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揚北衆との決戦 その一

いよいよ、下郡を制圧する為に兵を起こすことにした。

この戦で下郡を平定し、今だ逆らう揚北衆を討ち倒す。

こちらに付き従う意思を示した中条殿などもいるが、彼らは今回は兵を出してこない。

敵にも味方にもなりうるのは分かりきっている。

こちらが不利だと見れば、恭順などは白紙撤回するのだろう。

いや、むしろ窮地に駆け付けて自らの意見を強くするつもりか?

どちらにせよ、彼らに私達は強さを見せつけなければならない。

相手取るのは色部勝長や黒川清実など、中条殿が言っていた豪族共となる。


勇将と誉めていた事もあるが、相手は揚北衆。

景家や実乃の二人も、警戒心を強くしているようだ。

この二人には、今回も前線にて兵を率いてもらう。

景家は言わずもがなであるが、実乃の武功を立てさせる必要があるだろう。

景家はともかく、新参の実乃はまだ信任が無いに等しく、仲間内にも使えるところを見せなければ示しがつかない。

そして、定満には私の側に付き従ってもらう。

自らを軍配者と名乗る程なのだから、ここでも実力を発揮してくれたらいい。

むしろ出来なかったらお仕置きよね。


泰重は今回は後方待機とした。

栃尾城を守ってもらうのがその主命となる。

景家は前線での戦いを望んでいるだろうし、定満は近くに置いておきたい。

実乃はまだ論外といわざるを得ない。

他に二心無い人材というと選択肢は狭まる。

それに、万一上手く事が運ばなかった時には、援軍として駆け付けてもらえれば命を長らえる事も叶うかもしれない。

そんなある種の下心ありきで配置してみたが、どうだろうか?

