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第53話 間話:ジャンヌ

 カナンとメルちゃんの部屋に入ると、変装用の長い黒髪のカツラを取った。

 メルちゃんはビックリした顔をしているけど、忘れられていた私の方がビックリだ。


「へぇー、やっぱり住む人が違うと部屋も変わるんだねぇー」


 臭くて散らかっていたカナンの部屋が可愛く綺麗になっている。

 清潔な良い匂いがして、ヌイグルミも置いてある女の子っぽい部屋に大変身だ。


「あの……お話があるんですけど」

「んっ?」


 私の記憶の中のカナンの部屋と違う点を探していると、メルちゃんが真剣な表情で言ってきた。

 私の事を忘れていたのはさっき謝っていたから、多分、カナンの事かな。


「なるほど、なるほど。つまりは冒険者を続けたいわけか……」

「はい」


 ベッドに座って話を聞いていくと、メルちゃんが冒険者を続けたいと言ってきた。

 母さんに会いに来ただけで、孤児院に連れて帰るつもりはまったくない。


 だけど、女の子一人に冒険者をやらせるのは危険だ。

 カナンに続いて、メルちゃんまで死んだら、母さんはショック死するかもしれない。

 だったら仕方ない。やる事は一つだけだ。


「うん、分かった。だったらお姉ちゃんが一流冒険者にしてあげる。どこのパーティでも欲しがるような凄い冒険者にしてあげるよ」

「本当ですか!」

「うんうん、お姉ちゃんに任せなさい! こう見えて冒険者よりも先生向きなんだから!」

「わぁー、やったぁー!」


 胸を張って私が訓練してあげると言うと、メルちゃんは大喜びしている。

 やっぱり小さな女の子は純粋で可愛い。側で見ているだけで、心の汚れが綺麗になっていくようだ。

 そんなに長期間は町には居られないけど、メルちゃんもカナンが死んでショックを受けている。

 これなら仕事を休む十分な理由になる。久し振りに可愛い女の子を一日中撫で撫でしよう。


 ♢


「まずは訓練の前に重要な話があります。前の先生が教えた事は全て忘れなさい。覚えるだけ無駄です」

「はい!」


 長い黒髪のカツラを被ると、良い天気の明るい庭で弓矢の訓練を開始した。

 昨日、メルちゃんの話を聞いて分かった事は、弟に人に物を教える才能が無かった事だけだ。

 仮に何かあるとしても、人に嫌われる才能ぐらいしかない。


「じゃあ、まずはこれを全部装備しましょう」


 盗賊の適性と戦闘スタイルから、運上昇、体温調節、弓術、視覚上昇、聴覚上昇の五つの装備を用意した。

 メルちゃんがパーティで行動する場合は、短剣で戦う前衛よりも、弓で戦う後衛の方が活躍しやすい。

 まずはこれで十階まで単独で挑戦してもらう。


「これって、アビリティが付いた装備ですか?」

「うん、正解。足りない力は足すしかないからね。これを全部装備すれば強くなれるよ」

「それって隊長と同じ——」

「メルちゃん、早く着けようか?」

「ひゃ、ひゃぁい」


 メルちゃんがカナンと一緒みたいな感じの無駄口をきこうとしたので、両方の頬っぺたを引っ張った。

 アイツは無駄な装備を着けさせていただけで、私は必要な物だけを装備させている。

 同じように見えても、効果は全然違う。


 左右の耳に視覚と聴覚のイヤリングを着けると、ちょっと大人っぽくなるけど、髪で隠せば問題ない。

 両手いっぱいに指輪を填めているけど、逆にメリケンサックみたいでカッコいい武器にも見える。

 明らかに女の子には似合わないけど、戦いに必要なのは可愛さよりも強さだ。


「う、うん、これで準備は終わり。あとは射つだけよ」

「私、全然下手ですよ」

「大丈夫! セット装備にしたから、前よりも確実に命中しやすくなったから!」

「うーん、分かりました。やってみます」


 妥協して可愛さを捨てさせたから、きっと的に当たるはずだ。

『運上昇、視覚上昇、弓術』の組み合わせで、矢の命中率は格段に上がっている。

 特定のアビリティを組み合わせれば、通常よりもアビリティの効果が高くなる。

 それがセット装備だ。


「うっ……」


 メルちゃんが家の壁に付いてある的を狙って、弓矢の弦を引っ張っていく。

 弱いFランクの弓矢を使っていたから、強いBランクの弓矢に買い替えてあげた。

 いつもより引っ張る力がちょっと必要だけど、問題なく引けているようだ。

 さあ、あとは放つだけ。


「エイッ!」

「おお!」


 弓矢から放たれた矢がヒューンと的に向かって飛んでいく。

 ちょっと狙いが左上にズレているけど、これなら絶対に当たる。


 ドバァン、ガシャン、ガシャン——


「ぎゃああああ‼︎ 誰⁉︎ 誰なの⁉︎」

「あっ……」


 予想通りに木の矢は的に命中したが、的と家の壁にハンマーで叩かれたような拳大の穴が空いている。

 家の中の物が壊れる音と母さんの悲鳴が聞こえるけど、メルちゃんがやった事だから許してくれるはずだ。


「メルちゃん、早く謝りに行った方がいいよ」

「えぇー‼︎ 私じゃないです!」

「ほら、お姉ちゃんも一緒に謝ってあげるから行くよ」

「違うよ……私、お姉ちゃんにやれって言われて……」


 こういう時は素直に謝るべきなのに、メルちゃんは何故か私の所為にする。

 カナンもよく人の所為にしていたから、きっと悪い癖が移ってしまったのだろう。

 仕方ないから、言い訳をしようとするメルちゃんを、母さんの所に引っ張って連れていった。

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