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二人の花嫁  作者: ひろね
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第10話

 脅しが功を奏したのか、殿下はティータイムにマリを呼んで、二人きりで話す時間を作るようになった。

 短い時間だけど、前のように他の人もいる夕食タイムと違って、たどたどしくも二人は会話をして過ごしているようだった。

 お茶から帰ってくるとマリの顔は笑顔で、おお、あたしの頑張りも無駄じゃなかったかな? って思う。

 これが息抜きになって、マリも礼儀作法などの勉強を前より熱心に頑張るようになった。

 これもきっと殿下と距離が縮まったおかげかしらね。



 その歩み寄りもあってか、その後、紹介された王子に対してもごく普通に挨拶を交わしたのみだった。

 王子たちは他に三人いて、ヘルベルト殿下の次がクリストフェル殿下 20歳、ローラント殿下 20歳、最後にマルティン殿下 15歳だった。

 彼らはヘルベルト殿下のような黒髪ではなく、ラルスと同じダークブラウンの髪。そのあたりからも、ヘルベルト殿下が理想なのかしらね、と三人の殿下を観察しながらそんなことを思っていた。

 必ず黒じゃなきゃいけないというわけではないけど、黒い色を持つ人は少なくて大事にされるんだって。


 それにしても、二人の王子はヘルベルト殿下より一つ下なだけなのか……しかも、母親は全部違うそうで。王様頑張ったなあ、なんて思ったのは内緒。

 最後に、マルティン殿下は年を考えても自分が選ばれることがないだろうなと思っているらしく、マリのことを義姉さまと呼んでもいいかと尋ねていた。その言葉に、マリは頬を赤く染めながら、「ありがとう。よろしくね」と答えていた。

 ふむ、マリは思ったより殿下がお好きらしい。

 なによりなにより――と、思わず年寄めいたことを思ってしまう。


 あたしって母が早々に義父と再婚したせいか、妙に古臭い言葉を覚えてしまっているのよね。あたしの年なら使わないだろう言葉とか。余談だけど。


 ちなみに、あたしはヘルガさんにメイド服を貸してもらって、侍女のふりをしてそばにいた。

 いやー、だって、召喚した『マリア=サトー』が二人いたってばれたら面倒じゃない。なら、友人――マリと同等のような立場でいるより、侍女として後ろで見てたほうが問題にならなくていいかな、と。あたし、ここでは普通だし。

