第64話 地下二十八階緑小竜
「剣術LV5、筋力LV5、水魔法LV4、斬撃3、火耐性LV2か……」
三人の両手足を岩塊で拘束すると、いつもの持ち物検査を始めた。
まずは俺の左腕を切断した魔法剣士のアビリティを確認した。
冒険者ガードにはCランクと記載されている。道理で強いと思った。
『斬撃』というアビリティは、両手の赤い革手袋のアビリティのようだ。
これを装備すれば、剣や水魔法の切れ味が上がるのかもしれない。
戦利品として貰っておいて、服もサイズが合いそうだから貰っておこう。
「金と魔石と、これは……レッドゴーレムの素材か。三十階の帰り道みたいだな」
鞄の中に紅蓮石がないか探していく。
地下三十階のレッドゴーレムの魔導核が入っていた。
魔導核は魔導具を動かすのに必要な素材だ。
主に照明や湯沸かし器に使われている。
「チッ、これだけかよ。Cランクでもハズレだな」
大怪我して倒したのに紅蓮石は見つからなかった。
鞄の中には魔石と素材がビッシリ入っている。
こんな所まで戦闘訓練に来ていたのかもしれない。
速攻で倒した雑魚二人はDランクだった。
「ちくしょう。この怪我が治るまでは、戦闘は避けるしかないな」
予想外の事態に、予定を急遽変更しないといけなくない。
だけど、治るか分からない怪我が治るのを、ジッと待つつもりはない。
だとしたら、目指す場所は地下三十階の『溶岩洞窟』しかない。
行った事はないけど、砂漠よりも更に暑いそうだ。
そんな場所なら長時間の探索は誰もしたくない。
だから、紅蓮石が入った赤い宝箱を見逃している可能性が高い。
ここで紅蓮石を探しながら、治るのを待って、ついでに戦闘訓練もする。
姉貴の手帳通りなら、レッドゴーレムは頑丈なだけで移動速度は速くない。
今は戦力外通告されている、地面からの岩杭攻撃を強化するには、持って来いの練習台だ。
「さてと、最短距離で進んでやる」
姉貴の手帳を見て、二十八階の階段がある場所を確認した。
初めての場所でも、俺は道に迷ったりしない。
このガイドブック代わりの手帳があれば、何の心配もない。
♢
二十八階……
「確か素早いんだったよな」
主に上空を警戒して古代林を進んでいく。
トレントは足が速かったのに、何も情報が書かれていなかった。
素早い動きとわざわざ書かれている緑小竜は、相当に速いはずだ。
遭遇した場合の対処法は、尖った岩塊の連続発射と岩壁の篭城と決めている。
右手に剣を持って、流星拳で飛び回って、空中戦をやるつもりは一切ない。
今は身体の負担になる事はしたくない。
バサッ、バサッ……
「あぁー、絶対にいる。絶対に何かいるよ」
上空から微かな羽ばたきが聞こえる。森には虫や蝶、鳥は一匹もいない。
存在する生物は人間とモンスターの二種類だけだ。
嫌な予感がしながら上空を警戒していると、二匹の緑色の塊を見つけた。
もちろん逃げらないので篭城する。自分の周囲に分厚い岩壁を作っていく。
厚さ二メートルはある岩の城が完成した。最後の仕上げに、壁と天井に小さな覗き穴を作った。
「素通りしてくれればいいけど……くっ! これは無理だな」
「キュイ!」
バシィン‼︎ 覗き穴から警戒していると、甲高い鳥の鳴き声と一緒に、城の壁が激しく叩かれた。
見逃すつもりはないらしい。だったら、ジェノサイドトラップを発動させてもらうしかない。
覗き穴から二匹の緑小龍の姿を確認して、ちょうどいいタイミング見計らう。
覗き穴の上空には、ワニと鳥が合わさったような、宝石のように輝く薄緑色の鱗のモンスターがいる。
前足の上の背中に大きな翼が見える。おそらく武器は槍のように硬そうな尻尾の先端だろう。
城の周りを飛び回りながら、岩壁に突き刺してくる。
「サソリよりはハチだな。獲物が死ぬまで何度も針で刺してくるタイプだ」
とりあえず緑小龍の動きと、地上には降りて来ないという事が分かった。
地上に降りないなら、ジェノサイドトラップの効果はいまいちだ。
それに無数の岩杭で鱗を貫通できるかも怪しい。
どうせ撃つなら、最大威力のものを撃って当てたい。
「ただ撃つだけじゃ駄目だな。工夫が必要なのかもしれない」
魔法剣士は水円板を高速回転させて発射していた。
あれでノコギリの刃のように、切り刻む事が出来るのだろう。
俺も岩塊を尖らせたりして工夫はしているが、基本は最大速度で発射しているだけだ。
「キュイ! キュイ!」
「数ではなく、一撃の威力……それでいて絶対に避けられない速さ……」
ビシバシと城が攻撃されている最中だが、この状況をどうにかするには考えるしかない。
壁越しに岩塊でも岩杭でも発射して、追い払う事は出来るかもしれないが、所詮は一時しのぎだ。
根本的な解決にはならない。対飛行用の究極の遠距離攻撃が今こそ必要だ。
五分後……
「フフッ。これなら絶対に避けられない」
ピンチはチャンスだ。危機的状況が男をより強くする。
苦労の末に新技『ジェノサイドトラップ・リリース』が完成した。
まずはジェノサイドトラップで、地面に上向きにした小型の岩杭を大量に突き出す。
ここまでは今までと変わらない。
だが、ここからトラップを解放する。
解放された岩杭全てが上空に発射され、逃げ場は何処にも存在しなくなる。
大量の岩杭に緑小龍は身体を貫かれて、俺がいる地面に墜落するわけだ。
「さて、竜狩りを始めようか」
随分と待たせたが、今度は俺の攻撃ターンだ。
だが、安心しろ。一ターンで楽に終わらせてやる。
地面に流した魔力を、針山をイメージするように瞬間的に爆発させた。
ドバァン——
「キュイ‼︎」
地面から飛び出した無数の岩杭に、緑小龍は少し驚いたのか、攻撃をやめて空中で静止している。
「チッ、意外とかかるな!」
絶好のチャンスだが、地面に発射するのに必要な魔力を溜めるのに、時間がかかるようだ。
地面全体を空に発射するイメージで魔力を流していく。地面の岩杭がグラグラと小刻みに揺れ始めた。
もう十分だ。発射のカウントダウンは省略して、素早く発射した。
ヒューン、ドガガガガガッッ——
「キュイー‼︎」
「終わりの始まりだ」
上空に約一万二千発以上の、直径二十センチの岩杭が発射された。
これだけ撃って、緑小龍に当たっているのは二十発ぐらいだろうか。
自分で狙って撃った方が遥かにマシだが、問題ない。
「よし、落ちてくるぞ」
緑小竜が落下した時としなかった時の為に、二発目のジェノサイドトラップの準備は始めていた。
俺も死ぬまで何度でも突き刺させてもらう。




