中条藤資
「中条殿と言いましたか。」
「はい。」
「本日は、おいでくださりありがとうございました。」
「なんのなんの。宇佐美殿にご招待頂きましたからな。それにしても、為景様は残念でござった。」
「お気持ちいたみいります。そのお言葉、父上も草葉の陰で喜んでいることでしょう。」
「であれば良いのですがのう。」
宴会場と化している部屋から、定満が普段政務を行う部屋に移動した。
宴会場の喧騒に後ろ髪を引かれる思いではあったが、さすがにそれはダメだと自分に言い聞かせる。
それにしても、定満の人脈のパイプは、どこに繋がっているのだろう。
攻め寄せる予定の揚北衆の一人を呼び寄せるなんて。
「中条殿は、以前より為景様の配下として行動しておりましたからな。今回も是非にお力をお借りしたいと頼んだところ、快諾していただけました。」
「あら、本当に?それはありがたいお話よね。」
「揚北衆も一枚岩という訳では無いのですよ。とはいえ、時勢を見るに、鮎川や新発田など景虎様に付き従う者ばかりだと思われますぞ。」
「そうしてくだされば、兵を減らす事も無いですし、万々歳なんですけどね。」
「ただ、やはり全ての者が降るというわけでもござらん。」
「と言うと?」
「色部勝長や黒川清実などは、一度は刃を交える事になりましょうな。」
「やはり抵抗してきますか。」
幸いな事に、意外と親長尾家の人間が多い。
だが反抗してくる者もいるというわけか。
やはりと定満が言っているし、そこは予想通りというらしい。
「しかし、勝長などは勇将であれば、これを味方につけれれば長尾家の力になりますな。」
「味方にねぇ。」
「どの者も一戦交え、景虎様の器を量ろうとしているようですな。」
「私の器をねぇ。」
大した器なんて持っていないと思うけど、その辺どうなんだろ?
むしろ、大した器ではないからこそ、自らが動くのではなく仕事が出来る者にぶん投げているようなものなんだけど。
「既に、中郡の一戦でその力量は量る事が出来たと思うのですがね。どうにも、自分自身で確かめたいようなのです。」
「確かめるはいいけど、それで民草が泣くような事になるとは考えないのかしら?」
「それでも抑えきらんのでしょう。」
「まったく、困ったものね。そんなに気になるなら、話でもしにこれば良いのに。」
「そう簡単にはいきますまい。下手に顔を出して討ち取られてしまえば元も子もない。」
「でもそれは中条殿にも言える事では?」
「ははははは・・・そんなつもりはござらんよ。無下に攻撃をけしかけてくるような御仁と見れば、そもそもこちらには来ぬよ。」
「成る程ね。」
確かに、明らかな身の危険を感じるような場所に、わざわざ飛び込むような真似はしないか。
しかし、そうなるとそのように思えるように仕向けた定満の書状に、何と書かれていたのか気になるところよね。
そんな事を考えつつ、ちらっと定満を見る。
「定満、あのね・・・」
「申し訳ありませんが、そこは秘密ですな。」
「まだ何も言って無いじゃない。」
「言わんとしていることくらいわかります。」
「けち。」
「こういう事は盗むものですな。」
「それが出来れば聞きなんてしないわよ。」
「ははははは・・・」
私と定満のやり取りを見て、中条殿が笑い出す。
急に笑うからビクッとしたじゃない。
「お二人とも仲がよろしいですな。」
「そうかしら?」
「ええ、そう見えますぞ。」
「それは中条殿。おかしな事を。」
「なに、主君と臣下の間柄のようには見えませなんだな。」
「そうよ。それに主君って兄上の事だし。」
「だとしてもです。景虎様のお人柄が見れた事が、一番の収穫ですな。さて、そろそろおいとますると致しましょう。それにあまり長く景虎様を、会場から引き離しておくのはよろしくないでしょうし。」
「そんな些末な事をお気にせずともよろしいのに。」
「景虎様にとっては些末な事やもしれませぬが、他の者にとってはどうでしょうな?」
そう言って快活に笑うと、中条殿は去っていった。
それなりに好印象を抱かせる事が出来たように思えるけど、どうなのかしらね?
その辺が少し気になりつつも、私は会場に戻ることにした。
私が目を離していた間に、何があったか分からないけれど、そこは凄まじい状況に突入していた。
酒に酔いくだを巻く者、すでに酔いつぶれる者などがその場を支配しているようだった。
酒を飲まぬ者は退散でもしたのだろう。
介抱する者も無く、また制止する者も無いのであればこの状況にも納得がいく。
さすがに、この状況に馴染む事は出来ないと判断した私は、踵を返すとその場から退散した。
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