 あたしの読みは当たっていたのか、あたしに対して三人の王子は見向きもしなかった。ああよかった。面倒事に巻き込まれなくて。



 ***



 それから数か月――


 マリは見事にレディーと化し、殿下との結婚が間近に控えていた。

 礼儀作法だけでなく、ヘルガさんたちによって磨かれたマリは、もう普通の女子高生には見えなかった。


「変わったね、マリ」

「そうかしら?」

「うん、そのしゃべり方からしてもう……ね」


 戸惑いながらも笑みで返すマリは、今の自分を受け入れているに違いない。

 改めて、マリは強いと思った。

 まったく知らない世界で、いきなり花嫁として呼んだと言われ、その人との結婚に向かって、礼儀作法やら何やら覚える羽目になる。でも、それをちゃんと受け入れてる。

 殿下の気持ちも、変わっていく自分も……


「わたしね、リア」

「ん?」

「リアがいてくれたからできたのよ?」

「そう?」

「ええ。辛いときには、リアが殿下にいろいろ言ってくれたでしょう? そのおかげで、わたしは楽になれたし、殿下とお話しする機会も増えたわ」


 そりゃ、多少は手伝ったけど……ね。でも、今を受け入れて頑張ったのはマリ自身なんだけど。変わったけど、こういう謙虚なところは変わってないのね、マリは。


「リアのほうが……よっぽど謙虚なのに……」


 ぼそりと呟いた言葉に、とっさに「は?」と答えてしまう。


「あたしの、どこが?」


 さらに足りなくてそこまで聞いてしまう。

 小声で言ったくらいだから、本当は聞かれたくないことなんだろうけど……それでも、聞こえてしまって、そして聞きたかった。


「だって、全部、わたしに譲ってくれたじゃない」

「だから……」

「『マリア=サトー』は二人。どちらでも良かったのよ。でも、リアはわたしに居場所を譲ってくれたわ」

「いや、だからそれは……」

「リアが違うと言っても、わたしにはそうとしか思えないの」

「……」


 もはや何も言えない。

 でも、たしかに「なんであたしまで!?」と思うときもあった。

 自分の存在価値を考えたこともあった。


 それでも、マリがいて、マリを支えようと思ったら、心が軽くなった。

 あたしの自己満足かもしれないけど、それでも少しでもマリの支えになれたら、あたしの存在価値は少しでもあるんじゃないかって……

 そういう意味では、殿下たちが召喚した『マリア=サトー』はあたしたち二人が揃って一人なのかもしれない。


「まあ、マリがそう思うなら思っていれば?」


 そんな気持ちは恥ずかしくて口にできない。そのため、ぶっきらぼうな口調でマリに返すと、マリはくすくすと笑った。


「マリ?」

「ふふ、リアが照れてるの、丸わかりよ」

「なっ、そんなこと……!」

「照れてるついでに教えてもらいたいことがあるんだけど?」

「てっ照れてない! だけど、聞きたいことってなに?」


 マリにからかわれながら、心の中で『落ち着け! あたし』と何度も叫びながら、少しずつ顔の熱さが取れたころ。


「ラルスさんとはどうなっているの?」


「ななななななっ、なに言って……!?」


 突然別の話に代わって、落ち着いてきた心がまた乱される。

 いきなりなにを言い出すかな、マリは!!


「そのうろたえ具合から、やっぱり噂は当たっているのかしら?」

「うっ噂!?」

「ええ。殿下の側近である、ラルス=ダールとリアは恋仲だと聞いているわ」

「恋仲……」


 マリの口から『恋仲』なんて言う言葉が聞けるとは思わなかったよっ!

 でも、ラルスとはそういう仲じゃないから!!


「なにもないわよ……」

「本当に?」

「本当よっ!!」


 たしかにこの世界では、殿下のほかにはラルスとよく話してたわよ。でも、それは殿下とマリをくっつけるためにあれこれ話し合っていたのであって、あたしたちの間にそんな甘ったるい感情なんてこれっぽちっもなかった。塵のようなちっぽけなものさえも感じなかったんだけど?


「でも、リアはわたしが結婚したら、しばらくしてラルスさんの領地に移るって聞いたの。本当? だとしたら、リアと離れ離れになってしまって悲しいのだけれど……」


 ちょっ、それいつの話よー!?

 確かにラルスにヤバくなったら田舎で住む場所を教えてくれと言ったけど、そういう意味でラルスの領地に行くんじゃないんだってば!


 いや、本当よ?

 さっきも言ったように、ラルスとはよく話すけど、ラルスから甘い言葉を聞いたこともないもの。あたしも話すのはマリのことばかりで、ラルスに甘えるようなことを言った覚えはないし。

 それらを説明すると、マリは晴れやかな顔になって。


「うれしい! それならリアはずっとそばにいてくれるのね?」

「まあ、一応ね。ここで働かせてもらおうと思っているけど」

「良かった。噂を聞いたとき、すごくショックだったの」

「ないない、そんなこと」

「そう。リアがそばにいてくれてうれしいわ」


 上機嫌になったマリに、あたしはほっと胸をなでおろした。

 が。

 最後に爆弾も落とされた。


「でも、そばにいてくれるのは嬉しいけど、リアもちゃんと結婚しなきゃ。リアがいき遅れるなんてことないわよね? ラルスさんと一度、ちゃんと話し合ってみたらどうかしら?」


 …………………………マリよ、先ほどのあたしの言葉はスルーかい。


 結局、マリの頭の中では、あたしはラルスといい仲らしく、なにを言っても無駄だった。

 もうマリの思い込みを訂正する気もなくなって、何も言い返さなかった。

 そうこうしてマリが結婚して、殿下と二人で仲がいいのを見て安心して……ほっと一息つくころに、気づくとあたしはラルスとくっついていた。




 あれ、どうしてこうなった?

 え? あたしがマリのことを気にしてるから、マリが落ち着くまで黙っていた?

 え? そんなの初めて聞いたけど??

 まあいいじゃないか? どこに出してもおかしくないようなレディーなんだから?

 ねえ、それって、もしかして……あたし、嵌められたってこと!?



 ラルスを問い詰めると、そんな返事が返ってきた。


「リアは俺のこと嫌いか?」

「いや、好きとか嫌いとかじゃなくて……」

「ならいいじゃないか。殿下とマリ様だって最初はそんな感じだっただろ? 俺たちのほうがまだ互いのことを知っているし」

「ええと……」


 ラルス結構押し強いわ。

 断る決定打がなく、思いつくままに返事をしていたら、いつの間にか退路は断たれていた。



 だけど、これでタイトル通りになるんだからいいだろって……なんで、あんたがそんなこと知ってんのよ?

これでこのお話は一応完結です。

マリから見た話なども考えてはあるんですが、打ち込みまでは至りませんでした。

今まで読んでくださった方、ありがとうございます。

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