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第91話 理不尽な暴力

「うわぁ! またですか?」


 何がまたなのか分からないが、左肩は荷物だから無視する。

 闘技場の真ん中に立ち止まって、身体を岩で大至急包み込んでいく。

 一瞬で岩壁や岩杭は作れるが、一瞬で壊されるだけだ。

 いざという時は脱皮作戦もあるから、上に逃げた方が安心だ。


 ダッ、ダッ、ダッ……


「グオオォ!」

「流石に待ってくれないか」


 変身途中だが、キメラが走ってきた。

 悪いが、もう上空に飛んで逃げられる大きさだ。

 女剣士にでも遊んでもらえばいい。


「……ここまで来れば大丈夫だな」


 急いで上空に避難して、上を見上げて睨んでいる四匹のキメラを見下ろした。

 悔しかったら、背中の翼で追ってくればいいのに、それはしないようだ。

 変身完了までの時間は僅か十二秒だったが、戦闘では致命的な遅さだ。

 

 ズパァン——


「グゥギャー‼︎」

「ちょっと何やってるの! 走れって言ったでしょう!」


 剣の一振りで、キメラは顔面を細切れにされて倒されていく。

 地上で護衛のブチ切れ女剣士が奮闘しているけど、十二匹のキメラに囲まれている。

 どう見ても走っていたら、頭と両手足を四匹ぐらいに噛まれて、引き千切られて死んでいる。


 それとも、私が大声で敵を引きつけている間に、階段に走れと伝えているのだろうか。

 それも多分違うだろう。どう見てもピンチにしか見えない。


「あれは駄目だな。少し暴れるけど、舌を噛むなよ」

「ちょっと動けないんですけど! 何なんですか、これ⁉︎」


 左肩の荷物が苦情を言っているけど、リエラを助けないと先に進むのは無理だ。

 ゴーレムLV4の中は丸い岩が大量に詰まっている。生身の子供だと大変危険だ。

 だから、メルの身体は目、耳、口に丸い岩が入らない程度の穴を開けて、その他は岩で包み込んでいる。

 指先一つ動かせない状態だが、安全の為に我慢してもらう。

 

