第三十九話 セクス、キルクルス Bパート
今回も戦闘はありません。
「オレは、聖騎士にして、セラエノ公爵から騎士に叙任されている、クラウスという者だ。こっちは仲間のエミリー」
「よろしくっス……」
中腹で出会った時の最初の印象と違うせいか、エミリーは警戒しながらも、頭を下げた。
「そう――」
カミラは、表情にも言葉にも感情を浮かべずに応えた。
「セラエノ公から、手紙を預かっている」
オレは、懐から手紙を取り出して、カミラに手渡した。
「了解した――」
カミラは父からの手紙を読み終えても、依然無表情のまま、ぼそりと答えた。
「という事は、オレたちに同行してもいいと言う事か?」
その問いに、カミラは無言でうなずいた。
「実は昨日の朝、悪魔を退治しに行くと、一度は出発したんじゃが、山の中で遭難しておったらしい」
無言が耐えられなくなったのか、最高導師が口添えしてくれた。
「そうだったんですか。実はオレたちが彼女を発見して、救出したんですよ」
「ほう……そりゃあ、なおさら恩を返さんといかんの」
「じい、しゃべりすぎ――」
最高導師をじい呼ばわりするとは……。さすがのオレもあぜんとしてしまう。
「ああ、この子の母はわたしの娘でな……。ちょいと扱いづらいかもしれんが、よろしく頼みますぞ……」
「そうですか……。実は、出発は一週間後を予定していまして、それまでオレはモレイト村の鍛冶師の家で聖剣を作るので、このエミリーに魔法の修行をさせてもらえませんか?」
「エミリーっス……。ケサナ渓谷の近くの塔院で、『魔法拳士』の修行をしたんスけど、普通の魔法はほとんど、使えないんス……。アニキの戦力になりたいっスから、お願いするっス」
エミリーは深々と頭を下げて、頼み込んだ。
「ふむ……。あそこの老師とは、たまに酒を飲む間柄だし、喜んで引き受けよう。カミラ……。おまえさんに任せるぞい」
「わかった――」
カミラは表情を変えずに首肯した。
「じゃあ、作業が終わったら呼びに来るよ……」
「不要――。この子一人ぐらいなら、一緒に運べる」
「ああ、カミラは視界内の場所になら、瞬間移動できる魔法の使い手じゃからの……。水晶玉もあるから、モレイト村の鍛冶師の家の玄関に、これを張ればすぐわかるのでな」
最高導師は、お札のような物を手渡してくれた。
「そうですか。それは、非常に助かります。任務が成功したら、あいさつに来ますので……」
片道二時間近くかかる山登りがなくなるのなら、大歓迎だ。
「ひとつお願いがある――」
「オレにできる事ならな……」
去り際にカミラが歩み寄って来て、口を開いた。
「聖剣と同じ作り方で、杖をひとつ作ってほしい。柄の部分は普通の金属でかまわない。聖属性の魔法に必要――」
「なるほど……そういう事か。長さや大きさは、それと同じぐらいでいいのか?」
そう問いかけると、頭を下げて同意した。
「触媒として使うのが前提か? 聖剣属性であればいいのか?」
触媒を昇華させるのなら、二本か三本は作った方がいいだろう。
「触媒としては使わない――」
カミラは背を向けて、エミリーのもとに歩いていった。
「はぁ……。下りも決して、楽じゃあないな」
太陽が中天から西にかたむき始めたころ、オレはモレイト村に、帰り着いた。
「ちょうど、いいところに! これはどうすりゃいいんだ?」
鍛冶師の家の前に行くと、二台の馬車が止まっており、十人ほどの兵士が荷物を下ろしていた。
「なに? もう、カデストから戻って来たのか!」
「クラウス殿ですな。これが目録となります……」
先日もケサナ渓谷で顔をあわせた事がある役人が、オレに書類を手渡した。
「ふむ……。延べ棒が三百本に、たる四つか。全部数えて、サインをすればいいんだな?」
「簡単な作りの聖剣を二十本作る件について、可能な限りの協力をしろと言われています」
「ふむ……。だが、強行軍で峠を越えたんだろう? 出発は明日の昼前ぐらいになると思うぜ」
「そうですか……では、用事ができましたら、遠慮なく言ってください」
延べ棒の数を確認してサインをしてやると、役人と兵士たちは、借り受けた民家で泥のように眠りについた。
