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揚北衆との決戦 その二

結果から言って、今回の戦は私達の完勝に終わった。

それもこれも、色部勝長が終始ただ兵を突っ込ます強行策に出たからだ。

その突破力は見るものがあったが、いかんせんそれに対応策を持って当たったので、こちらの被害は思ったよりも少なかったというわけだ。

本陣に戻る道すがら、景家には少しずつ兵を下げるように指示をしただけなのだが、それに上手く対応してくれた。

それに呼応するように実乃も上手く自らが預かった兵達を押し上げる。

始めは横陣の状態でぶつかったが、最終的には変則的な鶴翼の陣のような形になった。

これにより、相手を包囲することが出来たのだ。

これにより色部勝長はともかく、それに付き従った兵達は戦意を喪失し逃走を開始し、黒川清実などは足並みを合わせることが出来ず後方にてまごついていた為、出番があまりない状態ではあったが、彼らも不利を悟ったのかこちらに降る事となった。


それにしても、カッカしやすいのはあまり宜しくない。

何とも分かりやすい男だ。

一本気のあるといえばあるとも言えるが。

何にせよ、もう少し落ち着きを持つべきだろう。

少なくとも挑発に乗らないだけの冷静さは必要になる。

捕らえられた色部勝長が、私の元に連れてこられてきた。


「何か思っていたよりあっさり終わったわね。」

「ぐぬぬぬぬ、殺すなら殺せ!」

「えっ?なんで?」

「何でだと?貴様は下郡を、揚北衆を討伐に来たのだろうが!」

「まあ、討伐に来たと言えばそうだけど、降ってくれるならそれでいいと思っているんだけど。」

「何?聞いていた話と違うぞ!」

「誰に聞いたのよ?」

「中条のやつだ!」

「ああ、中条殿。余計な事をしてくれるわね、まったく。」


色部達との戦いになった理由は、中条殿がけしかけたから?

そうなると、私は彼に何を考えてそんな行動に及んだのか、問いたださねばならない。

ん?

ちょっと待って。

たしか、中条殿を親睦会に呼び寄せたのは定満よね。

もしかして?

ジト目で近くにいる定満を見るが、我関せずといった涼やかな表情だ。

その頭の中身を、伺い知ることは出来なさそうだ。


「ふむ、それは由々しき事態ですな。そこのところどうなのです、中条殿。」

「まったくですな。そのような事があるとは。」

「えっ、いつの間に!」


今の今まで気づかなかった。

居たの、中条殿?

私以外にも、その場に居た者達も皆驚きを隠せないようだった。


「中条!貴様、これはどういった仕儀じゃ。」

「これは色部殿、何故にそこまでお怒りか?」

「なんだと!」

「そもそも、景虎殿が兵を挙げてこちらに来るとは伝えていたが、敵対するとはゆめにも思わなかったですからな。」

「何っ!ふざけるな!貴様がけしかけたのであろう。」

「やれやれ、この期に及んで見苦しいですな。」


ぎりりと歯ぎしりの音が聞こえるかのような色部殿と、それを躱すような中条殿。

はっきり言って、見苦しいのは二人のやり取りだったりするんだけど、どうなのかしら?

埒が明かない状況の中、兵の一人が駆けてきた。


「景虎様、黒川殿がお越しです。降伏の申し出をとのことです。」

「あ、ありがとう。折角だし、こちらにお通しして。当事者の一人なんだから話が聞きたいわ。」

「かしこまりました。」


そうして、こちらにやって来た黒川清実をこの場に通す。

色部殿の様子を苦々しく見たが、すぐにこちらに視線を移す。

そしてその場に平伏する。


「お目通りかないました事ありがたく存じます。拙者、黒川清実と申します。」

「はい、お疲れ様です。降伏の申し出との事ですが。」

「はっ、その通りにございます。戦場での手腕、まっこと驚きました。流石は毘沙門天の化身。お噂の通りにございますな。これよりは、拙者も長尾家に支える者の末端にでも置いてくだされ。」

「ご協力感謝します。これからよろしくお願いしますね。」

「はっ、寛大な処置ありがとうございます。それから差し出口を申すようで申し訳ございませんが、この色部勝長、真の勇将にて今死なすには勿体無い男。是非とも助命を願います。」

「あ、はい。色部殿がそれでよろしいのであれば。」

「えっ?」


私が、黒川殿の助命嘆願をあっさり受けたのが驚いたのか、色部殿は呆けたような声を出す。

そもそも、今回の戦は揚北衆を味方に引き込む事が目的であり、下手にこれを討つと、もしかしたら自分もこうなるのでは?という疑心暗鬼に囚われるかもしれない。

それに、仲間に助けてやってくれと言われるようなら、それなりに信頼出来る人材なんだろうし。

私はあっさりと受け入れた後、また定満と中条殿の方を見ると、二人ともニヤリと笑いを返してきた。

これだから性格の悪い奴というのは質が悪い。

どちらかというと、単純な性格の色部殿を転がして遊んでいるようで、寒気すらする思いだ。


「どうかしら、色部殿?」

「まさか、弓引いたそれがしを助けると?」

「ええ、力を貸しては下さらないかしら。あの突撃の勢いは大したものだったと思うわ。兄上の、いえこの越後の為にその手腕を貸して欲しいと思うの。」

「何と!越後の為ですと!」


色部殿ってリアクション大きくていいわね。

定満とかクール過ぎてつまらないもの。

あ、それで言えば景家とかもか。

前線で指揮をとる将って、そんなのが多いのかしら?


「そうよ。反乱が続くこの越後という国をどう思う?これでは民も安心出来ないでしょ?ただでさえ貧しい国とか言われちゃってる訳だし。それもこれも、強力な統治者がいないからだと思うのよ。」

「成る程。それに景虎様がなると?」

「ちょい待った!そこは兄上がいらっしゃるから大丈夫。私は兄上の武として活動していくつもりよ。」

「それでは滅私奉公もよいところでは無いですか!」

「そこまで顕示欲が強い訳でも無いしね。」

「感服仕った。そこまで大きな事をお考えとは!そして私心を投げうってまでとは!許されるのであれば、それがしも黒川殿と同様に端にお加え下され!」

「はい、よろしくね。」


こうして、揚北衆の征伐が済んだ。

ようやく兄上の命令を達成出来たのだ。

中条藤資がすごく悪人w


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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