 ドガガガガッ——


「グゥガァァ‼︎」


 両手を地上のキメラ達に向けると、小さな岩杭の弾丸の雨を大量発射していく。

 地上から、頭や背中を撃たれたキメラ達の怒り声が聞こえてくる。


 岩杭は突き刺さらないが、引っ掻き傷ぐらいのダメージは与えられているようだ。

 堪らずに逃げ出すキメラや、翼を広げて飛んでくるキメラがいる。


「よし、うまく食いついたな」


 とりあえず、あとは空中戦で翼を大剣でへし折れば上出来だろう……


「なっ⁉︎ 何で戦っているんだよ!」


 と思っていたのに、リエラが階段に逃げずに戦っている。

 せっかく俺がキメラを五匹も空中に誘い出したのに、攻撃チャンスだと思っている。


「グオオォ!」

「くっ! あいつ、絶対に馬鹿だ!」


 キメラ達の攻撃を必死に避けながら、大剣を振り回す。

 尻尾の毒針は毒が効かないゾンビの身体でも、刺されば穴ぐらいは空く。

 特にメルは毒と穴の両方が効くから、絶対に当たったらマズイ。

 宝箱探知器が壊れると、この先が楽に進めなくなる。


「ちょ、ちょっと! グルグル回って気持ち悪いです!」

「チッ! 食べ過ぎなんだよ。階段に投げ込むから、まだ吐くんじゃないぞ!」


 空中をジグザグに高速で飛んでいると、また荷物が苦情を言ってきた。

 だけど、今回は緊急事態だ。

 四十階の階段を守るキメラが二匹いるけど、そこは何とかするしかない。

 俺は自分の臭いは気にならないが、他人の臭いは凄く気になるタイプだ。


 右手で剣を振り回し、左手で階段を塞ぐキメラに地味な岩杭を発射する。

 二匹は苦痛に声を上げて耐えていたが、すぐに翼を広げて飛んできた。


「グオオォ!」


 逃げずに向かってきたのは予想外だが、階段口が開いているなら問題ない。

 剣を握っている右腕を五十センチ程太くすると、荷物と一緒に移動した。


「頼むから見逃してくれよ……」


 俺なら飛んでくる大剣付きの右腕は叩き落とさない。

 祈るようにキメラ達の間に見える階段口に向かって、右腕を本体から離して発射した。


 ドォン——


「グオオォ!」

「よし!」


 予想通りに串刺しにならないように、素早くキメラ二匹は回避した。

 しかも、空中にいる他のキメラ達と一緒に、落下を開始した無人のゴーレムに向かっている。

 好きなだけ噛んで壊せばいい。


「ぐっ、くっ……!」


 スポッと階段に飛び込んだ右腕が、階段の角に削られながら滑り落ちていく。

 一番下まで滑り落ちて、二人で四十階の闘技場に挑戦するつもりはないので、岩を分解して脱出した。


「うぅ、痛たたたぁ……死ぬかと思いました」

「それは俺の台詞だ。まったく、何が真ん中まで行ったら襲ってくるだ」


 全身を包んでいた岩から解放してやると、メルは頭を押させて苦しんでいる。

 リエラの言う事を信じるなんて、俺が馬鹿だった。

 ほぼ階段から出た瞬間に襲ってきた。闘技場の真ん中まで行くと囲まれていた。


「さてと、お前はここで待機していろ。もう一人連れてくる」


 文句はこの辺にしてメルに言うと、階段を駆け上がった。

 四十階もそうだが、帰り道もある。リエラの力がまだまだ必要だ。

 キメラと次のモンスターに挟まれた階段の中で、死ぬまで暮らすつもりはない。


「んっ? あれは……」


 見上げていた階段口から、白い何かが勢いよく飛び込んできた。


「ハァ、ハァ……私じゃなかったら死んでたからね!」

「お、おぉ……」


 よく見なくても、怒っている声で誰だか分かった。

 ゆっくりと階段を上って確認すると、左右の剣にキメラの皮を突き刺した、リエラが立っていた。

 俺の為に剣の強化素材を拾ってくれたようだ。


「無事で良かった。今助けに行こうとしてたんだよ。よく俺達が階段に入ったって分かったな?」

「前も行ったでしょ。あんたの動きは探知で分かるんだから」

「あぁ、そうだったな。皮まで手に入れたのか! 凄いなぁー、メルも心配している。さあ、行こう」


 話してみたけど、特に問題なさそうだ。

 リエラの左右の剣からキメラの皮五枚を引き抜くと、俺の剣に吸収させた。

 残りの強化素材は、暗黒物質三個と神金剛石二個になる。

 流石にキメラを倒して、二個取ってきて欲しいとは言えない。


「それだけかぁー!」

「ぐはぁ‼︎ おふっ、ぐふっ……!」


 ドガッ! 階段を下りようとしたら、背中に衝撃が走った。

 どうやら、殴り落とされたか、蹴り落とされたようだ。

 ゴロゴロと階段を転げ落ちていく。


 ダッ、ダッ、ダッ——


「この腰抜けの役立たずがぁ!」

「うぐっ!」


 ドフッ! ようやく止まったので、立ち上がろうとすると、階段じゃないのに思いっきり踏まれた。

 踏まれた腹を中心に、身体がくの字に飛び跳ねた。

 おそらく怒っている原因は、ゴーレムLV4になったからだろう。


「まったく使えないわね! このゴミは!」

「ぐはぁ!」


 ドガッとまた蹴られて階段を転げ落ちていく。

 何がしたいのかは分かるが、仲間にやっていい仕打ちじゃない。

 俺にだけは言われたくないと思うけど、ここは我慢してほしい。


「次に私を置いて逃げ出したら、手足へし折って、モンスターの餌にするから覚悟しなさい!」

「うぐっ!」


 ドフッ! 転がっている俺を腹をまた思いっきり踏んで、ようやく気が済んだようだ。

 リエラは怒りながら階段を下りていった。


「うぐっ、なんて理不尽な暴力なんだ」


 痛くはないけど、骨ぐらいは折れる。それに俺は最初から無理だと言っていた。

 いい加減な情報を教えて、俺とメルを危険にさらしたのが自分だって、あの女は理解しろ。


「あの女……覚えていろよ」


 立ち上がると身体の怪我を確認した。

 痛くないから分からないけど、骨が飛び出してないから問題ないだろう。

 リエラを追って階段を下りていった。

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