「よしと……。じゃあスキルを発動するぜ」
十個の型に化合物と、延べ棒を分割した物を詰め終えたのを確認し、オレはそのひとつにスキルを発動させた。
一度に十個作れるのならいいのだが、そうはいかない。木型を多く用意しているのは、できるだけ素材をなじませるためだ。不眠不休で働いても、二十個が完成するのは二十時間後だ。
「よし……。次作れるのは、一時間後だな」
通常は長剣を作るのに、延べ棒四本を必要とするが、これなら、延べ棒を一本の四分の一と化合物だけで作る事ができる。延べ棒四本と、たるのひとつを使い切る計算だ。
以前、馬車で作った時よりは、レベルも上がったし、素材も多めに使っているので、耐久力も上がるだろう。
「もう一時間か。そろそろいいかもな……」
スキルを発動した瞬間でも、出来上がってはいるのだが、少し冷却期間を置いた方がいいので、オレは一個目の木型を留めていた、針金をほどいた。
「おー……できてますねぇ。そんな簡単に作れるなんて、鍛冶師としてのプライドが傷つきますよ」
「ふむ……。鋼鉄の剣程度の耐久力はあるな」
「うお、本当ですね。化合物が多いですから、触媒としても、結構いけるんじゃないですか?」
「そうだな……。四回ぐらいは耐えられそうだな」
現在、聖剣製作のレベルは四なので、それも関係しているのかも、しれない。
「じゃあ、二個目といくか」
時間の経過で、スキルが再び使用可能となったので、オレは二個目に手を伸ばし、発動させた。
「ふわぁ……ねみぃ……。一時間後に起こしてくれや」
「勘弁してくださいよ……。明日からの準備で、いままで仕事してたんですから」
すでに深夜になっており、十本の簡易な聖剣を完成させていた。
「むぅ。じゃあ濃いコーヒーでも入れてくれ……」
「本っ当に、人使いが荒いですよね……」
「材料代は持ってもらったんだから、あまり高値もつけられないが、教会の買い取り額の五倍は保証してくれるとさ」
「今回も、四割の取り分をくれるんですか?」
「いや、だいぶオレだけでも作れる部分が増えたしな。三割で、勘弁してくれや。なぁに、それでも金貨が三桁いくだろう」
「んー……。それなら、もっとここを拡張したいんですけど」
「においや騒音の問題もあるし、街中ってわけにもいかないよな。おっと、すまんな」
オレは濃いコーヒーを受け取って、さましながら口に含んだ。
「カデストとセラエノの中間で、聖剣を作るには都合がいいんだよなぁ……」
だが、いまの倍ほどの広さの家を建てて、作業台を倍にするのには、今回の作業で手に入る資金でも足りるかどうか。
「セラエノ公から、補助金でも申請するか、土地と家でも提供してもらうのはどうだ?」
「まぁ、それは光栄な事ではありますけどね」
実際、聖剣を作っている事がわかると、警備も必要になるかもしれんし、ひっそりと作るのが一番かもな。
「いよっし! レベル五になったぞ!」
「なっ……なんなんですか?」
「聖剣製作のスキルがレベル五になったぞ。見てみろよ、この耐久値を」
「うわ、もう……。これを量産するんでも、じゅうぶんなんじゃないですかね?」
「残り日数にもよるがな。とりあえずは二十本を仕上げるか。おっと、起きたのなら、木型につめておいてくれや」
「ふぅ……。二十本完成だ」
役人に約束した通り、昼までに、ようやく約束の二十本を、作成する事ができた。
「徹夜で仕上げたんですか……お疲れさまです。たしかに預かりました」
「途中からスキルのレベルが上がって、相当頑丈になったんだが、時間が足りないようなら、その手法でも作っていきたいと、公爵に伝えてくれないか?」
「そうですね……これなら、ほぼ要求水準を満たしていますね」
その代わり化合物を多めに使うから、減りが早いんだがな。
「では、帰り道も気をつけてな……。うわさを聞いて、襲撃される可能性もあるからな」
「そう……ですね。これだけでも、金貨八枚に相当しますしね」
「じゃあ、販売の権利は付与しないでおくか? どうせ、公爵も売りに出す気もないだろうし」
そうしておけば、もし盗まれたとしても、一定時間で持ち主の元に帰って来るからな。
「そうですね。それぐらい注意した方がよさそうです」