重太と弥太は今回は連れていかない。

二人には泰重の元にいてもらう。

多少ごねるものの、城の防衛をお願いすると、渋々ではあるが従ってくれた。


「今回はどうなるかしらね?」

「うーむ、どうなりますかな?」

「定満、それじゃ答えになってないわよ。」

「このままであれば、我が方が勝ちを拾えるとは思いますが・・・」

「何か心配事でも?」

「揚北衆の者共の内、兵を出すことも無く静観する姿勢を見せている者共の動きですな。」

「戦う事は無いんでしょう?」

「九分九厘は。しかし、気が変わればどうなるかわかりませんぞ。」

「そんなことになったら、困るわね。」

「弱さを見せる訳にはいきません。この戦は強さを見せ、相手の心を挫く戦にせねば。」


これは大変な事だ。

辛勝のレベルでは強いとは思ってもらえないだろう。

中郡の者達も加えてあるから大丈夫だろうが。

そんな私を笑って話しかけてくる者が二人。


「バッハッハ、何心配はいりませんぞ。歯向かってきたのなら蹴散らしてくれますぞ。」

「それは心強いわね、景家。」

「それにそれがしもおります。大船に乗った気でいてくだされ。」

「そうね、心配ばかりしていても仕方ないわよね。あなた達を信じます。」

「おお、この実乃。全力で当たらせてもらいますぞ!」


調子良く景家と実乃が大きな事を言う。

彼らの事を信じて敵と当たる以外、手がない。

私が指示を出しても、前線で敵と間近に当たる二人が私を信じてくれなければ、きっと指示には従ってくれはしないだろう。

信用を得るには私も信じるようにしないと。


「そして、この戦で武功を上げた時、一つ景虎様にお願いがあるのですが。」

「私にお願い?」

「はっ。実は蕎麦の新しき食べ方というものの噂を耳にしましてな。もう少し早く城に来ることが出来れば、それにもありつけたのですが。」

「バッハッハ、あれは中々良い物でしたな。」

「そうですな。お陰で備蓄も減りましたがね。」

「定満、もうそれはいいじゃない。あんまり続けるのも如何なものかと思うわよ。」

「ほう?諫言する者は必要無いと?」

「そうは言っていないでしょ?本当にいい性格してるわよね。」

「お褒めの言葉、かたじけなく思います。」


蕎麦切りを食べたいという実乃。

それくらいなら私も応えてもあげられるだろう。

それに蕎麦を作ってやるだけで頑張れるというのなら、それでいい。

それこそ祝勝会という名目の宴会を開くのも良いだろう。

しかし、それも勝たなくては実現出来ない。


「さて、そろそろ決戦の地にたどり着きますな。」

「バッハッハ、それでは配置に着きますかな。」

「そうね、そうしてちょうだい。三人ともよろしく頼むわね。」

「はっ、それでは向かいまする。」


城を出る以前より決めていた配置に兵達を置いていく。

さて、相手はどのように出てくるだろう。

と、そんな事を考えていたら相手の布陣からたった一人こちらに向かってくる者がいた。

それなりの身なりをしていることから、名のある武将なのだろう。


「我は色部勝長である。そちらの将は何処か!」


大音声を上げる。

中々、威風堂々とした武士のようだ。

これに景家が応える。


「バッハッハ、わしが相手だ!」

「ほう?柿崎景家か。成る程、貴様の大将は恐れて出てこれぬというわけか。」

「なんだと?貴様の相手などわしで十分であろうが!」

「ふん!我が貴様程の武士を馬鹿にするとでも?我は怯えて隠れて縮こまっているであろう貴様の大将の事を言っておるのよ!」

「何を小賢しい!貴様程度に顔を見せるとでも思うてか!」


段々と、口喧嘩のような様相を呈しはじめてきている。

口汚い言葉をぶつけ合いだした。

これは・・・良くないわね。

仕方ない、私が行くしかないか。

本陣で座っていた私は立ち上がる。


「何処へ行かれます?」

「ちょっと私を呼んでいるみたいだから。」

「大将がほいほい動いてどうします?」

「でも、あれじゃねぇ。」

「確かに大声で見苦しい物がありますが。」

「でしょ?だから止めてあげないと。」

「あまり勧めは出来ませんが、致し方ありませんか。」


私が動く事があまりよろしくないと言いながらも、私を送り出してくれた。

おそらく不意打ちを心配しての事だと思うが、それは多分無いと思うのよね。

定満にしても、一戦行う筈がただの罵り合いになってしまえば、何のためにここまで出てきたのか良く分からないだろうから。


「貴様なんぞの相手をしていても、時間の無駄ということにまだ気づかんのか!」

「それはこっちが言いたいわ!」

「だいたい攻めるばかりしか能の無いものに話しても無駄な事だろうが!」

「なんだと!」

「はいはい、そこらでお終いになさい。」

「おお?景虎様。」

「ほう?貴様が景虎か?」

「そうよ。何かお話があるみたいだけれど何かしら?」


私が来たことに気づきもしないで罵り合うとか、どれだけ白熱しているんだか。

周りの兵達を見てみたらいいと思う。

最初はけしかけるようにしていたが、段々とそれも飽きてきたのか、普通に談笑してるわよ。

しかも、それがどちらの陣でもそうなっているから不思議なものだ。

何にせよ、両陣営の士気は駄々下がりもいいところよ。


「あなたが色部勝長殿?」

「いかにも。我が色部勝長だ!」

「で、本題。いったい何よ?」

「何か聞いていた話と違うな。」

「えっ?何て聞いたのよ?」

「毘沙門天の化身にして、敵兵を薙ぎ倒す鬼神が如き者と聞いたが、どうやら聞き間違いであったようだな。」

「なにそれ!」


まだ初陣を果たしたばかりの私に、どんな噂が立っているのよ!

いったい、誰がこんな訳の分からない噂を広げた?

もしかして、私が出てくるのを嫌がるそぶりを見せたのはこのせいじゃ無いでしょうね?

何となく振り返り、本陣の方を睨み付ける。

が、兵達がブラインドになって定満の様子は分からなかった。


「噂通りならば一槍馳走と参ろうかと思ったが、このような腑抜けた喋りをする者がそうである筈がないわ!」

「なんだと!景虎様を馬鹿にするのも大概にせい!景虎様にかかれば、貴様なぞチョチョイのチョイよ!」

「ほう?なれば我と一騎討ちをしてもらおうではないか。」

「おう、望むところよ!」


あれれ?変な方に話が転がって行ってない?

景家も何で認めてるのよ。

私がやられたら終わりなの分かっているのかしら?

あ、もしかして分かった上で言っている?

となると、定満が何か策を授けたのかもしれないわね。

まあ、何にせよ私の答えは決まっているけど。


「一騎討ちね・・・お断りします。」

「何と!やはりただの腑抜けではないか!」

「ぐっ!景虎様、ここは受けるが武士ですぞ!」


あ、これ別に策とか無いわね。

どちらかというとその場の勢いってやつじゃない、もしかして。

そんなものに私を巻き込むとか止めて欲しいわよね。

だいたい、色部殿が私を貶すのはこの流れ上仕方がないとして、景家は止めるべき側なのになにを血迷っているのよ。


「景家は後で説教するとして、何で私があなたと一騎討ちなんてしなくちゃいけないのよ。」

「何?貴様、武士の意地というものが無いのか!」

「そんなもの、とうの昔に犬にでも食わせちゃったわよ。第一、このまま戦えば、ほぼほぼ負けは無いんだから。利点も無い一騎討ちなんてやって怪我でもしたら損じゃない。」

「ぐぬぬぬぬ。」

「だいたいあなた阿呆なの?そんな阿呆に付き従う兵達が、不憫でならないわ。」

「言わせておけば!」


私の安い挑発を真に受けてか、腰の物に手をかける。

相当に頭に血が昇ってしまったようだ。

しかし、分かりやすい。

表裏がないのは美徳でもあるけれど、この場合はただの欠点でしかない。


「まあ、そんな訳で一戦交わせばそれでいいでしょ?一対一の攻防しか出来ないなんて言わないわよね。」

「ふん!目にもの見せてくれる!」

「はいはい。じゃ、そういうことで。」


手をヒラヒラさせて、私は本陣に戻る。

そして、私の後を景家が警戒しながら付いてきた。

うーん、色部勝長の噛ませ犬感がなんとも。



ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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