守護代初仕事
兄上から家督を受け継いだ事で、私は越後守護代となった。
いうなれば、越後という国のナンバー2となったわけだ。
実質ナンバー1だったりするのだけれど。
というのも、越後守護である上杉定実様は、権威はあっても実力が伴っていない。
所有する兵力も、それこそお飾り程度だったりする。
また、彼になびく者は、ほぼほぼ皆無であると言ってもいい。
落日の如きである守護に付くか、それとも昇り調子でイケイケの守護代である長尾家に付くか。
考えるまでも無いことだろう。
実権を奪おうとした動きを見せれば、即座に対応せざるおえない訳だけど、幸いというか賢いというか、そのような動きは見せなかった。
勿論そんなことをしようと考えないように、私も極力優遇するようにしていた。
そのせいでちょっと調子に乗って、色々と口を出されたりしたけれども。
さて、長尾家当主として、また越後守護代として初めての仕事に取りかかる。
越後を豊かな国にするべく一大事業をぶち上げる。
それは何か?
越後には干潟が存在しており、その為に田畑を作ろうにも作れない場所が多々あった。
しかし、小さな豪族程度の勢力ではいかんともし難い。
その為に、近隣の豪族での小競合いが多々起きていた。
少しでも条件の良い土地を求めて、争いを続けていたわけになる。
それを無くす為にはどうするか。
簡単な話である。
「これより、干拓をするわよ!」
「干拓・・・でございますか?」
「バッハッハ、夢は大きくですな!」
「夢なんかじゃないわよ!なんとしてもやりきって、民百姓の暮らしを安定させるのよ!」
私が言い出した提案を鼻で笑われる。
しかし、私は本気で言っているんだから真剣に聞いて欲しい。
これが上手くいけば、越後は飢えなくなる。
それに民が富めば、自ずとその富が長尾家にも流入することにも繋がるんじゃない?
結果皆幸せになれる。
うん、完璧。
「うーぬ。しかし、言うは易く行うは難しですな。どういたしましょうか?」
「この作業にあたる人達に関しては、賦役としてやってもらう事になるわね。それと、これにあたる人達には長尾家から食料を給付します。それに月に一度銭を与えたいのよ。」
「賦役とするのにですか?」
「そりゃ、そうよ。食べられなければ生きていけないから。それに銭を与える事で、賦役とはいえ仕事として真剣に取り組んでくれるなら、むしろ安いものじゃない?」
「しかし、莫大な銭がかかりますぞ?」
「それも考えてるわ。青苧から得られる税をこれに充てます。それと直江津や柏崎とかの港を、もっと栄えさせて商売の流れを活発にしたいわよね。そこから得られた税収も使っていけば不可能じゃないと思うのよ。」
越後は青苧という、この時代の衣服に必要な繊維をとることが出来る植物の税収が莫大であった。
そして、それを長尾家は一手に受け取っており、それがひいては長尾家の興隆に繋がっていた。
そのせいもあってなのか、他の家では困窮する場合もあったりしたわけだが。
その莫大な銭を干拓事業に充てるのだ。
「しかし、一年や二年程度では結果は出ないでしょうな。それにこの事業に全ての者達が賛同するとも限りませんぞ?」
「そっ、そうです。それに、誰がその指揮をするのです。武功にも繋がらぬ内政となれば、手を上げる者などは皆無と言えますぞ!」
「バッハッハ、その辺も何かお考えがあるのだろうよ!まあ、儂はごめんこうむりますがな!」
「そりゃ、やるからには指揮をする者が必要よね。」
チラッと実乃を見ると、ビクッとして首を横に振る。
ああ、そんなに嫌なのね。
定満は・・・無いわね。
景家はやらないと宣言されてしまったし。
となると誰が良いか?
実は事前に兄上に相談したところ、一人の武士を推薦されていた。
「直江実綱に任せようと思うのよ。」
「ほう?」
「直江殿ですか!それは良い!あの方は為景様の頃よりの奉行職であられる。格も質も十二分のお方です!」
「確かに奉行を任せれば、良い結果が出るやもしれませんな!」
あら、手の平返し?
直江殿であれば上手くいくと?
それとも自分がする可能性が無くなったから、ただ単に喜んでいるだけ?
でも、港を開発する仕事もあるんだけどね。
「というわけで、港の開発は実乃に任せるわね。」
「うえっ!何を!」
「ふむふむ、それは妙案にて。直江殿と並び称される実乃殿であれば、これに関しても間違いはありますまいな。」
「バッハッハ、そりゃ良い!」
「ちょっと待って下され!それがしがですか!」
「そうよ。あ、それとこの事業に関わる二人には、別途何らかの俸禄を支給することを約束するわ。これからは戦だけじゃなく、後方支援や裏方の仕事に対しても、相応の評価をすることを約束するわ。適材適所で頑張って欲しいものね。」
「成る程。思いきった政策となりそうですな。」
「そう?」
定満が感心したようにうなずいている。
が、私は内心ヒヤヒヤしていたりするのだけれど。
というのも、まず干拓をやると言ってはみたものの、やり方は分からない。
一応書物なども目を通したが、ざっくりとした形でしか書いておらずよく分からない。
その為、これらは内政が得意な人物に丸投げしてしまう。
また、港を栄えさせると言っても、これに関しても中々難しい。
他所の港との差別化が出来れば良いのだけど、そうそう簡単に思い浮かぶ訳もない。
その為、これも思いっきり丸投げしてしまう。
つまり、目標はあっても実際のところは、中身はスカスカだったりする訳なのだ。
一応、どの程度の予算が出せるかは試算して出してある。
と言っても、これまでの収入と支出を計算して、余剰分から蓄財に充てる分をさっ引いた金額がそれなのだが。
お陰で、しばらくは眠れない日々が続いたのだが。
それでも、それなりの額が出せた訳であるから、青苧の上がりはハンパナイ物があるということよね。
「何故、それがしばかりが大変な目に・・・」
「それだけ頼りにされていると思って諦めなされ。」
「バッハッハ、まぁ、頑張れ!」
「トホホ・・・まぁ、やりますけど・・・」
何か私が物凄い悪者みたいじゃない。
まあ、いいわ。
今のは聞かなかった事にしておきましょう。
さて、次ぎはどうしようかしら?
書きためるつもりが、全然時間が取れず、ほぼほぼ書けなかった・・・
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