第51話 間話:負傷冒険者
「イテテテ……完璧に頭イカれてやがる」
目の部分だけが開いている、鼻や口がしっかり作られた仮面を着けた奴に襲われた。
全身打撲と複数の骨折で身体が痛い。今の状態だと歩くのも無理だ。
「たまに居るんだよ。何年冒険者をやっても芽が出ないやつがおかしくなる事がよ」
「馬鹿な奴だよな。動けるやつが町に連絡に行ったから、一つしかない出入り口は封鎖されるのによ」
馬鹿なのは意味不明な行動を見れば分かる。
仮面の男は太陽石七個を要求してきて、渡したら、今度は命水晶と竜水銀を七個渡せと言ってきた。
流石に七個あったのは竜水銀だけだった。命水晶は二個しかなかった。
「くそ、あの野朗! 絶対に盗んだ装備で強くなるつもりだぞ!」
「まずは両腕を斬り落とそう。そうすれば指輪の効果はなくなる!」
「いや、目を潰そう! 見えなければ攻撃しようがない!」
俺も同じ気持ちだ。手も目も足でも何でもいい。
やられた分はキッチリ返さないと怒りが収まらない。
苦労して宝箱から手に入れた装備を簡単に渡すつもりはない。
「待て。やめておけ」
「何言ってんだよ! 俺達から装備を奪ったアイツを見逃すつもりか!」
「そうだ! 今度は油断も手加減もしねぇ! 最初から最後まで全力でブチ殺してやる!」
「手も足も出ずに負けたばかりだろう。少しは冷静になれ」
負傷もしてない腰抜け共が反対しているが、岩に閉じ込められた仲間も救出された。
奪われたのは装飾品と冒険者カードだけだ。武器と鞄は部屋の隅に置かれていた。
武器を手に取って、アイツを追いかけて、四十人以上で襲撃すればブチ殺せる。
「死にたいなら好きにしろ。アイツが持っていた剣を見てないのか?」
「剣? 剣なら冒険者なら誰でも持っている」
「あの黒い剣は『ゴーレムブレイカー』だ。カナンが自慢していた剣と言えば分かるだろう?」
「つまりはCランク冒険者か……」
これこら一致団結して突撃しようとしていたのに、腰抜けがやる気を削ぐ事を言ってくる。
確かゴーレムブレイカーは、三十階以上のモンスター素材で強化されたCランク武器だ。
俺達はDランク武器だか、武器の性能差なんて人数で圧倒すればどうとでもなる。
「くそ、腰抜け共め! うぐっ、身体が動けば俺が戦うのに!」
何とか起き上がろうとするが、ハンマーみたいな右手で打ち抜かれた腹が悲鳴を上げている。
至近距離で特大の矢でも撃たれたように、まったく反応できなかった。
「そういえば、アイツ……カナンに似てなかったか? 地魔法を使っていただろう」
「確かに背格好は似ていたな。冒険者を襲って装備を盗むなんて、いかにもアイツがやりそうな事だ」
俺が起き上がろうと奮闘していると、何故か話が脱線して、剣の話から犯人探しに変わっていた。
「でも、カナンはあんなに強くないぞ。そもそも魔力量が化け物だ。絶対にカナンじゃない」
「いや、Aクラスのジャンヌの弟だ。本当は生きてて、一ヶ月間でCランクに成長したのかもしれない」
「その話には無理があるって。わざわざ死んだフリをする意味が分からん」
武器が同じで地魔法が使えても、アイツがカナンじゃないのは誰でも分かる。
あの仮面の男の実力は間違いなく、Cランク上位だ。流石にいい加減にしろと怒鳴った。
「そんな話、どうでもいいだろう! アイツを追わないのかよ!」
犯人がカナンじゃないのは明白だ。
いつまでも女みたいにペチャクチャ喋っている暇があるなら、男らしい戦いに行け。
「おっと、そうだったな。でも、水中遺跡は足場が狭いんだよな。水の中で溺れさせるか?」
「集団でやるなら、二十三階の荒野の方が広くて良い。でも、行くのが面倒だな。それに見失ったら意味がない」
「だったら水中遺跡でやるしかねぇだろ! 話なんていいから、さっさと行けよ!」
戦いやすい場所まで仮面の男を付けられるわけがない。
途中で気づかれて反撃されるだけだ。そんな事も分からない馬鹿達を怒鳴りつける。
だけど、今度は俺を無視して話を続けている。
「確かに急いだ方がいいが、確実に倒すなら、二十一階の冒険者と協力して挟み撃ちにした方が良いだろうな」
「だったら足の速いやつが先回りして、階段で休んでいる冒険者と、連絡を取ればいいんじゃないのか?」
「よし、それで行こう。アイツなら途中で遭遇した冒険者を襲うから、俺達の方が早く階段に到着できる」
「……」
ヤバイな。凄く良い作戦だと思う。コイツら頭良いんだな。
無駄な話し合いだと思っていたが、俺の方が無駄に怒っていただけみたいだ。
これ以上余計な事を言っても、恥をかくだけだ。
お口にチャックして、静かに勇者達の出陣をお見送りした。




