第25話 間話:メル(心配)
「はむっ、はむっ……」
「昼飯は抜きだから、食えるだけ食え。頑張って晩飯分も食べていいからな」
「うっ、そんなに無理です」
隊長はすぐに予定を変更するから、もう慣れてしまった。
お金がないから、お休みは取消しになってしまった。
要らないと言っていた朝食も、宿屋の食堂で普通に食べている。
外の食堂で食べると、おじさん達に見つかるから危険らしい。
「宿屋の飯は内容の割に高いんだよな」
「焼きたての甘いパンは美味しかったですよ」
二人合わせて朝食代は千ギルだった。
朝食を食べ終わると、宿屋を出て、すぐ近くのダンジョンを目指した。
隊長は値段に文句を言っているけど、たくさん食べさせられた。
正直、食べ過ぎてお昼まで動きたくない。
「そうだな。パンは食い放題だから、昼飯分も食べれば元は取れるな」
「はい、お腹パンパンです」
「ククッ。確かにパンパンだな」
苦しそうに膨らんだお腹を触ると、隊長がおかしそうに笑っている。
頑張って十四個も食べたのに、隊長はたったの五個食べて、ごちそうさましていた。
隊長には食べ放題は向いていない。
その辺のパン屋で、二個二百四十ギルで買った方がいい。
「よし、急いで入るぞ」
「はい!」
ダンジョンの入り口に、おじさん達がいないのを確認すると、一気に駆け込んだ。
隠れんぼみたいだけど、見つかったら、私だけ家に連れて行かれる。
隠れるのが辛くなったら、早く見つけてもらえるように頑張ろう。
♢
「まずは一階を徹底的に調べる。入り組んだ場所のモヤの反応を知りたい」
「お金は稼がなくてもいいんですか?」
地下一階に下りると、隊長が今日の予定を話してくれた。
だけど、朝食と夕食を合わせた二人分の宿屋代は六千ギルだ。
私がスライムを一日中倒しても、三千ギルぐらいだから、お金が足りない。
「稼ぐに決まっている。安心しろ。金を稼ぎながら、戦力を強化する方法を考えている」
「そうだったんですね。余計な事言って、ごめんなさい」
「別にいい。さっさと行くぞ」
とりあえず謝っておいた。お金の心配をしたら、隊長は頭を自慢気に指差した。
多分、上手くいかなかったら、すぐに変更になると思う。
隊長は思いつきで行動するから、言っている事はいつもペラペラの薄々だ。
「ハァッ! ヤァッ!」
時間の節約だと、今日は隊長がスライムを倒していく。
私は落ちている魔石とスライムゼリーの回収を任された。
多分、他の階でも同じように進んでいくと思う。
私は凄く楽だけど、スライムぐらいは倒させて欲しい。
魔石拾いだけだと、ちょっと暇すぎる。
「あっ、モヤモヤします!」
「よし、ちょっと待ってろよ……」
急に頭の中の天気が、晴れから曇り空に変わったから、隊長に報告した。
この不思議な感覚にも慣れてきた。
隊長は地図を取り出して、何かを確認している。
「三百メートル以内に行き止まりがある。そこに宝箱があるんだろう。逆に三百メートル先が行き止まりなのに、反応がないなら宝箱はない。わざわざ確認する必要がなくなったから、時間短縮できるな」
「うーん、どうしてですか?」
よく分からないから聞いてみた。
隊長は広げた地図を見せて、説明を始めてくれた。
私のモヤ範囲は約三百メートルだから、反応が無い時は調べる必要がないそうだ。
「往復六百メートルの節約になった」と隊長は凄く喜んでいる。
宝箱を早く回収して、次を探した方がもっと節約になると思う。
「本当にありました」
「当たり前だ」
隊長の言う通りに宝箱が行き止まりにあった。赤い宝箱を開けて中身の神銅を回収した。
神銅は千ギルで売れるから、これだけでも結構な収入になる。
「これを売れば、赤字にはなりませんね」
「売るなら、ある程度強化して高く売った方が良いぞ。冒険者ギルドはそれで儲けているからな」
「これがそんなに高く売れるんですか?」
私のブロンズダガー改を見せて、隊長に聞いてみた。
神銅を八個も使っているから、八千ギルで売れると思う。
そう思ったんだけど、「そんな弱い短剣は誰も買わない」と言われてしまった。
言い方が酷すぎる。
「高額で売れるのは、神具図鑑に載っていない武器だけだ。誰でも作れる武器は誰も買わない」
「でも、強化方法が分からない武器は作れませんよ」
「その通りだ。冒険者ギルドが情報を秘密にしているから作れない。奴らは換金所で素材を楽に手に入れて、楽に強化して、楽に高値で売っている。金に汚い亡者達だ」
「……」
隊長とどこが違うのか分からない。
でも、強化方法が分からないから、高く売れないのは分かった。
隊長の無駄話に付き合わされて、また時間を無駄にしている。
結局、神銅は普通に千ギルで売るみたいだ。
「じゃあ、これは売るんですね?」
「お前は何を言ってるんだ? 俺の話をキチンと聞いていたのか?」
「すみません……」
叱られた理由は分からないけど、とりあえず謝った。
複雑な気分でいると、隊長が冒険者手帳を自信満々に見せてきた。
「この手帳には、俺が使っている剣の作り方が書いてある。凄い剣を量産できるというわけだ」
「それは凄いですね」
「安心しろ。まずはお前の短剣を鍛えた後だ」
「ありがとうございます」
そんな心配は少しもしていないけど、隊長の目にはそう見えるみたいだ。
だったら、それが正解でいいと思う。否定するだけ時間が勿体ない。
そして、隊長も強化方法を隠しているから、金に汚い亡者みたいだ。
でも、それはもう知っているから、教えてくれなくても大丈夫です。
「よし、話は終わりだ。今日中に二階まで調べるぞ。一日二階ずつは調べられるだろうからな」
「はい」
今日の予定がまた決まったみたいだ。でも、やっている事はいつもと変わらない。
隊長の頭の中だけは、キチンと良い方に毎回変化しているみたいだ。
色々な意味で、ちょっと隊長の頭が心配になってきた。




