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第41話:21:00 - 絞首の経済封鎖と、沈黙の奉仕隊

 日本が「光の奇跡」によって国民を熱狂させていた頃、敗戦国・中国の指導部には、軍事的な敗北よりも遥かに恐ろしい「静かなる死刑執行」が下されていた。

「……現在時刻をもって、EU(欧州連合)およびアメリカ主導による金融制裁が完全発動しました。我が国は、SWIFT(国際銀行間通信協会)の決済ネットワークから完全に遮断されました」

 蒼白な顔をした中国人民銀行の総裁が、新指導者である軍事委員会副主席の前で震えながら報告した。

「同時に、海外に保有している我が国の外貨準備高の9割が凍結されました。……副主席。我が国の国際貿易は、今この瞬間をもって『完全に死亡』しました」

 副主席は、握りしめていた万年筆をボキリと折った。

 SWIFTからの排除。それは、国を跨いだ金銭のやり取りが一切できなくなることを意味する。原油も、天然ガスも、そして14億の人民を食わせるための「輸入食糧」も、明日から一粒たりとも港に入ってこない。

「国内の暴動は、戦車と武装警察で轢き潰せば済む! だが、カネが動かず、食い物がなくなれば……!」

 副主席の顔に、初めて明確な「恐怖」の色が浮かんだ。

「さらに、日本のゼネコンと商社が、台湾の半導体供給網サプライチェーンの再建を完全に独占するとの情報が入っています。世界のハイテク産業は、我々を見捨てて『日米台の鉄の経済圏』へと完全に移行しました」

 銀行総裁は、絶望的な声で締めくくった。

 武力で台湾を屈服させようとした代償は、国家そのものの「緩やかな餓死」であった。

 上海や北京の街角では、学生たちが戦車に弾圧される血みどろの惨劇が続いている。中国共産党は、外の世界から完全に遮断された密室の中で、自国民の怒りと飢餓という「時限爆弾」を抱えたまま、終わりのない自壊の泥沼へと沈み始めていた。

【2026年6月21日 22:00 - 台湾西海岸 台中市 郊外】

 完全に日が落ちた台湾の激戦地。

 投光器(ディーゼル発電機)に照らされた瓦礫の山では、日本の『国家青年復興奉仕隊』として強制徴用された学生たちが、無言のまま作業を続けていた。

 昼間、「軍国主義反対」「人権侵害だ」と泣き叫んでいた彼らの姿は、もうどこにもない。

 彼らの作業着は泥と血で汚れ、目には一切の光がなくなり、ただ機械のように瓦礫をどかし、千切れた遺体の一部をボディバッグに詰める作業を繰り返している。

「……おい、そこの袋の口をしっかり縛れ。中身がこぼれているぞ」

 自衛隊の監視員が冷たく指示を出すと、学生運動のリーダーだった若者は、ビクッと肩を震わせ「は、はい! すみません!」と、怯えた声で従順に袋のジッパーを閉めた。

「見事なものですね」

 現場を視察に訪れた日本の大手ゼネコンの現場監督が、腕を組んで自衛官に話しかけた。

「あれだけ威勢よく理想論を叫んでいた連中が、たった半日で、これほど大人しく従順な働き手になるとは」

「人間の『思想』など、圧倒的な現実(地獄)の前では、ただのメッキに過ぎません」

 自衛官は、無感情な目で学生たちを見つめた。

「彼らの脳内にあった『話し合えば平和になる』というお花畑は、この強烈な死臭と、国家の暴力(銃口)によって完全に刈り取られました。……数週間後、彼らが日本へ帰る頃には、二度と我々(国家)に逆らおうとはしない、真面目で従順な『労働者』の顔になっているでしょう」

 平和と飽食が生み出した「理想論の病」は、台湾の瓦礫の中で、劇薬によって完全に治療(正常化)された。

 彼らが帰国し、この地獄の体験を語ることで、日本の若者たちの間から「反戦運動」という概念そのものが完全に消滅することになる。すべては、あの市ヶ谷の地下にいる冷徹な幹事長が描いた、完璧な「思想統制」のシナリオ通りであった。

【2026年6月21日 22:30 - 新宿区市ヶ谷・防衛省 地下中央指揮所】

 光を取り戻した東京の夜景が、地下大本営の大型モニターに眩く映し出されている。

 『救国暫定委員会』による「午後8時の奇跡」の熱狂は冷めやらず、ラジオでは市民たちの感謝の声が繰り返し報じられていた。

「……国内の不満分子(学生含む)は沈黙し、市民は我々を神と崇め、財界は軍拡を歓迎しています」

 『国民民主連盟』の幹事長が、長机の上で両手を組み、静かに語った。

「そして極東のチェスボード上では、ロシアは沈黙を守り、北朝鮮は国境を閉鎖して息を潜め、中国は経済の首を絞められて内部から崩壊中。……我々の勝利は、揺るぎないものとなりました」

 自党のトップである総理代理は、深く安堵の息を吐き、高級な葉巻に火を点けた。

「ああ。戦争に勝っただけでなく、この国を我々の手で完全に新しく生まれ変わらせることができた。幹事長、君の言う通りに動いて本当に正解だったよ」

 彼はもはや、幹事長という「悪魔」に魂を売り渡したことに何の抵抗も感じていなかった。圧倒的な権力と、神のように崇められる快感が、彼から一切の良心を奪い去っていた。

「油断は禁物ですよ、総理代理。我々の『48時間』は、まだ終わっていません」

 幹事長は、懐中時計を取り出し、カチャリと蓋を開けた。

 時刻は午後10時30分。

 開戦(昨日の午前0時)から、46時間半が経過している。

 極限のシミュレーションのタイムリミットまで、残すところわずか「1時間半」。

「統合幕僚長」

 幹事長が、鋭い視線を向けた。

「アメリカの太平洋艦隊司令部、およびホワイトハウスとの『最終回線』を繋いでください。……日付が変わる深夜0時ジャスト。世界に向けて、日米台による『新極東秩序ニュー・オーダー』の共同宣言を行います」

「了解しました。回線の準備はすでに整っています」

 統幕長が、姿勢を正して答える。

 血と泥にまみれ、数万の命と引き換えに行われたこの残酷な生存競争は、いよいよ最後の幕引きを迎えようとしていた。

 平和ボケした島国から、世界で最も強固な「鉄の帝国」へと生まれ変わった日本。その誕生を全世界に見せつける、最終章グランド・フィナーレの時間が迫っていた。

※本作はIFシミュレーションであり、実在の団体・個人・国家に対しての誹謗中傷を目的としたものではありません。

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