第五十一話 ロンゲスト・マーチ Eパート
今回もやや短いですね(三千文字)
「レックス! 全員で一度下がれ。オレが食い止める!」
「では、わちきは左のグレーターを狙いまする」
オレとオーリガは、レックスが振り向いて、驚きの表情を浮かべている間に、その脇を通り過ぎていった。
「よっ! はっ! たぁっ! 神雷剣、二の太刀!」
オレは襲いかかってくるレッサーの腕を切り裂きながら、グレーターデーモンに肉薄して、聖気を過剰なまでにまとわせた、バスタードソードで横なぎにして、消滅させた。
どうやら、聖霊の門という追加属性は、オレが思っていたよりも、悪魔に効き目があるようだ。
「はっ! せやぁっ! たぁっ!」
オーリガは巧みな剣技で敵の攻撃をいなして、両手持ちの大剣でグレーターデーモンに深手をおわせ、ひるんだすきに頭部から一刀両断していた。
「オレはガードするから、オーリガは数を減らしてくれ!」
レックスのパーティーは、レックスと剣士一人が何とか踏みとどまってはいるものの、壊滅寸前の体であった。
「せやぁっ! はぁっ!」
オレは、レックスのパーティーを襲っている、二匹のレッサーデーモンに背後から襲いかかり、大ぶりな一撃で首をはね飛ばす事に成功した。
「クラウス殿……ふたたび、あなたに助けられるとは……」
五分とたたず、残るレッサーも壊滅させ、オレはレックスの元に歩いていくと、複雑な表情を浮かべていた。
「話はあとだ。この近くに、比較的だが安全な場所がある。そこに急ごう!」
「了解しました……クラウス将軍の命に従いまする」
「将軍? 何の事だ?」
国家間の戦争が、魔物の登場によりなくなってしまったのは、現実世界でもここでも同じであり、名誉称号としてもあまり使われていないはずで、オレは目を丸くした。
「クラウス殿、ここは発見されやすいゆえ」
「わかった。移動してから話を聞こう」
オレたちは何とか、敵に発見されずに移動する事ができた。
「ではまず最初に。どうやってここまで来たんだ? 平原一帯には、火の眷属が大勢移動していたはずだが」
さすがに保存庫では狭いので、数か所にわなを仕掛け、さらにアデールの祈りによって安全になった森で、レックスから話を聞いていた。
「ラミール側は比較的安全だったので、川の北を移動し、小高い丘から、川の南に縄のついた矢を放って、それをつたって渡って来ました」
レックスの口からは、驚くべき方法が語られた。
「ねぇ……。それって、そのロープを伝って元の場所に戻るのは、無理なんじゃないの?」
アデールがおそるおそる問いかけると、レックスは無言でうなずいてしまう。
「どうして、そんなにムチャをした? 火の眷属の存在ぐらいは、川の北からでも発見できたはずだ」
「領主会議が延期されたので時間の猶予ができましたが、先日もセラエノの役に立てず……このままでは、領主の座を追われる可能性があったので強行しました」
「ふうむ。オレには理解しがたいが、動機はわかったが……」
「自分たちでは、レッサーはともかく、グレーターには歯が立たない事を痛感しました。だのに、クラウス殿は軽々とほふってしまわれた……」
前回の記憶さめやらぬ中で、再び全滅の危地に立たされた事で、自信を喪失しかけているようだ。
「オレも、このオーリガも……聖剣を使っているからな」
「慰めてくださるのは有り難いのですが、一本だけ残していた聖剣でも、自分では歯が立ちませんでした」
「余裕がある状態での戦闘と、そうでない場合の違いもあるから、分からんが……。聖騎士になろうとしていたほどなのだから、倒せないと決まったわけでもないとは思うがな」
「火の眷属はともかく、デーモン種には勝てると踏んだので、渡河したのですが、もはや引くもならぬ状態で、領主としてより、パーティーのリーダーとして、皆に申し訳ない」
「若君……われらはみな、危険を承知でついて来ているのです」
石弓使いの男性も、ほかの人もうなずいているところをみると、それなりの人望はあるんだな。
「ならば、オレたちの後詰めの任務についてもらうしかないだろうな。いま、火の眷属を倒す手立てを探しに二人が別行動をしていて、戦力的に不安だしな」
「ご主君……率直に申して、拙者はその事が不安なのですが」
イレーネはアデールとともに、身体を害されそうになっていたのだから無理はないだろうが……。
「イレーネ殿が仰るのも、もっともの事ですが……自分はクラウス将軍に、『誓約』をかわす事すら、考えています」
「クラウス将軍? 何それ……初耳なんだけど?」
「拙者もですが、セラエノ公が推薦されたんでしょうか?」
「本人の承諾も得ずに、将軍にされても困るんだがな……」
「誓約の手続きに必要な物は取りそろえておりますので、ぜひ自分たちを同行させてください。お願いします」
レックスはアデールとイレーネに深々と頭を下げた。
「まぁ、これでみんなが安心するんなら、仕方あるまい」
契約の一種のようなものだが、一方向だけの物だし、わなではない事は言うまでもない。
レックスたちは『誓約』をすませて、正式にオレたちの後詰めを勤める事になった。
「で、その将軍というのはどういう事なんだ? 名誉職にしても、不在のタイミングで就任させる意味がわからん」
「あくまで、セラエノ公爵領における将軍位ではありますが、領主会議の後には、セラエノ自治州の将軍に格上げされるとか」
率いる兵もおらず、敵中で孤立している将軍など古今東西聞いた事がないんだがな。
「ほかの貴族や領主の足並みが整わないから、士気高揚のために将軍に就任させたという事か? セラエノ公の臣下になった覚えは、ないんだがな」
「聖剣で悪魔を倒し、海神を倒したクラウス殿の名声は上がる一方でしたから、おそらくは」
「海神を倒したのは、オレではなくエミリーなんだがな……」
今後どうなるかも分からない状態において、『英雄』の存在が、必要とされた事は分からないでもないが、なにしろ勝手すぎる……。もしや、すでにオレがカミラの婿だとでも、思っているのだろうか?
「何にせよ、今日はもう休む事にしよう……。神官と魔術師は、アデールとイレーネとともに地下で寝てくれ。ほかの者は三交代で休息を取るべきだな」
もう午後九時を回っているので、あわてて野営の準備を始めた。オレとオーリガとレックスが別の組になるよう配分して、オレは最初の不寝番についた。
「若君を受け入れてくださり、ありがとうございまする……」
オレとともに不寝番に立った、石弓使いの男性が口を開いた。
「こんな事でもなければ、当分その気にはならなかったとは思うがな……」
「クラウス殿が望まれたなら、ケラエノの領主になる事ができたとか……。若君の更正の余地を残してくださり、ありがとうございました」
この男性も元は汚れ役を務めていた印象があるのだが、心からそれを望んでいたわけでも、なかったのだろう。
「思い返せば、聖騎士の選抜の過程では心の奥底まで探られたから、レックス殿が心の底からの悪党ではないと、わかってはいたんだが、仲間を狙われたのではな――」
「若殿の弁護をするわけではないのですが……。相当悩まれた上で、このままではケラエノが立ち枯れてしまうと信じ、自ら手を汚さんとされたのです。命令するばかりのお父上に比べれば……。と拙者は思うわけです」
なるほど。それが彼やパーティーがついていく理由か。時間をかけて見極めていく必要はあるのだろうが、オレはレックスたちを、信じる事を心に決めた。
今回はさしたる引きもありませんでしたが、仕方ないですね(笑)
本日は、午後六時にもう一話公開します。




