦うことなど出来ません。」

「まあ、そうよね。それじゃあ、私は兵達の所に顔を出してくるわね。」

「ふむ、そうですな。少しでも士気を上げておいてくだされ。」


そうして、私は定満のもとから去った。

打倒政景か。

確実に落として、何としても越後を平和にしなくては。



景虎様が去られてすぐに、儂の元に訪れた者がいた。

予想通りではあったが。

神妙な面持ちをしているが、その内心を伺い知るのは、儂であっても難しい。


「少しよろしいか?」

「無論、構いませんぞ。むしろ、こちらに顔を出すと踏んでましたからな。」

「成る程。予測できましたか。」


儂の言葉に、素っ気なく答える中条殿。

だが、これくらいの事を予測できずして、何が軍配者か。

人の機微を伺うだけでなく、その先の動きまで予測できなくては、到底勤まるものではない。


「それで、中条殿。用向きは?」

「それも予測出来ているのでは無いか?」

「蘆名の動きが気になるといったところでは無いですかな?」

「ご明察ですな。おそらく政景めは、蘆名と手を結ぶ事で景虎様に対向しようと考えておるのでしょう。ようやく越後が一つに纏まろうという時に、他国の勢力を引き入れるような愚を犯そうとは。」

「まったくですな。それで中条殿はそれを忠告するために?」

「いやいや。そのような考えには、宇佐美殿であれば既に到っているでしょうからな。聞きたいのは、それに対する策の方ですな。」


やはりか。

予想通りではある。

中条殿の行動には一貫している事がある。

景虎様を支援し、越後を一つに取り纏めようと、躍起になっているように思える。


「まずは、蘆名にあえて政景めの謀反を知らせます。これにより、どのように動くか見えてきますからな。先んじて手を結ぶ事が出きれば、連中の介入は無くなります。そして、仮に動いたとすれば、その防波堤には揚北衆の力を借りる事になりましょう。その為に、今回はあえて揚北衆は連れて行きません。」

「それで上手くいきますかな?」

「心配は無いでしょう。動いて来ることは無いと思います。行動に移すための口実無くば、動くことは出来ますまい。長尾家は、将軍に認められて、国主の扱いを受けることになったのだから、下手をすれば、将軍家をも敵に回す可能性も出てきますからな。」

「うむ、儂の考えも同じじゃ。」

「それは重畳。中条殿に太鼓判を押して頂けるのであれば、今回は確実に出ては来ぬでしょう。」

「はっはっ、それは買いかぶり過ぎというものです。まあ、万が一が起きた際に備えて、いつでも動けるように準備をしておきますかな。」

「よろしくお頼み申す。」


軽い考えのすり合わせが終わると、中条殿は去っていく。

儂の答えに満足したかどうかは分からないが、取りあえず及第点には到っているだろう。

さて、儂は儂で考えを深めねば。

勝利を確実な物にするための努力は惜しむ気はない。

一寸先は闇。

何が切っ掛けで、予想だに出来ぬ事が起きる時代。

それを防ぐ為の努力を惜しむつもりはない。

今はそのときまで、ゆっくりと牙を研ぐことにしよう。

景虎に関わらなければ、皆かっこいいんじゃないだろうかと、最近よく思います。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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