黒滝城攻め
「あー、うるさい!もうじゃんけんとかで決めなさいよ!」
「じゃんけん?」
「知ってるか?」
「儂が知るわけなかろう。」
私の発言に、皆の反応は意外な物だった。
じゃんけんを知らない?
えっ?昔からあるものじゃないの?
「申し訳ありません。じゃんけんとは?」
「分かったわ、今説明するわよ。これがグーで、これがチョキ。それからこれがパーよ。」
「ふむ。」
「グーはチョキに勝ってパーに負ける。チョキはパーに勝ってグーに負ける。そうしたらパーはどうなるかしら、鮎川殿。」
「グーに勝ってチョキに負ける?」
「その通りよ。理解できた?」
「おそらく。」
「じゃあ、それで決めてちょうだい。」
そう言うと、大人四人のじゃんけん大会がここに開催される。
それを興味深く周りが見ている。
そう文字どおり周りの兵達もだ。
そんなに物珍しいんだろうか?
こんなの子供の手習いのようなものでしょ?
やがて勝者は手を上に上げ、敗者はガックリと項垂れるかのような姿勢をとった。
その手のチョキの形が、何で勝ったかを皆に知らしめる。
「うおー!勝ったー!」
「ぐぬぅ、なんたる不覚!」
「なぜここでパーを出してしまったんだ・・・」
「折角の一番槍が・・・」
こうして先陣は、黒川殿が受け持つ事になった。
しかし、そんなに戦がしたいかな?
しかも先陣。
先頭きって突貫する訳で、武功も高いかもしれないが、その分被害も大きくなりやすいと思うのだが。
まぁ、喜んでいるし良しとしておこう。
それにしても、じゃんけんに勝ってはしゃぐ大人を見ることになるとはね。
さて、気を取り直し私達は移動を開始する。
物見を何人か先行して走らせて、どのような様子か伺わせる。
どうにも話の通り、黒滝城に籠ったようだ。
さらにそれ以外の近隣にある城を見させるが、こちらには動きが無い。
やはり単独での行動の様子。
という事は、感情のまま暴発しての行動と見える。
何とも嘆かわしい。
それとも私達には、そして兄上になら勝てると判断したんだろうか。
だとすれば、甘く見られたものだ。
見通しが甘味よりも甘すぎる。
現実には、そう簡単に事が進まない事を教えてあげなくてはならないだろう。
着陣すると、すぐに兵を配置していく。
配置は先のじゃんけんの結果に従った通りだ。
本来なら適材適所に割り振るべきなのだが、今回は功に逸る揚北衆の気持ちを汲んだ形になったと思う。
黒田秀忠を捕らえるように言い遣っている。
となれば我攻めで行くのは、勿論得策ではない。
じわじわと攻め立て、心を折るのが一番良いと思うのだがどうだろうか?
まぁ、周りで見ているだけでは始まらない。
私は号令を掛ける。
「攻撃開始!」
「「「うぉおおおおお」」」
私の声を切っ掛けとして、兵達が喚声を上げる。
そして兵達が進み出す。
敵兵の姿は見えない。
どうやら、全ての兵が城に入っているようだ。
それはそうか。
わざわざ外に配置するような事はしないか。
始めはゆっくりと近付き、ある地点を抜けた辺りから皆駆け出す。
まるでスタートラインを越えたマラソン選手のように。
城門にすぐに取り付き、門を壊すべく攻撃を開始する。
無論、相手からの反撃もある。
が、それも散発的な物に感じる。
黒川殿には、城門の破壊と虎口の制圧を任せてある。
ここを落とし、降伏勧告をするつもりだ。
それでも従わないならば、食糧庫を奪う。
そして、それでも従わないならば、致し方ない事になるのだろう。
前線の指揮官としてどれだけやれるか、ここで示して欲しい。
また、搦め手側からは鮎川殿が抑えている。
こちらは、あえて強気には攻めさせないようにしておいた。
一先ずは抑えておくことが肝要。
敵の意識を正門に向けるようにした。
勿論、チャンスがあればいつでも攻め立ててくれて構いはしないが。
やがて城門は黒川殿に抜かれる。
相手方の方が兵数が少ないという事も、動揺を誘っているのだろう。
幾ら兵数が少ないときの上等策が籠城だとしても、絶望しか待っていないとすれば、士気も上がりよう筈もない。
戦う前から結果は出ている。
ここでもう一手。
文を書き付けた矢を、相手方がいるであろうところに放たせる。
『こちらに降るなら、今回の事は不問としても構わない。』と。
黒田秀忠は別だが、それに従う兵達にとってこれは適用する。
となれば、こちらに降る者も少なく無いだろう。
結局は、命あっての物種というわけだから。
案の定というか、簡単に結果は出た。
その日は目的を達成した時点で、占拠した場所を黒川殿に確保させたままの状態にし、夜営を行う。
搦め手をあえて攻めさせなかった事が、ここで効果的に働いた。
鮎川殿に言って、少し離れた場所に夜営をさせたのだが、その間にまあ、出てくる出てくる。
ぞろぞろと敵兵が逃げ出していくのだ。
無論、放置するわけにはいかないので片っ端から捕らえていく。
捕まえる際、なるべく乱暴はしないように頼んでおいた。
同じ越後に住まう仲間なのだから。
それに彼らは、今回は黒田秀忠に従ったとはいえ、雑兵では判断もつけようが無いのではないかとも思ったのだ。
無駄な殺生をする必要はない。
多勢に無勢。
逃げ出してきた彼らは、素直に応じてくれていたようだ。
無論、一部のはねっ返りはどうなったか知らないが。
翌日、攻め上げるべき時間の前に、黒田秀忠より伝令が出されたとの一報が黒川殿より伝わる。
であるならば話を聞こうじゃない。
「それで黒田殿はなんと?」、
「すぐに城門を開けて降伏すると。」
「それは重畳。兄上からも、命を奪うこと無いように仰せつかっています。すぐに武装を解き、降ってください。」
「はっ!ご厚情感謝致します。」
私の言葉を場内にすぐに伝えるべく、慌ただしく戻っていく伝令。
さて、これで終わりかしら。
しばらくはのんびりしたいわね。
この時代、じゃんけんって無かったらしいですね。
もっと古い時代からあるかと思ってました。
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