第二次黒滝城攻め その三
しばらく城攻めの準備をしていた。
といっても、私がやることなどさほど無く、定満とどう攻めるかの最終確認をしていた。
ある程度、煮詰まってきたあたりで、遠く黒滝城の方からこちらに歩いてくる者が見えた。
あれは・・・中条殿だ。
どうやら無事に帰されたようだ。
首尾の方はどうだったのだろう。
上手く話が纏まってくれていればいいのだけれど。
涼やかに歩く様を見ていると、他の揚北衆の面々と比べても、少々異色に写るわよね。
「お疲れ様でした、中条殿。それでどうでした?」
「申し訳ありません。けんもほろろに断られてしまいました。」
「あー、やっぱり駄目だったのね。」
「面目ありません。こうなれば戦場にて働きを見ていただく以外に、この汚名を返上することは出来ますまいな。」
「そんな事は無いわよ。ちゃんと相手の気持ちや考えが分かっただけでも勲一等物よ?」
「なんと!そこまで言っていただけるとは!」
面目無さそうにしているから、励ます意味合いでも少し持ち上げるようにしたのだけれど、それを驚かれる。
素直に驚かれてしまったけれど、そんなに大した事なのかしら?
中条殿が戻って来るのを見ていたのだろう。
本陣にまでやって来ていた諸将も、唖然としている。
いや、だからそんなに驚く事がある?
「勲一等とは本当にですか?」
「えっ?」
「戦働きをしたわけでもなく、降伏勧告もしくじったというのに?」
「ああ、そういうこと。」
「どういった考えから出ているのか是非にも教えて頂きたい!」
色部殿が、かなり強い口調で問いただしてくる。
他の皆もおんなじ気持ちのようね。
そりゃそうか。
戦場で働いて勲功上げるために、先陣をきらせろと言ってくる面々なのだから。
「そうねぇ。まぁ、勲一等は言い過ぎだったかもしれないけど、十分称賛に値すると思うのよね。」
「ですから、それは何故なのです!」
「慌てなくても今から説明するわよ。無事に帰ってきた事。これで今、黒滝城の中の様子がどうだったか分かるでしょ?」
相手の状態を知ることが出来るのは、とてつもないアドバンテージを得るに等しい。
無論、それが偽装である可能性も無いとは言わないが、それでも一つの指標になる。
攻め気でいるのか、それとも今にも逃げ出しそうなのか。
それを知れるだけでも大きい。
それに城内に入ったとなれば、城自体の状況も分かる。
前回の戦から、どの程度復旧出来ているのかどうか。
それにより、どこから攻めるべきかも見えてくる。
「そうかもしれませんが、それなら勧告を失敗した責はどうなるのです。」
「そんなの、許可した私が負うに決まってるじゃない。」
「つまり、この責は景虎様にあると?」
「そういうこと。手柄は上げた本人の物、失敗はその行動を許可した私の物。なんか文句ある?」
「いや、この色部勝長感服つかまつった!そのような考えを持っておられるとは!」
「でも、私の判断の外にある明らかな失敗は、さすがに処罰せねばならないだろうけど。」
何でもかんでも私のせいにされては堪らない。
今回のように、私が許可した事柄において失敗した場合は、私が責を負うのは分かるが、それ以外は違う。
そりゃ、どこそこを守れと言う命令を出したとして、そこを守る将の判断ミスでその場を失ったとしたら、処罰対象になるのは当然よね。
不可抗力や、明らかな戦力差であれば致し方ないと言う話なだけなんだけど。
負けて兵を減らすよりは撤退して、油断しているところを逆撃する方がいい場合もあるって話。
そこら辺は、ちゃんと釘を刺しておかないといけない。
何でも許してくれると思われては困ってしまう。
「成る程。しかし、それでも諸将は働きやすくなりまする。」
「バッハッハ、優しすぎるようにも思えますが、それも宜しいですな。」
「失敗を心配して縮こまるよりは、何でもやってみなくちゃ分からないでしょ?で、それはそれとして、どう中条殿。城の様子は?」
「完全に士気は落ちて下りますな。大将である黒田秀忠が、強硬な姿勢を崩してはいないだけで、あとのは風が吹けば吹き飛ぶ木っ端のごとき物。攻め上げればすぐにも落ちましょう。」
「そうなの?よくそんなんで謀叛なんて企てるものよね。まあ、いいわ。それじゃ皆、出陣しましょう。今日もよろしく頼むわね。」
「「「はっ!」」」
こうして、第二次黒滝城攻めは切って落とされた。
鮎川殿が、真正面から攻め立てる。
門の修繕が完璧では無いせいか、前回の時よりも早く開く。
そして、開いた門に兵達が殺到する。
これは搦め手から攻める景家の出番は無いかもしれないわね。
一気呵成という言葉がよく似合うような戦となった。
城攻めを開始して数時間。
伝令を任されたであろう若武者が、こちらに駆け込んで来る。
「黒滝城が落ちました!お味方大勝利にございます!」
「そう。それで黒田秀忠は?」
「城の中で自刃をしたようで、すでに発見したときには息はありませんでした。」
「そう・・・それで他の生き残りは?」
「黒田の一族はことごとく反抗してきた為、全て処断されております。」
「えっ、全て?」
「はい!全てです。」
黒田秀忠を筆頭とした黒田の一族は、この戦で全て散った。
何とも言えない後味の悪さがある。
しかし、戦はとどのつまり命の取り合いだ。
そうであるのだから、致し方ない事。
そう自分に言い聞かせ、何とか平静を保つよう努めた。
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