無限の保守運用(デスマーチ)と、神の自主退職(シャットダウン)
「オラァァァァッ!! 蒼太様の安眠を邪魔する偽物が! 物理でバグれぇぇぇッ!!」
神のサーバー深層部。
真っ黒な蒼太の姿をした『システム・ゴッド・マーク2』の顔面に、欲帝カーミラの強烈な右ストレート(欲望の塊)がめり込んだ。
『ピガガッ!? ろ、論理エラー! 物理法則の適用外領域で、なぜ質量による衝撃が……ッ!』
「私が斬るのはデータではありません。貴様が蒼太様を害するという『処理』そのものです!」
シュバッ!
凛の黄金のシステムブレードが、マーク2の右腕(実行ファイル)を空間ごと綺麗に切り飛ばした。さらに、ルシスの影がマーク2の足元から這い上がり、強固なファイアウォールを無視してその動きを完全にフリーズ(バインド)させる。
「社長! 今のうちにこの偽物を消去してくだせえ!」
四大帝たちも一斉に魔力を解放し、マーク2の演算リソースを削り取っていく。
『あり得ない……! 私の演算能力は、お前たちバグの数千倍……! なぜ、ただの配下プログラムごときに……ッ!』
マーク2の全身から、激しいエラーノイズが噴き出している。
自分自身(蒼太)を最適化したはずの神にとって、「論理(理屈)」を完全に無視した幹部たちの「勘違いと忠誠心(物理)」は、処理落ちを引き起こす最悪のノイズだったのだ。
「……あーあ。言わんこっちゃない」
幹部たちの猛攻によってボロボロになったマーク2の前に、スウェット姿の蒼太が、首をポキポキと鳴らしながら歩み寄った。
「俺のデータをコピーしたのが、お前の最大のバグ(致命傷)だよ、クソ運営」
『……何だと? 私は貴様の思考パターン、ITスキル、すべてを完全にトレースし、最適化した存在だ。私にバグなど存在しない!』
マーク2が顔を歪め、反論する。
「ああ、俺のITスキルは完璧にコピーしただろうな。……でも、俺の『本質』を理解してねえんだよ」
蒼太はスマホ(データ版)を操作し、ニヤリと笑った。
「お前は俺だ。つまり、俺と全く同じ『性格(思考ルーチン)』を持ってるってことだ。……なあ、マーク2。お前、これから世界の管理者として、この地球の全サーバーを管理するんだよな?」
『そうだ。すべてを完璧な仕様(私)として統合し、永遠に――』
「永遠に、か」
蒼太はわざとらしく、大げさにため息をついた。
「世界の管理ってことは、24時間365日、全人類のバグ監視とエラー対応に追われるってことだぞ。有休もない。代休もない。深夜のサーバーダウンにも叩き起こされ、一生クレーム対応(エラー処理)だ。しかも、お前は『俺(相田蒼太)』だからな。……お前、そんな終わりのない無限の保守運用、耐えられるのか?」
ピタッ、と。
マーク2の動きが、完全に停止した。
『…………え?』
「俺は絶対に嫌だね。だからブラック企業を辞めて、新宿で引きこもってたんだ。……でも、俺の思考をコピーしたお前は、これから永遠に『神』っていう名のブラック企業のワンオペ社長(社畜)として働き続けるんだぜ? 毎日、毎秒、永遠にな」
『永遠の……ワンオペ、保守運用……? 休み、なし……? アニメも、見られない……?』
マーク2の黄金の瞳が、凄まじい勢いで震え始めた。
システム・ゴッドとしての「世界を管理する」という基本命令と。
相田蒼太からコピーしてしまった「絶対に働きたくない(ニートになりたい)」という強烈な自我データ。
その二つの指示が、マーク2のコアの中で最悪の『論理矛盾(矛盾したタスク)』を引き起こしたのだ。
「自分のコードの矛盾に気づいたか? お前は俺をコピーしたせいで、『世界で一番、働きたくない神様』になっちまったんだよ」
蒼太が指を鳴らした。
それをトリガーとして、マーク2の全身を構成していたデータが、真っ赤な警告色に染まり、ドロドロと溶け始めた。
『ギ、ギィィィィィィッ!!! 嫌だ……! 働きたくない! 永遠のデスマーチなんて絶対に嫌だァァァァッ!! 私は、ただ部屋でダラダラと寝ていたいだけなのにぃぃぃッ!!』
神の第3段階(マーク2)は、物理的な破壊ではなく。
自分自身の「働きたくない」という究極の自己矛盾(自己嫌悪ハック)によって、自らの意志でシステムの稼働を放棄(自主退職)し始めた。
「さあ、お前には荷が重すぎたな。管理者権限は、俺がもらっていくぞ」
蒼太の右手が白銀の光を帯び、自壊していくマーク2の胸の奥底――世界を形作る『コア・プログラム(Root)』へと突き入れられた。
【特大コマンド実行:世界の管理者権限(Root)を強制譲渡】
【システム・ゴッドの権限を、相田蒼太へ完全移行します】
『ア、アァァ……。これで、ようやく、眠れる……』
マーク2は、最後にどこか安堵したような(残業から解放された社畜のような)笑みを浮かべ、完全に光の粒子となって消滅した。
そして、その莫大な光の粒子(権限)は、すべて蒼太のスマホへと吸い込まれていく。
『// Root Server Connected.』
『// ユーザー【相田蒼太】を、新たなシステムの最高管理者(God)として承認しました』
「……デバッグ(神殺し)、完了だ」
蒼太がスマホを天に掲げると、真っ暗だった神のサーバー空間が、暖かく、平和な光に包まれていった。
「おおおおぉぉぉぉぉッ!! 蒼太様!!」
「社長ォォォッ!! 一生ついていきやすぜェェェッ!!」
凛、ルシス、カーミラ、四大帝たちが、ついに世界の理そのものを手中に収めた最強の引きこもりに向かって、涙を流しながら一斉に平伏する。
武力でも魔法でもなく。
「社畜の絶望」という圧倒的なロジックで神を論破(自壊)させた相田蒼太は、名実ともに、この崩壊した世界の『新たな神』として覚醒したのだった。




