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第61話 間話:メル

 地下十階……


「右方向、上! 構えて!」

「はい!」


 お姉ちゃんの指示で木の上に向かって、急いで弓矢を構えた。

 すぐに棍棒を口に咥えた赤毛猿が、上空の枝から枝に飛び移ってやって来た。

 狙いをつけて、木の矢を発射した。


「エイッ」

「キィー‼︎」


 ドスッ! 赤毛猿の胸の中心に矢が命中すると、胸に拳大の穴が空いた猿が落ちてきた。

 当たっても矢が貫通するから、後ろに人がいないか注意しないといけない。


「さあ、さっさと行きましょう」

「はぁーい」


 黒い魔石を拾うと、お姉ちゃんは階段を目指して進んでいく。

 お姉ちゃんが家に来てから二週間以上になるけど、目標の地下十階は五日で達成してしまった。

 今はお姉ちゃんに訓練されて、『モンスター探知』の習得を目指している。


「お姉ちゃん、今日は二十階まで行きませんか?」

「ダメダメ。あそこは人が多いから矢が当たるでしょう」

「射たなきゃ当たらないので大丈夫です!」


 歩きながら、お姉ちゃんにお願いする。いつも砂漠までしか行かせてくれない。

 今の私なら、ゾンビぐらいは一人で倒す自信がある。


「射たなきゃ死ぬから、大丈夫じゃないでしょ。変な事言ってないで、私よりも早くモンスターを見つけなさい」

「むぅー!」


 やっぱりいつもと同じで反対されてしまった。

 おじ様とおば様は、お姉ちゃんが一緒ならと、一階以上にも行かせてくれている。

 あんまり我儘を言っていると、お姉ちゃんはすぐに付いて来なくなるから、これ以上はやめておく。


 一緒に暮らして分かったけど、お姉ちゃんは隊長以上に面倒くさい性格をしている。

 ご飯は一切作らないし、洗濯はおば様に任せている。ダンジョンに行くのはお昼過ぎ。

 最近は「もう私に教えられる事はない」とか言って、朝の稽古もしてくれない。

 私よりも買い物や食べ歩きの方に夢中だ。


「お姉ちゃん、もしかして町に住むんですか?」

「んっ? 住まないけど、一緒に住みたいの? だったら私の街に連れて行くよ」

「えっ?」


 早く町から出て行ってほしいから聞いたのに、何故か私が出て行く流れになっている。

 大きいお姉ちゃんの世話はもうしたくない。

 ベッドの上で物を食べるし、夜中に酔っ払って帰ってきて、抱き着いてくる。


「街は良いよぉー。A級ダンジョンなら、地下一階でも魔石一個1500ギル。一日二匹倒せば楽々暮らせるよ」

「へぇー、そうなんですか。そんなに素敵な街にまだ帰らないんですか?」

「まだいいかな? お金はあるし、私も若いから、たまには地元の友達と遊びたくなるんだよ」

「へぇー……」


 話を聞いていくと、まだ家に居座る事が分かってしまった。

 それに黒髪のカツラを被って正体を隠しているみたいけど、友達と普通に会って遊んでいる。

 全然隠すつもりがない。もうそれはただ髪型を変えただけだ。


 タッ、タッ、タッ……


「はぁ……んっ?」


 隊長以上に適当なお姉ちゃんにため息をついていると、足音が聞こえてきた。

 お姉ちゃんは何も言わないから、私の方が先に気づいたみたいだ。


「こらこら、メルちゃん。何やってるの。人殺しはダメだよ」

「えっ?」


 私が足音の方向に弓矢を構えると、注意されてしまった。

 モンスターじゃなくて、人間だったみたいだ。危ない危ない。


「ハァ、ハァ……」


 念の為に弓矢を構えて待っていると、森の中を一生懸命に走る若い男の人が見えた。

 赤毛猿の大群には追いかけられていないみたいだ。

 お腹でも壊して、トイレに走っているのだろうか。


