第37話 地下十八階砂ザメ
薄茶色の砂の中に、毒針の付いた赤い尻尾が見えたら要注意だ。
そこに体長一メートル越えの『毒サソリ』が潜んでいる。
「おっさん、あそこにいる。俺が失敗した時は娘は自分で守れよ」
「分かった。援護は任せろ」
ジェイが赤い尻尾が見えている地面を弓矢で狙っている。
砂漠の地面は走りにくい。逃げても追いつかれるだけなので、倒した方が良い。
足の速さと体力に自信があるやつだけが、逃げるという手段が選べる。
俺とメルには逃げる事さえ許されない。
ヒューン——
「ギィ‼︎」
狩人の手から離れた三本の木の矢が、真っ直ぐに砂の中の毒サソリの頭に突き刺さった。
砂の中から飛び出した毒サソリは、ジタバタと苦しんだ後に動かなくなった。
十五階の森林地帯の木の枝を、剣で削っただけの矢なのに、俺の剣よりも威力がある。
「悪いな、おっさん。出番はなくなった」
「どうやら、そのようだ」
俺をちょっと小馬鹿にした感じに笑うと、ジェイは魔石と木の矢の回収に向かった。
剣術や弓術のLVが高い冒険者は、剣や木の矢の威力を上げる事が出来る。
普通の木の矢でも、鉄の矢ぐらいの強度に出来るそうだ。
俺の剣と地魔法の威力が低いのも、剣術LV2、地魔法LV3だからだ。
俺は二年前に冒険者になったばかりだから、あと半年もあればどちらもLV4ぐらいにはなる。
ジェイが冒険者何年目か知らないが、今だけは優越感に浸らせてやろう。
♢
「あぁー、涼しいです」
「こら、品がないぞ。休むなら座れ」
「はぁーい……」
十八階行きの階段に入ると、メルがすぐに冷たい階段に寝転んだ。
いつも夜にやっている事だが、今は見っともなくて恥ずかしいだけだ。
キチンと注意して、階段に座らせた。
「子供なんだから、それぐらい許してやれよ。疲れてるんだよ」
「大人がやったら恥ずかしい事は、子供がやっても恥ずかしい事だ。俺は子供扱いしてないだけだ」
ジェイが甘やかそうとするが、他人に俺の子育て方法に口出しさせない。
いつまでも子供扱いしていたら、いつまでも子供のままでいいと思ってしまう。
俺は大人扱いするから、さっさと大人になってもらう。
「子供が子供の面倒をまともに見れるのかよ?」
「何だと?」
メルが駄目ならと、今度は俺に口出ししてきた。
俺に欠点があるのなら、言えるものなら言ってみればいい。
逆にそんなものが存在するなら、教えてもらいたいぐらいだ。
「ハッキリ言って、おっさんに冒険者は向いてないんだよ。娘の事を本当に思うなら、安全な定職に就いた方がいいぜ。このままだと父娘一緒にダンジョンで死ぬだけだ」
「ふぅー、やれやれ。言いたい事はそれだけか?」
「はぁ?」
何を言ってくるのかと少しは期待したが、期待し過ぎたみたいだ。
凡人相手ならばその忠告は的を射ているが、あいにく俺は凡人ではなく超人だ。
可哀想なやつだ。人を見る目が曇っているから、間違って隣の的を射ってしまったようだ。
的の真ん中に矢が当たっても、違う的なら0点だ。
「……やっぱりイカれている。一応忠告はしたからな。ダンジョンに入るなら五階か十階までにして、宝箱の中身を売って生計を立てた方が良いぜ」
「ああ、参考程度に頭に入れておくよ。実行する事はないだろうがな」
まだまだ世間知らずのお子様に、世界の広さを教えてやった。
世の中には想像を絶する怪物がいる。それが俺だ。
可哀想に俺の凄さが理解できずに呆れているが、理解できないのはお前が凡人だからだ。
♢
「さてと、そろそろ行くか?」
「はい、大丈夫です」
メルの身体の熱が落ち着いてきたので、ジェイは休憩を終わらせた。
十八階のモンスターは『砂ザメ』だ。
身体は人間よりも少し大きいぐらいだが、手足を噛まれたら簡単に引き千切られる。
赤錆色の背ビレが砂の中から現れたら、逃げるよりも倒す事に集中しないといけない。
「砂ザメは歩いたり走ったりした時の振動で位置を把握する。ヤバい時はおっさんが立ち止まって、岩弾を離れた地面に発射すればいい」
「なるほど。そうやって誘き出して砂から飛び出した瞬間を、お前がトドメを刺すわけか。分かった、やってみよう」
「いや、俺じゃなくてもいいけどな」
砂漠を歩きながら連携攻撃の話をする。
確かに立ち止まっているなら、近場に岩塊を発射して、近づいたところを岩杭で攻撃すればいい。
岩杭は砂の上じゃなくて、砂の中でも作れる。
もしかすると九階の人面枯れ木と同じで、俺にはボーナスエリアかもしれない。
ジェイがいるから、試して失敗しても問題ないだろう。
「止まれ。モンスターの気配がする」
狩人が砂ザメの気配を感じたようだ。
やる気になったいたところに、やっと出番がやって来たようだ。
「メルは任せた。俺が相手をする」
「はぁ? 本気かよ?」
「当たり前だ。そろそろ俺の本気を見せてやる」
「……分かった。無理すんなよ」
ジェイにメルを預けると、まずは岩壁を砂から突き出させた。
それを両手で押していく。岩壁は不安定な砂の上を滑って横に倒れた。
これで真下からの攻撃に対処できる。岩壁の足場に乗ると赤錆色の背ビレを探した。
ザァーザァー……
「獲物が来たか」
岩壁を倒した振動に気づいたようだ。砂上に赤錆色の背ビレが見えた。
ジェイが弓矢を構えているが、お前の出番はやって来ない。
岩塊を発射して、俺の近くに誘導していく。砂ザメが砂を巻き上げて向かってくる。
ザァーザァー……
「そうだ。もっと近くに来い」
赤錆色の背ビレが岩塊の振動を頼りに、俺の斜め右方向の地面に向かっていく。
足裏から岩壁に、岩壁から砂に魔力を流して、攻撃のタイミングを見計らう。
岩杭で狙うのは頭だ。胸ビレの方が肉は薄いが直撃しても致命傷にはならない。
岩杭は弓矢のように連続発射できないので、一発で勝負を決める。
ドバァッ——
「グガァ‼︎」
「今だ!」
振動のある場所に噛み付こうと、砂上に口を大きく開けた砂ザメが飛び出してきた。
その瞬間に砂の中に集めた魔力を爆発させて、岩杭を突き出させた。
ドスッ——
「グ、グガァー‼︎」
「チッ……威力不足か」
砂から突き出した岩杭が、砂ザメの顎下に突き刺さった。
けれども、岩壁と同じように不安定な地面の所為で倒れてしまった。
砂の上で砂ザメが、顎に岩杭が刺さった状態で暴れている。
「トドメを刺すぞ。いいよな?」
「あっ!」
聞いたくせに、駄目だという返事を聞く前に、狩人は弓矢から束ねた木の矢を発射した。
木の矢が頭に突き刺さると、砂ザメはビクンと痙攣してから動かなくなった。
「余計な事しやがって……」
俺が剣を抜いてやろうとした事を奪われた。