オレは、鍛冶師を呼んで、その手続きをさせた。
「さて、やはり普通に作らないと、スキルが上昇しにくいしな」
「そうですね。鍛冶師が七でしたっけ? そのころから、上がりにくくなりますよ」
聞いた話では、このレベルで鉄製の武器を作っても、もうスキルは上昇しないとか。
「ふぅ。ようやく、一本目の完成か」
さすがに鍛冶師スキル七では、この鉱石を一から加工するのは無理だが、かなりの部分をオレが手がける事になった。
「うーん……。化合物が二割で、これですか。悪くないですね」
触媒としては二回使えるかどうか……だが、耐久値は相当のものに仕上がっていた。
「化合物を減らすって事は、その分延べ棒が必要になるからなぁ。むずかしいところだよ」
たるは五たる残っているので、何とか足りそうではあるが。
「どうする? 失敗を覚悟して、化合物一割に挑戦してみるか?」
「いや、慎重に一割五分でいきましょうよ……っていうか、作るのに二時間かかって、スキル発動は最後だけなんですから、木型でも作れるんじゃないですか?」
「そうだな。じゃあ、つめておいてくれ」
「わかりましたよ……やっておきますよ」
「一割五分でも聖剣扱いだな。少し補正が目減りしてるか?」
「そうですねぇ……。一割でも作れなくはないですけど、そんなぐらいなら、木型で作る方がって事に……」
この世界では、国と国の戦争はほぼないが、実際の歴史でも、魔物が出現する前は激しい戦争が行われていたようだしな。あまり強度の高い物を一国に集中させると、力のバランスが崩れる可能性もある……。
「よし。じゃあ二割で行こう。いざという時に、触媒に使えるのなら、保険にもなるしな」
商売的に考えると、壊れないような武器を売るべきではない――。消耗品にした方が、長い付き合いになるしな。こんな事はアデールにでも考えさせたいところだが。
「ふぅ……。普通に作るぶんは、今日は打ち止めだ。不眠不休だったしな」
日が暮れかけたころに、二割の化合物で作った聖剣が五本。木型で作った聖剣が五本、完成していた。鍛冶師レベルが八に上昇していた。十になれば全部オレだけで作る事もできる。
「なぁ……。一番できのいいヤツは、オレがもらいたいと思うが、どう思う?」
「うーん……。おまえさんの働き次第で、セラエノの街が大変になるんだろ? なら、三割から四割に戻してくれよ」
「じゃあ、オレにしか持てない設定にしてくれよ!」
「まぁ、いいだろう……」
実際、どれぐらいの物が作れるのかは定かじゃないんだがな。
「ふぅ。これだけあれば、じゅうぶんだろう」
四日後、旅立つ二日前の朝には、木型で作ったのが四十本と、化合物二割の聖剣が五十本出来上がっていた。
「あとは、決戦用だな……」
決戦用には、延べ棒を五十本と、化合物を二たる残している。ここまでで、鍛冶師スキルが十になり、聖剣製作が六になっていた。
「もう、おまえさんだけで作れるだろう……もう寝かせてもらう。限界だ」
そう言って、鍛冶師は近くの空き家に向かっていった。
「あと、半日というところか」
最終日の昼に、オレは最後の作成にとりかかった。これまでに、槍四本に小剣・長剣・大剣を二本づつと、エミリー用の強化武装を作成し終えていた。レベルが高いだけに、かなりの耐久値を誇っていた。
「カミラに頼まれていた、杖を作るか」
残る延べ棒は十二本と、たる半分の化合物だ。
「よし……触媒として使わないのなら、これでじゅうぶんか。しかし、型を作ったのに、使わないのももったいないな」
オレは念のため、二本目の杖も作る事にした。
「そういえば、これでも入れてみるか」
オレは、杖用の型に化合物と加工した延べ棒を並べて、その中心に、先日倒した『名前付き』の悪魔が落とした黒い宝石を埋め込んでみた。
「うぉぉ……『聖騎士が作りたる闇の聖杖』って、固有名詞まで」
能力を確認すると、闇属性を持たない魔術師でも、闇魔法が使えるようになるらしい。
「まだ残ってるし、いっちょう自分用のも仕上げてみるか
聖剣製作が七に上昇したので、オレはハイテンションで挑んだ。
もう、護衛人小説だか、鍛冶師小説だか分かりませんね。