「なんかあったみたいだね。ちょっと聞いてくるから、メルちゃんも遅れずに付いて来て」

「は、はい!」


 私の返事は聞かずにもう走っている。食って寝ているだけなのに、やっぱり私の何倍も速い。

 見失うと見つけるのが大変なので、頑張って追いかける。

 そして、二分ぐらい走っていると、男の人と話しているお姉ちゃんに追いついた。


「ハァ、ハァ……それで、ハァ、ハァ……行方不明になっていた……」

「無理しなくていいから、ゆっくり喋っていいよ。はい、水だよ」

「す、すみません……ぐぼぉ、ごぼぉ!」


 男の人は大汗をかいていて、凄く息が荒い。

 そんな男の人にお姉ちゃんは優しい言葉を言って水筒を出した。

 でも、水筒を受け取ろうした男の人を無視して、水筒を持ち上げると、水筒の水を頭にかけている。

 よく分からないけど、あれが正解みたいだ。


「どう? 落ち着いた?」

「は、はい……」

「それで行方不明がどうしたの?」


 お姉ちゃんに聞かれて、冷静というよりも、信じられないといった顔になっている男の人が話していく。

 何でも、一ヶ月前に行方不明になった冒険者がゾンビになって見つかったそうだ。

 それで足の速い冒険者が交代で、二十階から町まで休まずに、リレーで連絡を伝えているそうだ。


 死体が見つからない冒険者は行方不明扱いになる。

 だから、行方不明者自体はそんなに珍しい事じゃない。

 でも、男の人が冒険者カードを目の前にパッと見せてきた。


「これがその冒険者です」

「あっ! この人、ジェイさんです!」


 冒険者カードの顔写真の顔にはすごく見覚えがあった。

 指を指して知っていると主張した。


「えっ、キミの知り合いなの?」

「はい、ちょっとだけですけど……それよりも隊長、いえ、ジェイさんの他には誰も見つかってないんですか?」

「ほか? いや、聞いてないな。何か岩に閉じ込められて、張り紙をつけられていたそうだ。高LVの調べるなら、ゾンビか人間か分かるだろうから、ギルドに人を呼びに行っているんだよ」

「そうなんですか……」


 ちょっと隊長が生きていると思って期待してしまったけど、ジェイさん以外は分からないそうだ。

 だったら二十階に行って調べるしかない。


「お姉ちゃん、二十階に行きたいです! 隊長が生きているかもしれません!」

「うーん……分かった。じゃあ、メルちゃんは町に戻って。私が一人で見に行くから。そっちの方が早いでしょ」


 行きたいとお願いしたら、お姉ちゃんはちょっとだけ考えた後に、一人で行くと言ってきた。

 こんな緊急事態なんだから、連れていくのが普通だと思うのに信じられない。

 高そうな服にしがみ付いて、もう一度お願いした。


「えぇー、行きたいです! 遅れないように走るから連れて行ってください!」

「ダァーメ。連れて行かないって言っているでしょ。嫌なら私も一緒に町に戻るよ。それでもいいの?」


 こんなに一生懸命にお願いしているのに、ハッキリと駄目だと言われた。

 大切な弟が生きているかもしれないのに、本気で探すつもりがない。

 仕方ないので、服から手を離して言う事を聞くフリをした。


「うっ……分かりました。帰ります」

「うんうん、子供は素直が一番だよ。じゃあ、この子をお願いね」

「えっ、俺ですか!」

「うん、俺よ。水あげたんだから、それぐらいいいでしょ。じゃあ、お願いね!」


 お姉ちゃんはチョロそうな男の人に私を預けると、二十階を目指して走っていった。

 本当に二十階に行くのか怪しいけど、私が行くから問題ない。

 予定通りに男の人にしばらく付いて行った後に、すぐに道を引き返した。

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