乱破衆設立の為に その二
戦の無い、平和な時間が越後に流れる。
まだまだ、干拓の成果は上がらないけれど、それでも民の怨嗟の声は聞こえてこない。
それなりに、成果が上がっていると思っても良いのかもしれない。
やはり、蕎麦を始めとした救荒食物の栽培を奨励したのが大きかった。
勿論、米の栽培も平行して行っていたわけだが。
さらに、年貢の引き下げも期限つきではあるが行った。
兄上から家督を継いだ祝いという名目でだ。
人間、食べる物があれば、何とか生きていける。
そして、お腹いっぱいに食べられれば、争う気持ちも弱くなるというものだ。
それが顕著に、結果として出ている。
争いの無い国。
笑顔で収穫物を手にもつ人びと。
そうした、のんびりとした時間を楽しめるのは、とても素晴らしい。
そんな最中、段蔵が帰ってきた。
「お帰り、段蔵。」
「はっ!」
「それで、段蔵の隣の方は・・・誰?」
「はっ!こやつは熊若と言います。甲州乱破としても、中々の名の知れる男にて、必ずや景虎様のお役に立てることと存じます。」
「そうなんだ。はるばる甲州から越後まで、よくいらしてくれたわ。」
「はぁ・・・」
「なんだ熊若!その気の無い返事は!」
「いや、だってよ・・・」
そう言って、ジロジロとこちらを見てくる。
値踏みをするにも、もう少しやり方があると思うんだけど。
そして、そんな態度を示す熊若に、段蔵が慌てたような、怒ったような様子を見せる。
まぁ、そうよね。
こんな若造、パッと見頼りないものね。
不躾無遠慮に関しては、あまり気にしていない。
なにせ、定満や景家で慣れてしまっているから。
「私の元では、やっぱり不安かしら?」
「正直な話、その通りですわ。」
「おい!熊若!」
「だってよ、段蔵。確かに今の態度は失礼にあたるんだろうよ。でも、こっちは一族の命を背負ってるんだぞ。申し訳ないが、ここは正直に行かせて貰いてぇ。」
「うん、正直なのは嫌いじゃないわ。それで?」
「申し訳ありません、景虎様。」
若干というより、かなりの失礼な態度をする熊若に、恐縮しまくりの段蔵。
でも、私こういうの嫌いじゃないのよね。
あまりに酷すぎれば、流石に怒らなくてはならないけれど、私欲というよりも、仲間の為というのなら、それはそれで構わない。
もっとも、他で同じ事をして無事で済むから分からないから、おすすめできないけども。
「本当に士分として雇うと?」
「そうね。それが望みなら、そうするつもりよ?あくまでも今まで通りが良いというなら、その限りではないけど。」
「どこの馬の骨ともつかぬ我らを?」
「馬の骨かどうかは知らないけど、あまり自分達を卑下する物ではないわよ。一芸に秀でているのなら、それは何よりの強みになるわよ。あなたがその気であるなら、長尾家はあなた達を快く迎えるわ。」
「本当なのか・・・?」
いや、だから本当だって。
段蔵の時もそうだけど、どうにも生まれにこだわりすぎなのよね。
そりゃ、貴い血筋ってのもあるのかもしれない。
ハッキリと言って、家柄も素質の一つとも言えるから。
だけど、だからと言って卑屈になる必要は無い。
むしろ、そんな態度を取るという事は、今まで積んできた努力を蔑ろにしているようで、よろしくない。
「景虎様は、嘘はおっしゃらない。どうだ、これだけ器の大きな方は、なかなかいないぞ?」
「うん、うん・・・そうだな。景虎様、我らを雇って頂けるのですな。」
「二言は無いわ。」
「それではよろしく頼みます。それで、願いが一つあるのだが。」
「願い?」
「山を一つ譲って頂きたい。」
「山を?何でまた?」
「そこに里を作り、一族の住む場所を作りたい。そして、そこを乱破の術の修行の為にも使いたい。」
・・・山?
山ねぇ。
流石にそれは想定外。
いや、里を作りたいというのだし、修行の場を作ると言うのだから、それもいいけど。
「城下には住まないの?」
「なんと!我らのような怪しい者を城下に?」
「怪しいも、何も、あなた達はこれから武士としても、生きていくのでしょう?屋敷も用意させるつもりでいたけど。」
「なっ!ここまで厚遇なのか!」
「それと、山を与える事は流石に出来ないわ。まだ、功績を上げた訳でも無いのに、土地を与えては周りに示しがつかないわ。」
「むう・・・それはそうかもしれんが。」
「だから、使用権を与えるわ。好きにやっていいから。その辺は段蔵が面倒見てあげて。」
「かしこまりました。」
段蔵が平伏するのに合わせて、熊若も平伏する。
これで、乱破衆設立に大きく一歩を踏み出した事になるのね。
段々と楽しみになってくるわね。
あ、そうだ。
思い付いた!
「それと熊若。あなたが、根拠地にしようと考えている山以外のところにも、似た施設は作れないかしら?」
「似た施設?修行場にですか?」
「うん、そう。そこで乱破の体験とか、出来るように出来ないかしら?こう、手裏剣を投げられるとことか。」
「乱破の・・・我らの秘術を盗むおつもりか?」
「早合点しないで。そんなつもりじゃないのよ。ただ、見せても良いところまででいいから。そこを観光地化したいのよ。」
「観光地?」
「そう!越後だけじゃなく、諸国から人を招いての忍術体験をさせるのよ。勿論、参加費をとってね。結構、面白そうだと思わない?そんな施設は聞いたこと無いから、先駆者になれるわね。題して、シノビーランド計画よ!」
「はぁ?」
「気にするな、熊若。たまに、こういう風になる方なんだ。」
いいじゃない、シノビーランド。
まだ、テーマパークの概念は無いみたいだし、こういう体験が出来る施設って、結構面白いと思うのよ。
大人も子供も楽しめる施設が出来れば、他国の貴人が訪れたとしても、案内できる名物が出来る。
暴論、越後には何も無いのだから。
「ということで、頑張って頂戴!儲けの何割かは、乱破衆の物とするから。励めば励むほど、人が集まれば集まるほど、取り分が増える訳だから。そこんところヨロシク!」
「ほう、取り分を頂けるのですな。それは励まねば。」
「それじゃ、段蔵もあとヨロシク。」
「はぁ、かしこまりました。それと、景虎様。自分はまだ人を集めたいと考えているんですが。」
「そうなの?無理しないようにね。」
「はっ!」
そうしてその場には、シノビーランドなるテーマパーク設立に燃える私と、金に目が眩む熊若、そんな私達二人に呆れながらも、自分の仕事を進めようと考える段蔵の三人が、文字通り三者三様に思いを馳せていた。
これぞ悪ふざけ!
書いておいてなんだけど、シノビーランドって。
誰か、ネーミングセンスを下さい。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




