出発
翌朝、集合場所へ向かうと、すでに五人の姿があった。
グラッド、ルドベック、スピレア、リリー、そしてアイリスだ。
「どうして二人もいるんだ?」
挨拶を済ませるなり、リリーとアイリスに尋ねた。
「それは、その…」
アイリスは気まずそうに言葉を濁し、隣のリリーも苦笑を浮かべている。
事情が飲み込めずグラッドへ視線を向けると、目が合った。
「一昨日のお礼に、イズーナまで同行とイズーナの観光案内をしてくれるそうよ」
グラッドは、まるで大したことではないというように説明した。
「それくらいしか恩返しができず、申し訳ない!」
アイリスが勢いよく頭を下げる。
「いやいや、十分だから! 案内してくれるだけで本当に助かるから、頭を上げて!」
慌てて両手を振り、顔を上げるよう促す。
ルドベックに負けないくらい真面目な奴だ。
「しかし、それでは…」
「それに、持ちつ持たれつってやつじゃないか?」
なおも頭を下げようとするアイリスに、苦笑しながら口を開く。
以前グラッドが言っていた言葉を、そのまま借りてみた。
「本当にかたじけない!」
アイリスは感極まったように、再び深々と頭を下げる。
もしかして、この人、謝るのが趣味なんじゃないだろうか。
そんな失礼な考えが頭をよぎった時
「あれ? 待たせちった?」
場の空気などお構いなしに、ローレルがいつもの調子でひょっこりと姿を現した。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
スピレアの元気な号令とともに、旅は再び動き始めた。
とはいえ、まずは港まで馬車で向かうだけだ。
揺れる馬車に身を任せながら、流れていく景色を眺めていると、
「アスター、それって?」
スピレアが剣に付けた五芒星のキーホルダーを指差した。
しまった。
カルタムのことは、まだスピレアに話していない。
不用意に付けてしまった自分を恨めしく思う。
「カルタムから返してもらったんだ」
嘘ではない。
けれど、真実を隠していることに胸が締め付けられた。
「そっか…」
スピレアは小さく頷く。
その表情が一瞬だけ曇った。
「また、お揃いだね」
そう言ってスピレアは自分のワンドを取り出す。
そこにも、同じ五芒星のキーホルダーが揺れていた。
嬉しそうで、それでいてどこか寂しそうな笑顔だった。
もしかしたら、カルタムのことを察したのでは…?
そんなことを考えていると、不意に一枚の紙が目の前へ差し出される。
『二人って、どういう関係なの?』
リリーが目を輝かせながらこちらを見つめていた。
完全に面白がっている。
助けを求めてスピレアを見ると、
「…」
なぜか耳まで真っ赤になって固まっていた。
駄目だ。
こっちは使えそうにない。
その時だった。
背筋がぞくりとするような視線を感じる。
恐る恐る視線の方角を見ると、ルドベックが今まで見たこともないほど鋭い目でこちらを睨んでいた。
そんな空気の中、スピレアがおずおずと口を開く。
「…どういう関係に見えるかな?」
その一言に、リリーの目がさらに輝いた。
猛スピードで紙に何かを書き始める。
「やっぱり! やっぱり今のなし!」
我に返ったスピレアは、真っ赤な顔で慌てて手を振った。
「スピちゃん、それは無理っしょ。昨日も二人でさー」
ローレルがニヤニヤしながら口を挟む。
「あーっ!」
最後まで言わせまいと、スピレアが勢いよく飛びつき、ローレルの口を両手で塞いだ。
「むぐっ!」
「何だ? 何があったんだ?」
今度はアイリスまで目を輝かせながら身を乗り出してくる。
女子たちの勢いについていけなくなったので、静かにグラッドの隣へ避難した。
ここなら安全だろう。
そう思った矢先
「…おい。昨日、何かあったのか?」
すぐ隣からルドベックの声が聞こえた。
振り向くと、満面の笑みを浮かべている。
目だけは、まったく笑っていなかった。
どうやら、ここも安全ではなかったらしい。
【短編投稿のお知らせ】
明日8月15日朝7時にガーベラの過去を描いた短編小説
『あたしが追いかけたその背中』
を投稿予定です。
傭兵養成学校時代、ガーベラがどのようにグラッドと出会い、彼の背中を追いかけるようになったのか。
本編では描かれなかった二人の始まりの物語です。
よろしければ、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




