待機部屋にて
久々に会ったとはいえ、長々と話こんでしまった。
こんなつもりではなかったと言っても、ただの良いわけにしか聞こえない。
すでに、私は御兄様の部屋を辞していた。
というのも、御兄様の仕事の進捗具合を、部下の武士が確認しに来たのだが、ちょうど私がいたせいで全然進んでいなかった。
無論、長尾家の当主の座にいるのだから、多少の時間の遅れは許されるかもしれない。
それでも、当主でなければ決済出来ないこともあるのだろう。
追われるように仕事を再開した御兄様には、申し訳ない事をした。
さて、子供達はどうしているだろうか?
まだ、お母様にはお会いしていない。
とはいえ、長々と待たせてしまっている負い目もあり、様子をうかがうくらい問題ないだろう。
待合室に使われたのは、かつて私が寝起きしていた部屋だ。
勝手知ったるとはこの事と言わんばかりに、部屋へと向かう。
部屋に近づいていくと、女の子達の声が聞こえる。
女が三人いればかしましいとはよく言ったもので、昔の人はよく言ったものだと感心する。
まあ、今は私がその昔の人な訳ではあるが。
くそ親父や御兄様の部屋からは離れているから、少しくらいうるさくしていても問題はないだろう。
勿論、わきまえるべき場ではちゃんとしなくてはいけないけれど、女子トークを邪魔する様な無粋な人間はきっといないだろう。
だからこそのうるささなんだけど。
重太と弥太は大丈夫かしら?
女の子達におもちゃにされてなければいいけど。
「こら、あなた達。ちょっと声が大きいわよ。」
「あ、お虎兄ちゃんお帰り。」
「虎千代、お帰りなさい。」
「もう用事はいいの?」
部屋に入ると、嬉しそうに弾んだ声で私を迎えてくれる。
でもちょっと待って。
そこにいると誰が予想しただろう?
お母様が女の子五人に囲まれている。
三人娘はともかくとして、綾姉様につやまでいる。
これはどうした事だろう?
男の子二人は、魂の抜け落ちたような顔をしているところを見るに、相当この五人にいじり倒されたんだろう。
重太はともかく、弥太までこんなことになるなんて、恐ろしいことでも起きているんじゃないかと錯覚させられる。
「何でこの部屋にお母様と綾姉様。それにつやもいるのかしら?」
「何でもなにも、あなたに会いたいからに決まっているでしょう。」
「私はなんとなく。珍しくえらく若い声がしていたから、覗きに来ただけだよ。」
「そして私は綾姫様の付き添いです。」
と、三者三様の答えが返ってくる。
相も変わらず優しげなお母様に、好奇心で首を突っ込んできた綾姉様。
付き添いと言ってはいたが、つやはもしかしたら私の事が気になっていたのかもしれない。
となると、つやに名目を与える為に綾姉様が来たのかもしれないかな。
いくら子供だとはいえ、一応客人であるし部屋に入ることが叶ったしても、居座るのは中々に難しいだろうし。
何だかんだ言っても、綾姉様も頭の良い人だし、案外気が利く人だから。
「さて、改めまして。虎千代戻って参りました。」
「ええ。まことに大義です。よく戻って来てくれました。」
「変わらずお元気そうでなによりです。」
「ええ、日々健やかに生活していますよ。」
「それに綾姉様も。」
「私はついで?別に構わないけど。虎千代も元気そうね。」
「はい。毎日楽しく過ごしていましたよ。」
「そうなのね。あ、そうそう。つやは私のお付きになってもらっているから。もう、毎日のようにつやがうるさくてね。心配だからって私に聞かれても中々様子なんてわからないのに。」
「あっ、綾姫様!その様なことは。」
「あるじゃない。毎日毎日虎千代様ーって。」
「つや、心配かけてごめんなさいね。」
「いえ、そのような・・・」
話していると、城で生活していた頃の事がふつふつと思い出される。
あの頃も、十分すぎるくらいに幸せな日々だった。
今は今で幸せなんだけど。
そう思いながら、三人娘に目を向ける。
私に気を使ってなのか、静かに経緯を見ているようだ。
「もう紹介が済んでいるかもしれないけれど改めて。右から妙、結、香の三人です。ご迷惑をお掛けする事もあるかもしれませんが、よろしくお願いします。それと向こうの二人が重太と弥太になります。」
「はい。よろしくお願いしますね。綾がもうすぐいなくなってしまうしつやも付いていってしまうから寂しくなるかと思ったけれど、子供達が五人もいれば楽しくすごせそうね。」
「もう、母上。仕方がない話じゃないの。」
いきなり綾姉様がいなくなる?
それは穏やかな話ではなさそうだけれど、いったい何があるのだろう。
まさか私のように寺に入るとか?
いくらなんでもそれはないか。
「いったい綾姉様はどこに?」
「決まっているじゃない!嫁に行くのよ!」
「嫁・・・?って嫁!嫁ぐの!」
「そうよ。いけない?」
帰って早々驚かされてしまった。
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