第21話 モヤモヤ病
六時間後……
「起きろ。時間だ」
「んんっ……?」
睡眠時間は終わりだ。
毛布に包まって寝ている、メルの身体を揺さぶって起こす。
やっぱり疲れているのか、なかなか起きない。
大人なら足蹴り一発で起こせるのに、それをやったら駄目なのは分かる。
今のメルは下着一枚で寝ている。
「んっ、隊長……おはようございます」
「ここは家じゃないぞ。さっさとシャキッとしろ」
「はぁーい……」
緊張感のない声で、目をゴシゴシ擦ってどう見ても寝惚けている。
早く眠気を吹き飛ばしてもらわないと、出発できない。
水袋を渡して水を飲ませた。これで少しは目も覚めるだろう。
「体調はどうだ?」
「もぐっ、もぐっ……何ともないです」
「それは良かったな」
絞って放置した生乾きの服を着ると、メルは朝飯を食べ始めた。
体調を聞いたら問題ないそうだ。食欲もあるから大丈夫だろう。
食べ終わると階段を下りて、地下十二『沼地』に到着した。
「モヤモヤはどうだ?」
「うーん、何にも感じないです」
「それじゃあ、沼ワニの素材を手に入れたら帰るぞ」
「了解です」
ゾクゾクでも、トントンでもいいから、宝箱の気配を感じてほしい。
まあ、無理を言っても仕方ない。今は出来る事を優先する。
十二階に生息する『泥ワニ』というモンスターから牙を二本、皮を三枚手に入れる。
泥ワニの素材と神鉄三個で、ブロンズダガー改を強化した後の短剣を強化できる。
先の先の未来の為の行動だ。
「水溜りの中に隠れている時もある。姿を見たらすぐに知らせろよ」
「はぁーい、分かりました」
泥ワニは全長三メートル、見た目は巨大なトカゲで、ゴツゴツした背中は非常に硬い。
四本の足で這うように素早く走って、鋭い牙が並んだ大きな口で噛み付いてくる。
噛まれたら終わりだと思って、命懸けで探してもらう。
「あっ、隊長!」
「どこだ?」
メルの声に素早く反応して、周囲を警戒した。
沼ワニの背中は硬いが腹の方は柔らかい。地面からの岩杭攻撃が効果的だ。
素早く見つけられれば、十分に魔力を溜めて、正確に狙う事が出来る。
「いえ……沼ワニじゃなくて、モヤモヤです」
「何だ、そっちか」
沼ワニを警戒していたのに、例のモヤモヤ病が出たようだ。
少し呆れながらも、剣を抜いて地面に線を引いた。
宝箱探知が関係しているのなら、キチンと調べないといけない。
おそらく、モヤの正体は勘や気配みたいなものだ。
宝箱の境界線に入ると、モヤを感じるのだろう。
予想を確かめる為に、来た道を少し引き返した。
「あっ、消えました!」
「ここだな。今度は今の道を引き返して、そのまま真っ直ぐ進んでいくぞ」
モヤが消えた所に剣で線を引いて、地魔法で作った岩槍を地面に突き刺した。
「あっ、モヤモヤです!」
「分かってる、分かってる」
また同じ道を引き返すと、すぐにモヤを感じたと言ってきた。
俺の予想通りのようだ。そのままモヤの中を進んでいく。
反対側の境界線までの距離を調べたい。
「モヤに強弱はないのか?」
「そういうのはないです。普段は明るくて、モヤに入ると暗くなる感じです」
「つまりはアビリティが反応する範囲が暗くなるのか」
モヤの中を歩いていくが、強弱はないそうだ。
一番暗い場所を探せば楽なんだが、そういうわけにはいかないようだ。
だけど探すヒントは、これだけあれば十分だ。
宝箱を中心に半径百メートルあるのか知らないが、アビリティが反応する範囲がある。
モヤを感じた場所の端から、モヤが消える端までの歩数を数えればいい。
それだけで宝箱探知の効果範囲と、中心までの距離が分かる。
実に簡単すぎて問題にもならない。
おそらく、最初にメルがモヤを感じた時、すぐにモヤが消えたのは、開けた宝箱が消えたからだ。
移動もしてないのに、モヤが消えた理由があるとしたら、それしかない。
開けた宝箱も消えるまでは反応するようだ。
だとしたら、昨日の十一階のモヤの近くにも、宝箱があった事になる。
あの時に気付いていれば、手に入れられたのに勿体ない事をした。
あの時に通った道は覚えているから、帰りに探すとしよう。
「はい、消えました」
「六十二歩か。短いな」
二分も歩いてないのに、メルが右手を上げた。
一歩八十センチ計算で、五十メートルとちょっと短すぎる。昨日のモヤはもっと長く続いていた。
角度を変えて、もう一度計測した方が良さそうだ。三回やれば、正確な距離も分かるだろう。
「はい、消えました」
「今度は二百六十二歩か……」
二回目の計測で、二百メートルも反応する範囲があると分かった。
昨日もこのぐらいの距離だった気がする。
次は百二十歩付近に宝箱がないか、念入りに調べてみるか。
「宝箱と沼ワニを見つけたら、すぐに言うんだぞ」
「はい、任せてください!」
数を数えるのに忙しい俺に代わって、メルに周囲の警戒をさせる。
計測中に三匹の沼ワニを倒しているから、この辺はかなり安全になっている。
「はい、消えました」
「今度は三百六十歩か。かなり長くなったな」
三回目の計測で、三百メートルもモヤが続いた。あまりにも距離がバラバラ過ぎる。
これだと一個の宝箱の反応なのか、二個の宝箱の反応なのか分からない。
「今度は百八十歩付近を調べるんですか?」
「ちょっと待て、考え中だ……」
百二十歩付近は水溜りの中も念入りに探してみたが、宝箱は見つからなかった。
円の中心までの距離が正確に分からなければ、また無駄な泥水遊びをする事になる。
「よし、まずは円の外周をハッキリさせる。進む角度さえ間違えなければ問題ない」
新しい作戦を考えた。モヤの境界線に線を引いていく。
境界線を視覚できるようになれば、反対側に真っ直ぐに歩いていける。
正確な円の直径が分かれば、中心までの距離が分かる。
今度こそ、宝箱を見つけられるはずだ。




