重太の望み、弥太の望み
綾姉様が嫁に行ってしばらく経つ。
城内は今日も変わらないが、やはり少し淋しい。
これまで顔を見ようと思えば、いつでも見れた訳なのだから。
お母様もそれは同じだったようで、私の所や子供達の所によく顔を出していた。
娘が嫁ぐのは嬉しいけれども、もの淋しい。
そんな心の隙間を埋めるのに、子供達の笑顔はちょうど良かったようだ。
また、つやも綾姉様のお付きとして出ていってしまった。
私に付いてくれていたが、私が寺へと行かされた時に綾姉のお世話をすることになったらしい。
それにともない、綾姉様に元々付き従っていた侍女は高齢だった事もあり引退したらしい。
何もしてこなかったこれまでと違い、最近は様々な事に挑戦させられている。
治世というものを身に付ける為には、それこそ覚える事が多い。
前世?の経験値があるお陰でか、様々な事に適正を出しているように思えるようで、神童というのはこういうことかと、勘違いされてしまっているのが心苦しい。
刀を扱った事は無かったが、格闘技経験を生かしての少々特異な形にはなってしまってきているが、それでも筋が良いと誉められる。
これにはくそ親父も嬉しかったらしく、たまに自ら稽古をつけてやると出しゃばって来るようになった。
また、重太と弥太もこの稽古には参加していた。
私一人では、張り合いが無いのだろうという事での処置のようだ。
二人とも中々に非凡な才能があったらしく、スポンジが水を吸い上げるように、どんどんと教えられたことを自分のものとしているのがわかる。
計算なども得意というほどでもなかったが、加減乗除の四則演算が普通に扱えれば問題ない。
というよりも、その四則演算をまともに扱える人間が少ないのは何故?
お陰で経理の真似事なんかも最近はさせられる。
御兄様と机を並べての作業は大変だけど、楽しさもありこれはこれで良いかなと思える。
そんなある日の事。
重太が、御兄様にお会いしたいとせがんできた。
ここに住むことになり、一度は面通しをさせたが、それ以降は特に接点は無い。
そもそも、御兄様はあまり自分の作業をする部屋から出てこない。
あまり体が強くないようで、あまり行動的に動いて病気にでもなったら堪らないという事らしい。
まあ、それ以上に御兄様がこなさなくてはならない仕事が多いというのも理由の内なのだけれども。
会えるかどうか確認をとると、何時来ても構わないという返事をもらったので、早速お会いするために向かうことにする。
何時でも良いというのなら、あまり時間を置くのは失礼にあたるはずだからだ。
さて、重太を連れて行くのだが、何故弥太も付いてきたのだろう。
「御兄様、入っても?」
「ああ、いいよ。」
許可をとって部屋の中に入る。
後ろに、重太と弥太が追随してくる。
「忙しいところ申し訳ありません。」
「何、ちょうど一段落して休憩したいと思っていたところだから気にする事はないよ。それで話とは何だろう?」
「さ、重太。」
「ありがとう、お虎兄ちゃん。ご当主様、お願いがあります。」
「重太?」
いきなり何を言い出すのだろう?
そりゃわざわざ御兄様に会いたいと言うのなら、お願いの一つも言いたくなるのは分かるが、失礼にあたらないだろうか?
最悪、怒られるような事になれば、全力でかばうつもりではあるが。
重太の言葉に「だろうね。」と言外に言っているかのような表情を見せる御兄様。
「お願いかい?」
「はい!是非叶えていただきたいです。」
「取り敢えず言ってごらん。叶えられるかどうかは別だけどね。」
「僕を取り立ててはもらえませんか?」
「取り立てる?」
「はい。僕を、そして弥太を武士に取り立ててもらいたいんです。」
御兄様の顔が少し難くなった。
これは不味いのかもしれない。
いや、それよりも重太?
武士になるってどういうことよ。
下手をすれば命を落とすことだってありえるのに。
「それは何故だい?」
「お虎兄ちゃ、じゃない。虎千代様の為に働きたいんです。」
「へぇ、虎千代の。」
「僕は、虎千代様に命を救っていただきました。この御恩を何としても返したいのです。でも今のままでは何の力にもなれません。」
「だからこそ武士になりたいと?」
「はい!いざ戦となったとき、側にいられるとしたら武士になるしかないと思ったんです。」
真っ直ぐな目で御兄様を見る重太。
その様子にハラハラさせられる。
「えーっと、弥太だっけ?君もかい?」
「はいっ!俺もお虎兄ちゃんの為に仕事したいです!」
「そうか。なるほどね。良いんじゃない?」
二人の懇願を、あっさりと了承する御兄様。
二人はワーッと喜びを全面に出すが、複雑なのは私だ。
「で、どうする虎千代?お前の為に働きたいと言っているけれど。最後はお前が決めるべきじゃないかな?」
「どうするも何も・・・」
「虎千代様!」
「お虎兄ちゃん!」
「あー、もう。わかったわよ!」
その目に弱いのよね。
御兄様も了承しているし、今更駄目だと言える雰囲気でもない。仕方ないだろう。
しかし、何でこんなに簡単に取り立ててしまったのだろう?
「うん、決まりだね。虎千代には、これと言って股肱の臣というのがいないしね。苦しいとき、心の内を話せる相手がいるのはとても大事な事だよ。まあ、そういう人間がいないのに言われても説得力が無いかもしれないけど。」
「いえ、御兄様のご厚情感謝しますわ。」
「うんうん。それで武士として取り立てるとしてもどうしたものかな。虎千代のお付きとなるなら、それなりの家格のところにでも養子にさせるか?」
「あ、僕の父は元々の出は武士です。」
え?
それ初耳。
重太って侍の子だったの?
「へぇ。そうなの?何て言うんだい?」
「はい。父は甘粕泰重といいます。今は狩猟何かで生計を経ててますけど。新田氏に繋がると聞いています。」
「ふうん、なるほどね。泰重殿はご存命かな?」
「僕が家を出たときは元気だったのでおそらくは。」
「それなら直ぐに連れて来なさい。養育係として雇ってもいい。」
「ありがとうございます。」
「それで弥太は?」
「俺はそういうの無いです。」
「そうか。なら少し考えておく。泰重殿が来たら、重太と共に色々と教えてもらうと良い。」
「はい!わかりました!」
弥太が元気に返事をして、全て決まってしまった。
「と、こんなところでどうだい?」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
「うん。それじゃ話はこれで終いかな。そうしたら重太と弥太も武道だけじゃなく、治世についても色々と覚えないとね。その辺は虎千代の仕事だから。」
こうして、私は二人の小さな家臣を得ることになった。
二十話目にして、正式に配下(というか舎弟か)が出来ました。
出生の怪しいところを持ってきましたが誰だかわかりますかね。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




