暗躍
黒滝城へと近づいていく。
たった一人でいるというのに、堂々とした態度で臨む。
それもそうだ。
あくまでも、長尾景虎の使者として赴いたのだ。
下手に、おどおどとしてしまえば侮られるのは明らかであり、それなりに高圧的にいく必要がある。
「お頼み申す。」
「んあ?お前誰だ!」
「儂は、長尾景虎様より使者として参った中条藤資だ。黒田秀忠殿に取り次ぎ願いたい!」
「中条?あぁ、あの中条様か!」
塀の上より、こちらを見ていた兵が慌てて駆けていく。
それと、ほぼ同じくして正面の門が開く。
前回攻撃を受けた影響もあってか、まだ修繕が完全に済んでいないらしく、防御面で少々不安に思える。
開いた門より中に入る。
少し進んだくらいですぐに門が閉じられたようで、大きな音を立てていた。
その音を気にすること無く、城内に入る。
城と言っても大仰な事は無い。
どちらかと言えば、砦と呼ぶ方が良いだろう。
さて、建家の中に案内され、それに素直に従う。
下手な動きは自らの寿命を縮める要因になる。
何せ、ここは敵地の真只中なのだから。
歩きながらも、城内の様子をチラチラと確認をする。
貴重な情報になるのは間違いない。
兵達の士気はそれほど高くは無さそうだ。
外にいる景虎様の率いてきた兵との数に慄いたか?
戦意を喪失してくれていれば、楽な話だ。
「秀忠様はこちらの部屋に居られます。」
「うむ。」
ガラッと入り口が開かれる。
中には鎧で身を包んだ老齢の武士がいた。
もうよい歳であるというのに、元気な事だ。
生涯現役とでもいうつもりなのだろう。
そして、その周りに何人かの武士が座っている。
皆、一様に悲壮感が滲み出ている。
こんなところで無駄死になんぞしたくは無いのだろう。
「おお、中条殿。」
「黒田殿、準備は万端のご様子ですな。」
「ふふふ、老いたりとは言えまだまだ若造には負けられぬでな。」
「成る程。それは実に頼もしい言葉ですな。」
「して、今日の用向きは?よもや・・・」
「その話の前に人払いをお願い出来ますかな?」
「そうだのう、おい。」
「しかし、よろしいので?」
「構わん。」
主君にそう言われては仕方がない。
おずおずと、黒田殿の周囲にいた者達は、部屋から出ていく。
最後の一人が出ると、入り口が閉じられる。
そして、部屋の中には儂と黒田殿の二人きりになった。
「さて、そちらはどのようになっておる?」
「それがですな、予定が変わりまして。」
「何?どういうことだ。」
「そのままの意味にございます。」
「なんだと!何のために、謀叛人の汚名を被ってまで決起したと思っているのだ!このままでは晴景様の座も危うくなる。そう申したはお主ではないか!」
「はて?何でしたかな?」
激昂する黒田殿。
それに儂はとぼけた態度で返すと、怒り心頭といった具合だ。
「儂が、黒滝城で景虎め等を引き付けている間に、後方で中条殿をはじめとした揚北衆の面々が挟撃の形を取る。ただそれだけのことてはないか!」
「それが出来ぬと申しているのです。まず、揚北衆の調略は済んでおりません。どころか、景虎様に味方する者が増える始末。元服してからの短期間で、古志郡を制圧した手腕も買われております。」
「そこをなんとかするのが、お主の仕事ではないか!」
「ですから、悪いことは言いませぬ。今すぐに矛を納めなされ。まだ槍を交える前である今ならば、誤報として伝令を処罰すればすむ話でしょうに。」
「ぐぬぬぬぬ、ここまでしておいて今更退けるか!こうなれば城を枕に討ち死にするまでよ!」
「ほう。さすがは無骨者の鑑ですな。」
案の定、頭に血が昇った黒田殿は戦に赴く決意をしたようだ。
うむ、これは重畳。
はっきり言って、このまま黒田殿が生きていられると、色々と今後の事に差障りがある。
儂が思い描く国にするためには不用なのだから。
それなりに仲良くはしていたが、切らねばならぬ。
このまま晴景様が頭に座られると都合が悪い。
いや、晴景様自体が駄目だというわけではない。
晴景様は、生来体が弱い。
いつ変事が起こるともしれない。
そんな者の下についていても、越後という国の動乱は真なる意味で治まらない。
となれば、儂がすることはただ一つ。
景虎様に当主になってもらうのが一番よい。
「さて、となればこれ以上の話は不用ですな。」
「ふん!そうなるな!」
「しからばこれにて失礼させてもらいます。」
「いや、待て。儂を虚仮にしたお主を、このまま帰すわけにはいかん!その素っ首置いていけ!」
腰に差した物を引き抜く黒田殿。
上段に構えたそれを、儂に向けて振り下ろす。
それを左に半身で躱すと、横凪ぎ一閃。
黒田殿の右腕が宙を舞う。
「敵方の勢力の使者である儂の刀を取り上げぬとは、まっこと不用心な事ですな。」
「ぐぬぬぬぬ。まだだ!」
「お忘れか?儂が、鬼が住むとも揶揄される、揚北衆の一人であることを?」
左手で持った刀でもって斬りかかってくるが、先程に比べてもあまりに剣速も遅くそして軽い。
それをはね除けると、胴を蹴り飛ばし吹っ飛ぶ黒田殿の首筋を斬りつける。
これでもかというくらいの血飛沫が飛ぶ。
それを予測していた儂は、身に浴びぬように気を付ける。
血が付いた状態では、景虎様に報告など出来はしないのだから。
もう、これで黒田殿の命数はあと幾ばくかといったところか。
「がぁっふ。」
「これにて失礼させてもらいます。二度とお目にかける事は無いでしょうが。」
「ぐががが、生きてこの城から出られると思うな!」
「成る程。死出の旅に出られる黒田殿の最後のご忠告。肝に銘じましょう。しかしご心配めされるな。儂の手の者が城内にはおりますれば。」
「ぐっ、全て・・・手の内と・・・言うことか・・・」
事切れた、骸と化した黒田殿に、一瞥することも無く儂はその場を去った。
入り口を出ると、儂が出てきた事を確認した者が走りよってくる。
それに儂は鷹揚に応える。
「中条様。」
「事は済んだ。お主も早くこの城より抜け出せ。他の者達にも教えてやるといい。」
「かしこまりました。」
儂の言に従い、駆けていく。
その後ろ姿を確認すると、儂も外に出るべく歩き出す。
「さて、では戻るか。」
格好良すぎる中条藤資。
黒田秀忠の気持ちの良いくらいの噛ませ犬っぷり。
そして主人公が出ないと笑いが無いという・・・
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