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ヒトリミサキ改  作者: ⻆谷春那
序章
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華麗に水たまりを避けようとしただけなのです。

ヒトリミサキ改

⻆谷 春那

序章第四話

華麗に水たまりを避けようとしていただけなのです。


 インターホンが鳴る。こんな異常事態に鳴るとは、何か良くない事の前触れ―「フラグ」なのではないか。ざわつく。美樹嬢が、窓からそっと、窺ってみる。


 少なくとも、美樹嬢の知り合いではない。つまり、澪子嬢の知り合いでもないだろう。サラリーマンの知り合いなら、どうして此処に来るのか?まだ、家族への連絡も済んでいないと言うのに。怪異に襲われ、取り敢えず民家に助けを求めているのか?否、それにしては、落ち着き過ぎている。




 何か、妙な雰囲気を感じる女だ。殺気と言うか、何と言うか。これから、修羅場でも起きそうな雰囲気。それを、全身に身に纏わせている。表情から、溢れ出ている。ロリータ・ファッションとでも言うのだろうか。ピンク色の、フリフリした服を着ている女だ。年は、学生なのではないだろうか。




 美樹嬢は直感的に、開けない方が良い事を悟る。第一、確証はないものの。相手は、人間ではないだろう。いや、確証なら、ある。その身に纏う、嫌な雰囲気。邪気とでも、言うのだろうか。フリル程度では、中和されないおどろおどろしさ。ひょっとしなくとも、彼女があの「ヘドロ」を操っていた張本人―つまり、黒幕なのでは?どうにせよ、扉は開けたくない。だから窓を開け、話しかける。


 「すみませーん、何の御用ですかー??今、怪異が出回っていて、危ないんですよー!!」

「あら?怪異?そんなもの、居たかしら?」

「えぇ??あんなに、ヘドロが蠢いていたのに?!」

「ヘドロ…?そんなもの、何処にもないわよ?」


 「キョトン」とした顔で、ポーズをとる。おそらく、「可愛らしいポーズ」と、思っているのだろう。だが少し、無理があるような気がしてならない。




 美樹嬢が身を乗り出して確認してみるが、確かにヘドロは見当たらない。どういう事だ?先程までのヘドロは、何処に?ひょっとして彼女、全く無関係の人外だったのか…?


 「あ、そうそう。私、此処のおうちの、『澪子』とかいう女に、話をしに来たのだけどー。…貴女は、だぁれ?『澪子』じゃあ、無いわね。」


 女の勘的な何かが、告げる。絶対に、澪子嬢とは会わせちゃいけないと。とにかく、恐ろしい表情をしているのだ。怒りと言うか、憎しみと言うか。そういうものを、笑顔の裏に元々隠している雰囲気はあったが。今は、無表情となり。全面的に、押し出している。


 「…え?!誰ですか、それ?!此処、私んちなんですけど!!」

「…あぁ、貴女、美樹ね。木村 美樹。」

「…誰ですか、その人も?!」


 内心青ざめながら、白を切り続ける事を決めた美樹嬢。だが、後ろでは既にサラリーマンは戦闘態勢しているし、澪子嬢も臨戦態勢しだしている(サラリーマンは戦力にならなさそうだが)。相手が澪子嬢の顔を把握している可能性が、百ではないと言えるものの。これ以上前に出られたら、流石に相手からも見えてしまう。前には、不審者。後ろには、飛び出しそうな澪子嬢。美樹嬢は謎の板挟みになりつつあると言う訳だ。


「白をきらなくても、大丈夫よ。美樹ちゃん、さあ、こっちにおいでなさい。お兄ちゃんが、待ってるわよ?」

「いや、私、一人っ子ですー!!」

「…あ!分かったわぁ!!『いかのおすし』って、やつね。偉いわー。…じゃあ、これなら、出てきてくれるかしら?」


 そう言って女は、手を鳴らす。まるで、召し使いでも呼ぶかのように。その直後。ヘドロが、急接近するのが見える。やはり、彼女は黒幕だったのだ。

 そのヘドロに、何か白いものが見える。浮かんだり沈んだりして、よくは見えない。美樹嬢が、目を凝らす。


 「…お兄ちゃん?!」


 見慣れた顔が、浮かんでいる。ヘドロに埋まったまま、自分の兄が運搬されてきたのだ。


「あら。やっぱり、美樹ちゃんだったんじゃない。嘘吐いたの?私に?」

「あ、貴女!!何者なんですか?!」

「私?血夜。それより、澪子とか言う、泥棒猫を、出してきてくれる?」

「…己、自分が何を申しているか、理解してから物申せ。」

「…れ、澪子さん!!駄目です、今出てっちゃ、多分ヤバいやつです!!堪えて!!」

「ねぇ、やっぱり、そこに居るんじゃない。出て来なさいよ、泥棒猫。私と、お話をしましょう!!」

「…己、道理を弁えろ。」

「澪子さんー!!!」

「あ、わ、お、落ち着きましょう!と、取り敢えず、挑発に乗って良い事なんて、早々(・・)に起きません!!」


 気が動転して若干支離滅裂な事を言っているサラリーマンも、加勢。美樹嬢と二人がかりで止めに入るが、澪子嬢は華奢な見た目に反し、力がなかなかに強い模様。


 そしてさらに挑発する、不審者―血夜嬢。ファンデーションのミルフィーユが出来上がっていた皮膚が、崩れた表情のせいで地割れを起こしている。目は爛爛と見開き、深淵のような色をした口内は、はっきりと見える。


 「分からない?!もう一回、今度ははっきりと言ってやるわ!!アンタ、迷惑なのよ!!岬君の、迷惑!!私達の幸せな生活のために、せいぜいアンタは惨めったらしく、その身を引きなさい!!ビッチが!」

「ちょ!!貴女も貴女で、急に出てきて何をい、って、うわー!!」


 サラリーマン、大変に良いリアクションをしてくれる。




 突然、血夜嬢の身体―腕が。美樹嬢が開けた窓―澪子嬢が奥に居る窓を指さしていた腕が。液体のように、崩れ落ちた。いや、ヘドロとなって、崩れ落ちた。


 「…公園に来なさい!泥棒猫!!決着を付けましょう??」

「ちょ!!貴女!お兄ちゃんを返して!!」

「あら、美樹ちゃん。安心して?次期に貴女も、私のハッピーライフのモブとして、加えてあげるわ?…公園で、待ってるから。」


 そう言い残して血夜嬢は遂に全身がヘドロとなってしまった。血夜嬢だったヘドロは、ぞろぞろと流れ始める。傾斜がないのにも関わらず。木村を取り込んだヘドロが、数秒遅れて此れに続く。


 澪子嬢はぽっと出の女に、「身を引け」と言われ、罵倒され。美樹嬢は兄をちらつかせられ。何も事情が分からないリーマンが、頑張って宥め、止め。外に出ようとする(自分よりも色々と強い)少女二人を収めるのに必死で、リーマンが何だか可哀想で。その場に居る誰も、第二の来訪者のチャイムに、気が付かなかったのである。

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