第8話 ビッグモスキート
「まずはその武器を強化する方法を教える」
「はい、先生。よろしくお願いします」
家に帰ると早速授業を始めた。
まずは一番興味がありそうな武器の話をする事にした。
部屋に一つしかない椅子に座って、メルが真面目な顔で聞いている。
その手には白い鞘に入った銅の短剣が握られている。
神銅で作った武器は『神器』と呼ばれ、ダンジョンで取れる素材で強化する事が出来る。
必要な素材はアビリティ『調べる』で、ブロンズダガーを調べれば分かる。
調べるのLVが低いと必要な素材は分からないが、神器図鑑という便利な本がある。
未完成な本だが、ある程度までは、図鑑に書かれている素材を集めれば強化できる。
「ブロンズダガーを強化するには、神銅が五個必要だ」
「残り四個なら今日と同じですね。頑張って集めます」
「頑張るよりも運次第だ。神銅は1~4階の赤い宝箱からしか取れない」
「そうなんですね」
「だから、まずは職業と短剣LV1を習得するのが先だ」
「はい、頑張ります!」
いつも返事は良いが、実際に頭に入っているのか分からない。
とりあえず、教えた事の一つでも覚えていれば良い方だろう。
「仕事を頑張るのもいいが、お前はまだ子供だ。週末二日を休みにするから、友達でも作って好きに遊べ。俺も休みたいし、仕事だけの人生なんてつまらないぞ」
それらしい理由でメルに休みを与えた。一日も休まずに子守りは疲れる。
それに週末二日は一人でダンジョンに行って、生活費を稼ぎたい。
そろそろ貯金が残り少なくなってきた。
「分かりました。隊長は何をするんですか?」
「俺の事はどうでもいい。部屋で寝ててもいいし、町を散歩するだけでもいい。とにかく好きにしろ」
メルが聞いてきたが、俺が言った事をやりそうだから適当に答えた。俺の分身を作るつもりはない。
それに最近まで部屋で修業していたから、話せるような楽しい事はしていない。
「うーん、好きにですね……分かりました! やってみます!」
「好きにしてもいいが、犯罪と悪い人間と付き合うのは駄目だ。殴り合いの喧嘩ぐらいはしてもいいが、刺すのは駄目だ。ついでに負けるのも駄目だ。負けそうなら逃げろ」
「はい、ボコボコに出来るように頑張ります!」
悩んでいたから、やってはいけない事だけは注意しておいた。
言わないと短剣で人を刺したり、町の物を盗みそうだ。
やる気はいくらあってもいいが、殺る気は駄目だ。
「ああ、それでいい。今日の授業は終わりだ。さっさと風呂に入って寝ろ」
「はい、行ってきまぁーす」
久し振りのダンジョンで疲れてしまった。数分間で授業は終わらせた。
メルは授業が終わると、すぐにタオルと姉貴の昔の服を持って、一階の風呂場に向かった。
俺はベッドに入って寝るとしよう。
♢
地下一階……
「他の冒険者が通った後だと、スライムはいないからな」
「それだと、お金になりませんね」
ダンジョン二日目、予定通りに地下二階を目指す事にした。
出現するモンスターは、『ビッグモスキート』と呼ばれる巨大な蚊に変わる。
大きさは五十センチ程で、単体から集団で飛んできて、口にある針を獲物に刺して血を吸い取る。
身体は頑丈じゃないが、スライムと違って、素早くて好戦的だ。
針で目を刺されないように気をつけないといけない。
「大丈夫です! 隊長が貸してくれた、これがあります!」
「んっ?」
メルが左手に持った木製の丸盾を嬉しそうに見せてきた。
全身鉄鎧でも着せれば安心だが、そんな重たい物を着た状態だと動けない。
「それは目を守る為の最低限の防具だ。針で刺される前に逃げろ。それだけで出血死は阻止できる」
「うっ……やってみます」
「安心しろ。俺が倒すから、お前は見て勉強すればいい。倒せそうだと思ったら交代しろ」
「はい、そうします」
メルが出血死という言葉に不安そうな顔になったが、役に立つ前に死なれたら困る。
巨大蚊を倒すのが無理なら、スライムでもう少し鍛えるだけだ。
「ここが地下二階の階段だ。さあ、下りるぞ」
「はい」
行き止まりの横壁に白い石で縁取られた、綺麗な四角い穴が空いている。
四人ぐらいなら横に並んで下りる事が出来るが、人が多い時間帯は上る時も下りる時も苦労する。
「踏んだり、ぶつからないように気をつけろよ」
「はぁーい」
白い階段を下りながら、メルに注意した。
階段の中にはモンスターは絶対に入れないので、疲れた冒険者が寝ている事がある。
踏み起こさないように注意しないといけない。
地下二階……
「ビッグモスキートはブーンと嫌な音を出して飛ぶから、音がしたら警戒するんだぞ」
「ブーンですね。はい、気をつけます」
行き止まりの横壁から、地下二階の炭鉱洞窟に出た。
地形は地下一階と同じだが、危険度は少し高くなっている。
「よし、じゃあ宝箱を探すぞ」
「はい!」
今日は俺が先頭でダンジョンを進んでいく。目標は神銅四個の入手だ。
宝箱は開けて中身を取ると、数分後にボロボロに壊れて消えてしまう。
自分が持っている物を宝箱の中身と交換しても、宝箱は壊れて消えてしまう。
宝箱を見つけたら、取るしか選択肢はない。
「……来たぞ。気を付けろ」
「は、はい……」
前方からブーンと嫌な音が聞こえてきた。
目視でも四枚の羽を広げた、灰色と黒色の大きな虫が飛んでくるのが見える。
右手を前方に向けて、手の平に魔力を集めると、手の平大の茶色い岩の塊を発射した。
岩の弾丸が矢のように飛んでいく。
「‼︎」
グジャ‼︎ 巨大蚊の胴体に弾丸が直撃して、その身体をくの字に曲げて地面に叩き落とした。
たまに家の庭で練習していたから、命中力は落ちてないようだ。
「わぁー、隊長! 今のは魔法ですか⁉︎」
茶色い瞳をキラキラ輝かせて、メルが興奮した感じで聞いてきた。
狙い通りに魔法に興味を持ったようだ。
「ああ、俺の職業は魔法使いだからな。属性は『地』だ」
魔法の属性は炎、水、地、風、氷と色々あるが、使える属性は一つだけだ。
才能がある者でも二つぐらいしか使えない。
「凄いです! 私も頑張れば使えますか?」
「可能性はあるな。魔法使いの職業を習得できれば、すぐに使えるようになる」
「隊長と同じですね。私、頑張って魔法使いになります!」
「別に魔法使いじゃなくてもいい。剣士だと剣術や身体能力が上がりやすくなる」
「うーん、悩みますね」
メルはすぐに俺の真似をしようとするから、他の職業の長所も教えておいた。
魔法使いになってくれれば即戦力になるが、なりたい職業になれるなら誰も苦労しない。




