第30話 間話:メル
「すごく暇……」
週末土曜日の朝、宿屋のベッドで一人でゴロゴロしている。
隊長は「靴を強化してくる」と言って、一人でダンジョンに行ってしまった。
私はおじ様とおば様に見つかったら駄目なので、宿屋で外出禁止になっている。
でも、すごく暇だ。
「靴は持っていかれたけど、武器と指輪があるなら大丈夫かも?」
昨日、ブロンズダガー改を『ウルフダガー』に強化した。
さらにウルフダガーも神鉄と沼ワニの素材を使って、『アイアンダガー』に強化した。
銅色だった刀身は分厚くなって鉄色に変わって、牙のように鋭くなった。
素早くなれる靴は隊長が履いていったけど、私には強化した短剣と筋力上昇LV2の指輪がある。
今の私なら一階のスライムぐらいは倒せると思う。
どうせ、隊長は日曜日の夜まで帰らないから、好きに遊んでも分からないはずだ。
「よし、行ってみよう!」
短剣と指輪を持って、鞄を背負うと宿屋を出た。
今日の目標は『自分の食費は自分で稼ごう!』に決めた。
スライムを五十匹倒したら、換金所でお金に交換してもらおう。
そして、そのお金でお昼ご飯を食べる。
町中をおじ様とおば様に見つからないように進んでいく。
ダンジョンの前も念入りに確認して、人が少なくなった瞬間に……
「今だ!」
と一気に走って、急いでダンジョンの扉を開けて中に入った。
「ふぅー、緊張しました。さあ、出発!」
気合いを入れると長い階段を下りていく。
白い階段から薄茶色いの地面に変われば、地下一階に到着だ。
地下一階は何度も歩き回ったから、地図が無くてもある程度分かる。
まずは真っ直ぐ進んで、分かれ道を左に進んだ。右に進むと地下二階への階段がある。
左にはあまり人が来ないから、スライムが倒されずに残っている。
グニュ、グニュ……
「あっ、やっぱりいた。よぉーし、倒してやる!」
道を歩いていくと、壁をゆっくり這うように進んでいる青色のスライムを見つけた。
スライムの動きは遅いけど、たまにカエルのように飛び跳ねて、体当たりしてくるから注意が必要だ。
「エイッ!」
「……‼︎」
グサッ! 短剣を鞘から抜くと、スライムの身体に下から上に向かって突き刺した。
青色の水が飛び散って、スライムの身体に刀身が根元近くまで突き刺さっている。
完全に突き刺すまでは、まだちょっと筋力が足りないみたいだ。
それでも短剣を素早く引き抜いて、もう一度スライムの身体に突き刺した。
短剣が突き刺さると、スライムはビクンと痙攣して、破裂して消えてしまった。
その代わりに親指ぐらいの大きさの、黒色の魔石が現れて地面に落っこちた。
「よし! 私でも倒せる!」
落ちている魔石を拾うと、背中の鞄の中に入れた。目標は残り四十九匹だ。
お昼前に終わらせて、隊長に内緒で換金所近くの食堂でご飯を食べよう。
おじ様とおば様に見つかると、禁止されているけど、パパッと食べれば大丈夫だ。
♢
「すみません、ここで魔石をお金に替えられますか?」
「んっ?」
目標のスライム五十匹を倒したので、換金所に向かった。
換金所のカウンターは高いから、カウンターの向こう側のおじさんに両手を振って、存在感をアピールする。
頭の先が少しは見えているから、きっと気づいてくれるはずだ。
「あぁ、ごめんごめん! 可愛いお嬢ちゃんだったから見えなかったよ。それで何の用で来たんだい?」
赤毛のおじさんが気づいてくれたけど、私の話は聞こえてなかったみたいだ。
鞄を持ち上げてカウンターの上に置くと、仕方ないのでもう一度話した。
「この魔石とスライムゼリーの換金できますか?」
「あぁ、換金に来たのか。お父さんのお手伝いかい? 偉いねぇ。お父さんはどこかな?」
「いえ、私一人で来ました」
「そうかそうか、それは偉いねぇ。お父さんの冒険者カードは預かっているかな?」
「うっ……」
おじさんは微笑みながら話を聞いてくれるけど、私はカウンターの上に両手で乗っかって話している。
両手がプルプル疲れてきたから、そろそろ椅子でも用意して欲しい。
でも、期待するだけ無駄だと思うから頼んでみた。
「すみません、椅子ありますか? 腕が疲れちゃって……」
「あぁ、ごめんごめん。お嬢ちゃん、すぐに用意するよ。ちょっと待ってて……」
「はぁーい」
頼んだら、おじさんは椅子から立ち上がって、椅子を探しに行ってくれた。
座っていた椅子を渡してくれた方が早いと思うけど、おじさんの椅子は駄目みたいだ。
しばらくしたら、同じような椅子を持ってきた。
「ちょっと重たいよ」
「ありがとうございます」
おじさんにお礼を言うと、カウンターに置かれた大きな椅子を持ち上げて、床に置いた。
椅子の上に膝を立てて座ると、すぐにおじさんが聞いてきた。
「それでお嬢ちゃん、お父さんの冒険者カードはあるかな? それが無いと規則で換金できないんだよ」
「ごめんなさい、お父さんはいないです。一人で来ました」
「そうかぁ……ごめんな。保護者のような人はいるのかな?」
お父さんがいないと言ったら、おじさんがちょっと気まずそうな顔になった。
別にそれはいいけど、早くお昼ご飯を食べたい。早く換金して欲しい。
それなのに質問ばかりしてくるから面倒くさい。
だから、換金できるのか結果だけを聞いてみた。
「いないです。私一人です。私一人だと換金できないんですか?」
「あぁー、一人なんだ……いや、出来ない事はないよ。年齢制限は無いからね。でも、職業を習得してないと駄目なんだよ。ごめんね、お嬢ちゃん。もう少し大人になってから来てね」
「むぅー!」
おじさんは明らかに断る雰囲気で話しているけど、私は盗賊の職業を習得している。
スライムも一人で倒してきたから駄目じゃないと思う。その事をキチンとおじさんに教えた。
「ほぉー、それは凄いな。ちょっと調べてみるから、お嬢ちゃんの頭を触っていいかい?」
すると、おじさんは少し驚いた顔をしてから、調べたいと言い出してきた。
手を触られるのは無理だけど、頭ならギリギリ我慢できそうだ。
「はい、どうぞ」
「すぐ終わるから動いたら駄目だよ……」
「はぁーい」
許可するとおじさんが手を伸ばして、頭の上にポンと軽く置いた。
でも、おじさんの顔が少しずつ怖い感じに変わっていく。
「何だ、これは……ハッ‼︎ お、お嬢ちゃんの名前はメルちゃんでいいのかな?」
「はい、そうですけど……」
名前を教えてないのに、おじさんが私の名前を言ってきた。
きっと『調べる』で私の名前を見たんだと思う。でも、驚く理由が分からない。
「あの腐れ外道め‼︎ やっぱり噂通りの、いや、噂以上のロリロンリーだったのか‼︎ 虐待に暴行……人間のやる事じゃない!」
「……」
何かよく分からないけど、おじさんが顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ怒っている。
職業を習得していると分かったなら、早く換金して欲しいな。




