乱破衆設立の為に その一
それは思い付きだった。
いつも通りと言ってしまえば、それだけの事なんだけど。
でも、私はこの思い付きを大切にしたいと考えていた。
往々にして、役立つ事が多かった為だ。
もはや、直感頼みの不安定さではあるが、それはそれで。
「誰かいる?」
「はいっ!何でしょう?」
部屋の中から大声で呼び掛けると、私の部屋のすぐ隣の部屋に待機する者が飛んで出てくる。
私からの雑用を受け持つ役目を受ける、所謂小姓のようなものとなる。
揚北衆をはじめとして、私を支持する派閥から出された子供達だ。
私に顔を覚えられれば、めっけ物らしい。
けっして人質として求めたものでは無い。
「ちょっと忙しい所悪いんだけど、段蔵呼んでもらえる?」
「かしこまりました。」
「それには及びません。何かご用でしょうか?」
「うわっ!居たのっ!」
「おおっ!いつの間に!」
突然、何処からか現れた段蔵に、私も小姓の子も驚かされてしまう。
さすが忍者ね。
何処に潜んでいたのだろう?
まぁ、聞くだけ野暮よね。
だからこその忍者なんだから。
この時代の呼び方からすると、乱破とかになるのよね。
「それで、何かご用でしょうか?」
「そう、そうなのよ。段蔵、あなた他にも乱破を知らない?」
「乱破ですか?」
「うん、そう。あなたのような人達を集めて、乱破衆を作りたいと思うのよ。」
「乱破衆・・・ですか。」
「あら?嫌?」
「いえいえ、そのようなことは・・・」
段蔵以外にも、乱破はもっと多く抱えるべきよね。
他国の情報を知ることは、とても大事な事なんだから。
勿論それだけじゃない。
先物取引なんかをするにしても、各地の情報を得ることが出来れば、商売も強い。
なんなら、情報操作で相場を弄ったっていい。
それを秘密裏にやれる人材の確保は、ハッキリと言って急務といえる。
でも、何故か段蔵の反応が悪い。
何故なのかしら?
「それで、その人達を雇いたいと思うんだけど、知り合いとかいるかしら?」
「何人か思いつく者達がおりますが。」
「なら、その人達に声をかけてちょうだい。あ、その人達の面倒は見てあげてちょうだい。」
「ということは・・・どういう事でしょう?」
「いや、だから、あなたが越後の乱破衆の頭になってくれたらいいって言ってるんだけど。」
「なっ!まだ、奉公を始めたばかりの私が?」
「だって、適任はあなたしかいないでしょ?扱いは、あなたのように武士として雇ってもいいし、今までと同じがいいなら、それで構わないから。」
実乃に文句を言われそうだけれど、それは仕方がないわね。
そもそも、段蔵を雇いいれたのも私の独断だものね。
でも、長尾家の最高責任者って私でしょ?
今は名実共になったのだから、その程度は許されるかな。
「じゃあ、お願いするわね。」
「はいっ!身命をとしてっ!」
「いや、そこまで意気込まなくても大丈夫よ?駄目だったら駄目で仕方がないし。」
「いえ、是非にともやらせていただきます。それにしても、早とちりをしておりました。」
「早とちりを?」
「他の者を引き入れる事で、自分の価値が無くなるような気がしたのです。」
「あー、それは確かに早とちりね。」
どうにも段蔵は苦労人だったようで、長尾家の来る前は長く修行の日々を過ごしていたらしいし、それこそ常陸から来たというなら、そもそもそこの土着の武将に、所謂就職活動をしていただろう。
それが、流れ流れて越後まで、流れて来てしまったのだ。
これだけ出来る人を取りこぼすなんて、勿体ないわよね。
「まぁ、そうね。上手くいったら加増もしないとね。せっかく頭に就くのに、同じ俸禄では、周りに示しがつかないものね。」
「はっ!ありがたくっ!それでは行って参ります!」
「うん、道中気を付けてね。」
私に一礼すると、ダッと廊下を駆け、塀に向かって走っていく。
そして、塀をひょいっと飛び越えて行ってしまい、すぐに後ろ姿すら見えなくなってしまった。
どんな身体能力!
よっぽど武士より凄いんじゃないの?
ほら、横で静かに状況の推移を見ていた小姓君も驚いてる。
まあ、いいか。
忍者だし。
さ、仕事に戻ろう。
◇
なんとも言えない喜びが、身体中を支配しているのが分かる。
思わず駆け出してしまい、塀を飛び越えてしまった辺りで、粗相をしたと気付く。
が、むしろ今戻る方が、より不敬にあたるか?
まぁ、いまさら言っても仕方がない。
それに、景虎様はお優しいお方だ。
この程度では怒ることは無い。
むしろ、お喜びになっていたように見えた。
まだまだ、自分は長尾家では新参もいいところ。
しかも、出自もハッキリとしないような自分を、これだけ買ってくれるとは。
新たに乱破を雇い入れ、乱破衆をお作りになると。
しかも、その頭領に自分を選んでくれるとは。
今まで会ったことのある武士とは、全く違う。
それこそ、人としてではなく犬畜生などと、ほぼ同列にでも見られていた。
そして、それは一生変わること無く、雇われたとしても見られ方は変わらないと思っていた。
だが、景虎様は違う。
血筋の貴賎を問わない度量の広さがある。
微力でも、お力にならなくては。
さしあたりは、自分と共に景虎様をお助けする者を引き入れなければ。
「うおーーー!!!」
叫び声を上げながら、一気に駆けていく。
越後の近くとなれば、まずは戸隠か?
風魔は排他的な所があるから除外するとして、奥州という手もある。
ふむ。
まずは、知り合いの所に向かうとしよう。
その後でも、構いはしないだろう。
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